第7話 うるるん登場
「え? 市長が死んだんですか?!」
『そうだ。これで狂犬臭会は無事、宇留川市民ホールで開催することができる』
「それはおめでとうございます」
『祝うのはあとだ。おまえは至急、市長室にいって盗聴器を回収してくるのだ』
「え? なんでですか?」
『頭の回転のわるいやつだな。警察が現場検証に入ったとき、市長室に盗聴器が仕掛けられているのがバレたらどうする。犯人はそいつだとなるではないか』
「ぼくはやってませんよ。盗聴器を仕掛けさせたのは置石議長ではないですか?」
『もし、おまえが犯人にされてもわたしは関係ない。わたしはおまえに指示をくだした覚えはない。記憶にございません、というやつだ』
「あーっ、きったねー!」
『なんだと!』
「いや、こっちの話で。……わかりました。至急、盗聴器を回収します」
……ということで、牛塚峰男はまだ混乱の残る東棟本庁舎にもどると復旧したエレベーターを使って最上階の11階に上った。
無人の廊下を進み、市長室を軽くノックして開ける。
部屋のなかもむろん、無人だ。秘書の北条美由紀も屋外に避難したようだ。
「さて、と……」
牛塚は仕掛けた場所をなんとか思い出して、市長の執務机の下に潜った。
「あれ?」
仕掛けた場所に盗聴器はない。確か机の底板の左隅に設置したはずだが……。
「おかしいな――うわあッ!」
牛塚が机の下から顔をあげると、そこには涙目の樽のような形の着ぐるみがいた。宇留川市公認キャラの『うるるん』だ。
「な、なんでここにうるるんが――!」
だが、驚いたのはそれだけではない。市長のイスの下にはC4爆薬が時限式タイマーとともにセットされているではないか!
うるるんは小柄な牛塚をひょいと抱えあげると、爆弾が設置された市長のイスに座らせた。
「うわっ、なにをする? うるるん!」
牛塚がわめく。
すると――
RRRRRRRR……。
執務机の上の内線電話が鳴った。
でろ。
――と、うるるんが太い腕の先を振った。
牛塚が内線電話の受話器をとる。
『やあ、牛塚くん。市長のイスの座り心地はどうだい』
「市長!」
まぎれもない市長の声だ。市長は生きていた!
『イスの下のC4だけどね、爆弾犯人の置き土産のようだ』
「市長、犯人はぼくじゃありません! た、助けてください!」
『そりゃそうだろう。自分が仕掛けた爆弾で死ぬなんてマヌケもいいとこだ』
「死にたくありません! は、放せうるるん、おまえも死ぬぞ!」
逃がさぬよう、肩をがっしり押さえつけているうるるんに向かって牛塚が叫ぶ。
『いや、うるるんは大丈夫だよ。『ハートロッカー』という映画をみたことあるかい。その着ぐるみは地雷処理用の耐爆耐圧スーツなんだ。TNT火薬2トン分ぐらいはくらっても平気だ。もちろん、きみは跡形もなくなるけどね』
イスの下で、チッチッチッ……というセコンド音が死の秒読みを刻んでいる。
牛塚の顔は血の気を失い紙のように白くなっている。
「な…なにが望みなんです。い、いってください。な、なんでもしますから」
『じゃあ、きみに盗聴器を仕掛けさせた。黒幕の名前を喋ってもらおうか』
「置石議長です! あのウスラハゲがぼくにやらせたんだッ!」
ほとんど即答である。ことここに至っては置石に義理立てなんかしていられない。
ピッピッピッ……。
セコンド音が替わった。明確なカウントダウンを刻みはじめる。
牛塚が迫りくる死の恐怖にとり憑かれ、足をバタバタと激しく振り出す。
「もういいだろ! 早く解放してくれ!」
『まだだ。置石はわたしからなにを盗み聞きしようとしてたんだ?』
「そんなこと知るもんか。あのウスラハゲはなんでもいいからスキャンダルのネタをつかんでアカヒ新聞にリークしようとしてたんだ。日狂組とアカヒ新聞は裏でつながっているんだよ!」
『うむ。取り立て新味のない情報だな』
受話器の向こうで市長が考え込んでいる様子がわかる。
「うむ、じゃないだろ。考えてなんかいないで、早く、早くこの爆弾を解除してくれーーッ!!」
ピピピピピピピ……。
セコンド音が急激に早くなった。タイマーがリミットを告げようとしている。
「は、早く、早く解除しろーーッ! 放せ、コラーーッ!!」
ピーーッ!
ドガガガガーーン!!
「ひーーッ!」
牛塚の必死の抵抗も空しく、耳をつんざく凄まじい爆発音が尻の下から響いてきた。
つづく




