第20話 意外な場所
『受話器をもどして5分ほど待ってくれ。迎えのクルマをだすから』
そういうと、相手は一方的に通話をきった。
いわれたまま、電話スタンドの前にたたずんで待っていると、重々しいエンジン音が響いてきた。
黒塗りの大型セダンだ。
フロントグリルにLのマークがある。政府の公用車でよく使われるレクサスLS600hlだ。
レクサスは光太郎の前に停車すると、後部ドアを開いた。
(これに乗れということか……)
若干の警戒心を抱きつつ、光太郎は後部ドアから車内に乗り込み、革張りのシートに身を沈めた。
光太郎の他になかにいるのは運転席のドライバーだけだ。
どうやらドアはタクシーのような自動開閉装置になっているらしい。バタン、と後部ドアが閉まり、運転手が無言でレクサスを発進させた。
「どこへゆく?」
とは光太郎はきかない。
黙って乗った以上はきくだけ無駄だ。レクサスは高台を下って幹線道路にでると、市の中心部へとまっすぐ向かっている。
たいした混雑もなく、レクサスは20分ほどで目的地に到着した。
東棟と西棟に別れた近代的な建築様式のツインタワービル。宇留川市役所の本庁舎ビルだ。
(市役所……?!)
意外であった。送迎車の車格からして市のはずれの豪邸にでも案内されるのかと思った。
レクサスは本庁舎の地下駐車場に侵入すると、割り当てられた所定の位置の駐車スペースに停まった。
エンジン音の停止とともに後部ドアが再び開く。
「お降りください。東塔の最上階、11階の市長室で舞鶴市長がお待ちです」
運転手がおごそかな口ぶりでいった。
「舞鶴市長……?」
光太郎は宇留川市の市長とはなんの面識もない。戸惑いながらレクサスを降りると、その足で東塔のエレベーターの箱に乗った。
11階の最上階に着く。
天井から吊るされた案内表示のプレートを頼りに市長室の前まできた。
なぜか心臓が高鳴る。脈拍も早くなっている。
光太郎は一瞬ためらいながらもドアをノックした。
「どうぞ。入りたまえ」
ドアの向こうから声が響いてきた。
それは受話器から聞こえた声と同じものであった。
つづく




