第3話 つくられた叫び
「ジャステッカーを逮捕しろーーッ!」
「逮捕しろーーッ!」
「逮捕しろーーッ!」
「ジャステッカーは市民の敵だーーッ!」
「敵だーーッ!」
「敵だーーッ!」
宇留川中央警察署前を取り囲んだ『市民団体』は幟や旗、プラカードを掲げてシュプレヒコールを繰り返し、気勢をあげた。
プラカードを掲げているもののなかには、『原発再稼働反対』とか『九条を守れ』とか、『職場環境の改善』や『最低賃金の保証』などといった、ジャステッカーとはまるで無関係の主張を唱えるものも数多く見受けられる。
『市民』が集まる発端は、ジャステッカーの被害にあった主婦のブログ、「アイスキャンデー、ナメられた。ジャステッカー死ね!」であった。
粗雑で下品なこのブログはたちまちネット上を拡散し、新聞や週刊誌、国会でも取り上げられて『市民団体』が宇留川中央警察署前に参集する騒ぎとなったのである。
「ジャステッカーを許すなーーッ!」
「許すなーーッ!」
ちょうどこの日、光太郎は宇留川中央警察署の署長・醍醐政宗を表敬訪問したところであった。
簡単なあいさつを交わし、お互いの労をねぎらうと、光太郎と醍醐は秘書を退がらせ、署長室で二人きりになった。
「国会前や沖縄でもお馴染みの顔触ればかりですな」
醍醐署長が窓辺に立ち、ため息交じりにいう。
「間違いありません。アカヒ新聞が動員した反日プロ市民の連中です」
光太郎もその隣に立ち、外の様子を眺め渡す。
アカヒ新聞は『左翼』を『市民』と書き、右翼を『右翼』とそのまま表記する。徹底した印象操作で読者を欺き続ける手法はお手のものだ。
「そのアカヒ新聞の発表では2万5千人規模の抗議行動とありますが、これはどう見繕っても……」
光太郎はプロ市民団体の人の波をざっと見渡して、眉をひそめた。
「5千人足らずといったところでしょう」
醍醐署長がやれやれ……と首を振る。
「アカヒ新聞は警察発表の数字を載せず、水増しするのが常です。まあ、それでも5倍程度。国会前や沖縄などは10倍水増し発表した例がありますからね」
「……とはいえ、このまま様子見を決め込むわけにはもはやいかない……」
光太郎が醍醐署長に向かって鋭い一瞥を投げた。
「そのとおりです、市長。だから、あなたには暫くおとなしくしていただきたい」
醍醐署長も警察官の目になって切り返す。
「現場を指揮するものとして、『ジャステッカーを放置せよ』とはいえない。
お願いです、市長……いや、光太郎さん、ジャステッカーにはならないでいただきたい」
醍醐署長がきっぱりとした口調で光太郎にいった。この醍醐政宗もまた、先祖代々舞鶴家に仕える“クサナギ機関”のものなのだ。
「ふうむ……」
光太郎は考え込む。実は表敬訪問は表向きの理由で、光太郎はジャステッカーとしての行動を自制すべきかどうか、醍醐に相談しようと訪れたのである。
「ニセモノは我々が必ず逮捕します。汚名を晴らす役割は我々警察に任せてください」
醍醐署長に重ねて懇願され、光太郎の気持ちは自制の方向に傾きつつあった、そのとき――
『宇留川南町2丁目で銀行強盗事件発生! 犯人一味は客と行員を人質にとって立てこもっている模様』
事件発生を告げる緊急アナウンスが署長室に告げられた。
『なお、犯人のひとりはジャステッカーの仮面を被っているとの未確認情報あり』
「なにィ!」
醍醐署長が目を剥く。
光太郎は「やはり……」という顔で醍醐をみた。
ニセモノが下着ドロやアイスキャンデー横取りなどで鉾をおさめるはずがない。だんだんと行動をエスカレートさせ、ホンモノを追い詰めるのがヤツの、いや、『ヤツら』の狙いなのだ。
「市長!」
事件発生を聞きつけて美由紀が署長室に飛び込んできた。
「『市長』はどうかこのまま事態を静観してください。人質は我々警察が必ず救出し犯人を逮捕します」
醍醐は、美由紀も光太郎の別の姿を知る一人であることは承知している。彼女の前で言い繕う必要はないが、自覚を促す意味で『市長』という言葉に力をこめて強く自制を求めた。
「とにかく、ここを出よう」
光太郎は美由紀にいうと、醍醐に軽く頭を下げて部屋をでた。
警察署裏手に停めてあるワゴン車に美由紀とともに乗り込む。
「ルートC3マーク7から第2市長室に入れるか?」
光太郎が運転手にきいた。この運転手も“クサナギ機関”のものなのだ。
「渋滞はありません。5分で《シークレットドア》に入れます」
ナビを操作しながら運転手がこたえる。《シークレットドア》は宇留川市の各所に設けられた第2市長室直通の秘密の出入り口なのだ。
「まさか、ジャステッカーになるおつもりですか?」
美由紀が光太郎の腕をつかんだ。
ジャステッカーに変身するには、いったん第2市長室に降りて装着カプセルに入らなければならない。
「醍醐署長もおっしゃったでしょう。ここは警察に任せるべきです」
光太郎は美由紀の手をやんわり解くといった。
「本当の市民の目の前で、ホンモノがニセモノの正体を暴くことが必要なんだ」
つづく
バットマンVSスーパーマンをみた。よくわからない場面が多々あったが、ひとつだけようくわかったことはDCコミックもマーベル商法に便乗しようとしていることだ。まあ、その是非はともかく、このジャステッカーもリーグの一員に加えてくれないかなあ(加えるかボケ!)。




