第12話 一杯の芋粥
収容所の食堂で食事(といっても芋粥だが)が運ばれてくるのを待つ間、光太郎は同房の古谷と的場に山田の死を知らせた。
「そうか……」
といったきり古谷は口をつぐみ、的場はなにもいわなかった。
同房者の死はこれがはじめてではない。
途中から数えるのをやめたが、その多くは作業中に倒れ、用済みの銃弾を打ち込まれて“穴”のなかに放り込まれた。
そのいちいちに反応していたら、こっちの精神が持たない。同房者に対しては仲間意識など持たず、淡々と接するのが雑居房の不文律となっていた。
山田の死で光太郎たちのいる雑居房は三人に減ってしまった。また明日には新たな“人権侵害者”が送り込まれてくるだろう。
「メシだ!」
「メシがきたぞ!」
食堂内がざわついた。粗末な芋粥だが、ないよりはいい。当番のものたちが運んできたずん胴の前に、たちまちアルマイトの皿を持った収容者たちの列ができる。
古谷と的場の後ろに光太郎も皿を持って並んだ。
古谷の右手には包帯が巻かれている。作業中にどうやらケガをしたようだ。
ガシャーン!
古谷が芋粥の盛られた皿を落とした。
薄汚れた床に芋粥が散らばる。
古谷が給仕係の当番のものをみた。
給仕係が首を振る。
食堂の壁際には龍国人の監督官が目を光らせている。一人一杯が食堂内の厳則だ。このルールを破れば、今度は給仕係が罰せられる。
「すまない」
給仕係は古谷と目を合わそうとせず、的場の皿に粥を盛った。
古谷の腹がぐう……と鳴った。
今夜、メシ抜きでは明日働けない。山田のように作業中に倒れ、“穴”に放り込まれてしまうだろう。
古谷はひざをついた。
ひざをついて、散らばった芋粥を手ですくいとろうとした。
「やめろ」
光太郎が古谷にいった。
這いつくばった古谷の顔の横に自分の芋粥を差し出す。
「あんた……」
古谷が驚いたような目で光太郎をみた。
「いいから。おれは食欲がないんだ」
光太郎は無理にほほ笑んでいった。
「すまない……」
古谷は光太郎の芋粥を両手で拝むようにして受け取った。
「おい、おれたちだけで脱けだすんじゃなかったのか?」
「いや、あいつも一緒だ」
空腹で熟睡できず、うとうとしていると古谷と的場のひそひそ声が耳に入ってきた。
二人は小中高と同じ学校に通った親友で、互い以外のものとは親しく口をきかず、それは光太郎に対しても同じであった。
「おい、起きろ、起きてくれ」
古谷が光太郎の肩をつかんで揺すった。
光太郎は目をこすると半身を起こした。
格子窓の向こうに三日月がみえる。
寝ぼけ眼の光太郎の腕をつかんで立たせると、古谷が驚くべきことをいった。
「おれたちはいまから脱走する。おまえもこい!」
それは完全に眠気を吹き飛ばす一言だった。
つづく
「一杯のかけそば」みたいなサブタイですが、ほっこりできるかどうかはまだわかりません(^^;




