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戦闘市長ジャステッカー  作者: 自由言論社
第4部 ビギニング! 戦士の誕生
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第4話 青いバンダナの男



北条美織と最後に会った、国道沿いの街路樹に囲まれた公園に光太郎はきていた。


『もう、遅いの。もう……白坂くんには会えない』


水銀灯の下、涙混じりの美織の言葉が胸によみがえり、突き刺さる。


(ぼくが愛したひとはみな、ぼくから離れてゆく……)


どうすることもできない重い孤独を抱えて光太郎はベンチに腰を下ろした。

冬枯れの朽ち葉が目の前にひらひらと落ちてくる。

陽差しは弱く、時折木枯らしが吹きすさんで土煙を舞いあげた。

世界は灰色に閉ざされていた。

風景は消え、靄のようなものが辺り一面に漂っている。

色を失った世界でどこからか音楽が聞こえてきた。

ノリのいいダンスミュージックだ。

光太郎は思わず立ち上がった。

目の前でだれかが踊っている。

だれだろう? まだ若い。青い縞模様のバンダナを頭に巻いて白いだぶだぶのトレーナーを着た男の人だ。


それは軽快なストリート系のダンスだった。

ヒップホップを主体とし、ジャズやロック、ハウス系の短いステップなどを取り入れた、自由度の高いダンスだ。


「そんな暗い顔してないできみも踊ったらどうだい?」


バンダナの若い男がいった。

光太郎は周囲を見回し、自分を指さした。


「きみとぼくしかいないよ。辛いこと、哀しいことがあったら踊るのが一番さ」


男はそういうと、くるっと鮮やかなターンを決めた。

光太郎の体が次第に動きだす。

音楽のリズムに乗って男の動きを追う。


「ぼくのマネをしなくていいよ。きみはきみだ。心の赴くまま自由に踊ればいい」


男の言葉にはげまされ、光太郎は心と体が命ずるまま、手足を動かし、ステップを踏んだ。

ダンスといえばラジオ体操程度のものしか経験のない光太郎であったが、ぎくしゃくすることなく、スムーズに体が動いた。

スタンダードな立ち踊りだけではなく、ロッキングやブレーキングも自然とこなせるようになり、自分でもサマになってきているのがわかる。


なにより心が軽くなっていた。つい先ほどまで、世界中の悲劇をひとりで背負い込んでいたような、そんな重しがとれている。


音楽が鳴り止むと同時に男がフィニッシュを決めてポーズをとった。

あまりのかっこよさに光太郎が思わず拍手した。


「すごい。かっこいい!」


こんなにはしゃいだのは久しぶりだ。光太郎は男にきいた。


「それ、なんというダンスですか?」


男がいった。


「うるるんダンスだよ」


「うるるんダンス?」


きいたことのないダンスだ。この男の創作だろうか?


「きみは将来、このダンスを踊って市民の自由と平和を守るんだ」


「え?」


光太郎は思わず聞き返した。この男のいってる意味がわからない。


「いまにわかる。このダンスがきみときみのいる世界を救うときがくる」


男がきっぱりと断言した。光太郎は首をかしげるばかりだ。


「その日まで、そのときまで……頑張れ、弟よ」


「ッ?!」


青いバンダナを巻いた男はにこっと笑うと、白い闇の彼方に消えた。


「待っ…待ってください!」


光太郎が男を追おうとしたとき、彼を包んでいた世界は色を取り戻した。


「――――!!」


現実に引き戻された気分であった。

光太郎は周囲をぐるりと見回して場所を確認した。

自分が美織と最後に会った公園だ。それは間違いない。

感傷に浸るため、光太郎はこの公園に足を運んだ。そして――


ぼくのことを『弟』と呼んだ、あの若い男はなんだったのか?

ぼくはいままで夢をみていたのだろうか?


まるで白日夢だ。

過度のストレスがこのような幻覚をみせたに違いない……。

光太郎はそう思うことにした。

それでも彼は“幻覚”に救われた。

刻んだリズムとステップがまだ体の中に残っている。

心のエンジンに火はついた。

淀むのはやめだ。

光太郎は前を向いた。

自分にできることはなにか見つけるのだ。

光太郎は走りだした。

未来あすに向かって――。


つづく


今週は強化週間(なんの?)となりそうです(^^;

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