表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘市長ジャステッカー  作者: 自由言論社
第4部 ビギニング! 戦士の誕生
46/65

第12話 一杯の芋粥



収容所の食堂で食事(といっても芋粥だが)が運ばれてくるのを待つ間、光太郎は同房の古谷と的場に山田の死を知らせた。


「そうか……」


といったきり古谷は口をつぐみ、的場はなにもいわなかった。

同房者の死はこれがはじめてではない。

途中から数えるのをやめたが、その多くは作業中に倒れ、用済みの銃弾を打ち込まれて“穴”のなかに放り込まれた。

そのいちいちに反応していたら、こっちの精神が持たない。同房者に対しては仲間意識など持たず、淡々と接するのが雑居房の不文律となっていた。

山田の死で光太郎たちのいる雑居房は三人に減ってしまった。また明日には新たな“人権侵害者”が送り込まれてくるだろう。


「メシだ!」

「メシがきたぞ!」


食堂内がざわついた。粗末な芋粥だが、ないよりはいい。当番のものたちが運んできたずん胴の前に、たちまちアルマイトの皿を持った収容者たちの列ができる。


古谷と的場の後ろに光太郎も皿を持って並んだ。

古谷の右手には包帯が巻かれている。作業中にどうやらケガをしたようだ。


ガシャーン!


古谷が芋粥の盛られた皿を落とした。

薄汚れた床に芋粥が散らばる。

古谷が給仕係の当番のものをみた。

給仕係が首を振る。

食堂の壁際には龍国人の監督官が目を光らせている。一人一杯が食堂内の厳則だ。このルールを破れば、今度は給仕係が罰せられる。


「すまない」


給仕係は古谷と目を合わそうとせず、的場の皿に粥を盛った。

古谷の腹がぐう……と鳴った。

今夜、メシ抜きでは明日働けない。山田のように作業中に倒れ、“穴”に放り込まれてしまうだろう。

古谷はひざをついた。

ひざをついて、散らばった芋粥を手ですくいとろうとした。


「やめろ」


光太郎が古谷にいった。

這いつくばった古谷の顔の横に自分の芋粥を差し出す。


「あんた……」


古谷が驚いたような目で光太郎をみた。


「いいから。おれは食欲がないんだ」


光太郎は無理にほほ笑んでいった。


「すまない……」


古谷は光太郎の芋粥を両手で拝むようにして受け取った。




「おい、おれたちだけで脱けだすんじゃなかったのか?」


「いや、あいつも一緒だ」


空腹で熟睡できず、うとうとしていると古谷と的場のひそひそ声が耳に入ってきた。

 二人は小中高と同じ学校に通った親友で、互い以外のものとは親しく口をきかず、それは光太郎に対しても同じであった。


「おい、起きろ、起きてくれ」


古谷が光太郎の肩をつかんで揺すった。

光太郎は目をこすると半身を起こした。

格子窓の向こうに三日月がみえる。

寝ぼけ眼の光太郎の腕をつかんで立たせると、古谷が驚くべきことをいった。


「おれたちはいまから脱走する。おまえもこい!」


それは完全に眠気を吹き飛ばす一言だった。



つづく


「一杯のかけそば」みたいなサブタイですが、ほっこりできるかどうかはまだわかりません(^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ