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戦闘市長ジャステッカー  作者: 自由言論社
第4部 ビギニング! 戦士の誕生
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第11話 地獄の強制労働


「もたもたするな、働けッ!」


龍国人監督官のムチが飛び、目の前の男が倒れた。

土砂を運んでいた光太郎は手押し車を倒すと男に駆け寄り、肩をつかんで抱き起こす。

男の息が荒い。苦しそうに胸を押さえている。


「おい、おまえ、作業にもどれッ!」


監督官が光太郎に叱声を飛ばした。

胸を押さえた男は口をおおきく開けると、ガッと大量の血を吐き出した。


「病院へ連れていってくれ! もう、このひとは働けない!」


光太郎は龍国人監督官に訴えた。

唇の薄い、吊り上がった目の監督官は酷薄そうな顔をぐいと近づけると――


「なるほど、確かにおまえのいうとおりだ」


男の顔は紙のように白く、作業服の襟元にはいま吐き出したばかりの血がべっとりとついている。

龍国人監督官は制服のズボンの腰に吊るしたホルスターからトカレフを抜くと、なんのためらいもみせずに男に向かって発砲した。


「なっ!」


光太郎の腕のなかで男は死んだ。胸に一発、即死であった。


「おまえ、その男を“穴”のなかに放り込め。2分でもどって作業をつづけろ、いいな!」


ホルスターにトカレフをしまうと、龍国人監督官はムチを鳴らしながら去っていった。

光太郎は激しい憎悪の目で監督官の背中をねめつけると、骨が鳴るほどきつく拳を握りしめた。



民衆党政権が誕生し宇留川市に人権監視委員会が設置されると、光太郎は『在留外国人への差別的言動』の容疑で当局に逮捕拘束された。

光太郎は再教育キャンプへ送られ、衣服や携帯、時計、財布の類いはすべて没収された。身につけていたお守りも、東トルキスタンの現状をおさめたメモリーカードもすべて剥ぎ取られた。

唯一、難を逃れたのは、謎の携帯番号を記した紙片であった。逮捕時、光太郎がすばやく丸めて捨てたため、あの番号が監視委員会に知られることはない。


『おまえ、捕まるぞ。宇留川から逃げろ』


うるるんの警告は本当であった。いまとなっては、うるるんの中の人がだれかは知る由もないが、あの警告にすばやく反応していればいまの境遇は避けられただろう。


逮捕拘束された光太郎は、龍国領事館の建設予定地に送り込まれた。

10万坪の広大な国有地を払い下げられたその場所は、日本の法律が及ばない治外法権の“外地”であり、光太郎たち“人権侵害者”はそこで苛酷な労働を強いられた。


朝5時に起床。すぐさま建設現場に駆り出され、昼の一時間休憩を挟んで、その労働は夜の8時まで続く。地獄の14時間労働である。

食事も昼に固いパンが一個、夜に芋粥が一杯といったお粗末さだ。

当然、体を壊して作業中に倒れるものがあとを絶たなかった。苛酷な労働に耐え兼ねて収容所で自殺を図ったものもいる。


光太郎がこの建設現場に送り込まれて3年の歳月が流れた。

頬はげっそりと肉が削げ、髪はぼさぼさで指は節くれだっている。いまの光太郎を知人がみても、だれも彼だとわからないだろう。


光太郎は撃たれて死んだ男を手押し車のなかに乗せると、“穴”と呼ばれる場所に向かった。

深さ10メートルほどの縦穴である。光太郎が穴のなかを覗き込むと、すでに“先客”が三人いた。この日だけでも計4人が殺された。

龍国人監督官たちはこの穴を“万人坑”と呼んでいた。“日本軍が満州の炭鉱で龍国人労働者を殺して埋めた”とでっちあげられた、あの万人坑である。


『おれたちの先祖がああやって殺されたのだから、これは仕返しだ』


――との気持ちが龍国人監督官の間で共有されていた。それは間違った思い込み以外の何物でもないのだが、その思い込みこそが罪悪感の緩和装置となり、いくらでも残虐になれる役割を果たしている。


光太郎は撃たれた男を穴のなかに落として、上から土をかけると手を合わせた。この男の名は山田といった。山田は光太郎と同じ雑居房の仲間で、同年代の平凡な会社員であった。

彼は人種差別やヘイトスピーチをしたわけではなく、北〇〇に経済制裁をすべきだ、とツイッターでつぶやいただけで逮捕拘束された。


雑居房に放り込まれたものたちはすべてが、この程度の政治的な発言者にすぎない。『従軍慰安婦は捏造』『南金大虐殺は虚報』との認識をブログやSNSで示しただけで“人権侵害”の疑いをかけられ、再教育キャンプからこの地獄の建設現場へと送りこまれたのだ。


民衆党政権は沖縄の基地問題でアメリカを敵にまわし、龍国べったりの政策をとっていた。

龍国人のビザ取得や帰化(日本国籍の取得)を簡易化。海上保安庁の巡視船に体当たりしてきた龍国人船長を釈放し、人民弾圧軍所属のスパイを秘書に雇って農水省の機密文書を盗ませるといった売国的行動にエスカレートしていった(李春光事件)。


民衆党が龍国寄りに舵をきったのには理由がある。もともと民衆党は支持基盤が役人の労働組合しかない脆弱な政党であった。

その脆弱政党が向こう受けを狙って、『企業献金の禁止』などというスローガンをかかげたため、政治資金に事欠くようになり、在日半島人や在日大陸人の組織に頼らざるを得なくなったのだ。

その場凌ぎのバラマキ政策によって国庫の危機を迎えた民衆党政権は消費税アップを宣言し国民の怒りを買った。選挙前は『消費増税はしない』と明言していたにも関わらず……。

これは明確なマニフェスト詐欺であった。

詐欺の片棒を担いだのはマスコミであったが、そのことには片言も触れず、次第に民衆党政権を非難するようになる。

 期待された“事業仕分け”もパフォーマンス倒れに終わり、民心は急速に民衆党から離れていった。

雇用は伸びず失業率は増加、平均株価も一万円を割り込み、長期低迷をつづけている。いまや民衆党政権は完全に“死に体”と化していた。


光太郎は土砂を運搬する作業にもどった。

山林を切り開き、固い岩盤を砕いて慣らした土地に巨大な構造物が建てられ、光太郎たち収容労働者はその周りを整備する作業に従事させられている。

その構造物の高さは約30メートル。上にゆくにつれ、細く尖ってゆく尖塔を模した形だ。

 正面玄関には毛沢山の肖像画が掲げられ、収容労働者の間ではこの塔を八路タワーと呼ぶようになっていった。


陽はとっぷりとくれ、その日の労働は終わった。

光太郎は高圧電流が流れる鉄条網の外をみた。

この金網の向こうに日本はある。

そしてここは“龍国”でいっさいの人権はない。

光太郎は夜のとばりが降りた周囲を見渡した。

サーチライトが走り、監視塔には56式を構えた警備兵がいる。

だめだ。ここからは脱けだせない……。

光太郎は絶望のため息をひとつ漏らすと、重い足を引きずるようにして収容所施設へともどってゆくのであった。


つづく


3年3ヶ月の失政の裏にはこのような悲惨なことが…マニフェスト詐欺の片棒を担いだヤツ、でてこい(゜д゜)!

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