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戦闘市長ジャステッカー  作者: 自由言論社
第4部 ビギニング! 戦士の誕生
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第14話 罠


死体が積み重なる万人坑の“底”の部分に降り立つと、ぶわっと音をたてて蝿の大群が舞い立った。

物凄い死臭だ。光太郎たち三人は思わず鼻を押さえた。

雲間から再び月があらわれ、“底”を薄く照らしだす。


「おえっ!」


古谷が嗚咽を漏らした。ウジがわいた腐乱死体が肉の泥となって溶けている。

的場はすでに“洗礼”を受けているので、顔をしかめただけで折り重なる死体をかきわけ、脱出口を探りあてた。


「ここだ。ここから外にでれる」


大人ひとりが這って進むほどのおおきさだ。まずは小柄な的場が先導役となってなかに潜り込む。

つづいて古谷、しんがりは光太郎の順だ。


「光がみえるぞ」


古谷が口を押さえながらくぐもった声でいった。


「外につながっている証拠だ。あの光を目指してまっすぐ進めばいい――ん?」


 急に的場がとまった。


「どうした?」


的場の尻に頭をぶつけて古谷がきく。


「道が二手に分かれている。おかしいな、前は一本道だったはずだ……」


前方から差し込む淡い光も2方向からきているようだ。


「勘を頼りに進むしかない。右だ」


的場は右の道を選ぶとさらに這い進む。

古谷も的場につづこうとする。こうなれば的場の勘を信じるしかない。

しかし光太郎はなぜだか嫌な胸騒ぎを覚えていた。


「やめろ。右はダメだ」


光太郎は右に折れようとする古谷のスボンの裾をつかんだ。


「離せ。この抜け穴は的場が見つけたんだ。的場を信じるしかないだろ」


的場はすでに奥へと進んでいる。


「いや、ダメだ。的場に引き返すように――うわっ!」


そのときだ、急に抜け穴自体が傾き、古谷と光太郎は左の穴道へと坂を転げるように滑り落ちていった。


ダダーン!!


固いざらざらとした床に背中と腰を打ち付け、光太郎はうめいた。

真横で同じく古谷もうめき声を漏らしている。


「なかなか運がいいな、おまえたち」


頭上から声が響いてきたかと思うと、カッと目もくらむような照明が灯った。


「!!―――」


そこに立っていたのはムチを手にした昼間の監督官であった。56式を構えた警備兵を5人、脇に従えている。

光太郎は瞬時にさとった。これは罠だ。罠にはめられたのだ。


「あれをみろ」


監督官は丸めたムチの柄の先で正面の壁を指した。


「的場!」


的場がこちらに向かってガラスの壁をどんどんと叩いている。


「おまえたちは実験室の観測室に落ち、そしてあいつは向こう側へと落ちた。この意味はわかるな」


「実験室?」


光太郎は監督官に聞き返す。まさか――?!


「そう、日本軍が残したイペリット化学弾――すなわち毒ガス兵器の実験室がここなのだ」


「!!―――」


光太郎も古谷も声を失った。――ということは、的場はこれから実験動物のように毒ガスを浴びせられる運命なのか?!


「やめろ! やめてくれ!」


古谷が悲鳴のように叫んだ。

だが、監督官の表情に変化はない。


「我が大陸には日本軍が残した毒ガス兵器がそれこそ山と埋まっているそうだ。

先祖たちを苦しめた極悪非道の毒ガス兵器を浴びて死ぬというのも、立派な贖罪というものだろう」


 平然と虚言を弄する監督官に光太郎は立ちあがった。


「デタラメをいうな! 日本軍の毒ガス兵器を埋めたのはおまえたち労産党軍だろう。おまえたちは酷民党軍を殺すため、日本軍の兵器を接収したソ連軍から譲り受けたんだ!」


その瞬間、警備兵の56式の銃口がいっせいに光太郎に向けられた。

監督官が軽く手を挙げて警備兵たちを制す。


「まだ殺すな。こいつらは見せしめに必要だ」


「見せしめ?」


「そうだ。本当は三人とも実験室に放り込んでやりたいところだが、そうもいかん。最近、おまえたち収容労働者の労務態度が緩んできておってな。

そこでおまえたち二人を明日の朝、全収容者の前で公開処刑することにした」


「ッ!!」


「あいつと違って銃殺だ。一瞬で死ねる。ありがたく思え」


監督官はそういうと、横の壁際の操作卓に陣取るオペレーターに合図した。

実験室の床から黄色いガスが内部に忍び寄り、的場がひときわ激しくガラス壁を叩く!

防音仕様になっているのだろう。的場の叫び声は聞こえない。

だが、光太郎と古谷には無音の悲鳴が、その表情を通して耳に心に響いている。


「的場ッ!」


毒ガスに触れた的場の皮膚が溶け、赤い筋肉の繊維が剥きだしになった。

古谷が思わず目をそむける。

光太郎は激しい憎悪の目で監督官を振り返った。


糜爛性びらんせいの腐食ガスだ。さすが日本軍の兵器だ。優秀にして残酷だ」


「残酷なのはおまえだッ! この人でなしがッ!」


光太郎は吠えた。

 できるものならこの監督官をガス室に放りこんでしまいたい。


「こいつらを独房に放りこめ!」


警備兵が光太郎と古谷の両脇を固めて引っ立てた。

部屋をでる際、光太郎はちらりとガス実験室をみた。

そこに的場の形はなく、朱色の肉塊だけがあった。

光太郎は的場の死を悼むとともに戦慄した。

人民弾圧軍の科学陣は明らかに“改良”を加えている。

この毒ガス兵器がもし、日本のこの地で使われるとしたら……。

明日、銃殺が待っている光太郎だが、彼は危惧した。

龍国は“本気”なのだと。

本気で日本を略奪にきているのだ。


つづく



消費増税が延期になるのはいいことだが、どうせなら5%に引き下げてもらえないだろうか? 1円玉がじゃらじゃらするのはちょっと…(^^;

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