第1話 赤い狂師の黒い企み
「おまえたち、よくやった。立派だぞ」
教室に集められた5人の生徒たちを端から見回し、担任の巻枝憲文は絶賛してほめちぎった。
ここは市立宇留川小学校の5年3組の教室。集められたのは今回の実力テストで平均90点以上の優秀な子供たちだ。
「先生はうれしい。きみたちは将来、国立の一流大学に進学してぜひアカヒ新聞に入社してくれ。アカヒの筆で社会を変革するのはきみたちだ」
「はい。ぼくたちアカヒ新聞に入社して九条を守り、非武装平和路線を社会に訴えます!」
学級委員長の生徒が高らかに宣言した。
「それでいい、それでいい。日本は先の大戦でアジアの人たちを苦しめた悪い国なんだ。賠償や謝罪も充分じゃない。特に北部半島国家は全然だ。政治家たちは拉致だ、核だと騒いでいるが、先に半島人を強制連行したのは日本軍なんだ。北部半島国家にはもっともっと例の団体を通じて送金せねばならん。このことは親御さんにもよく話して寄付するようにいうんだ。いいね」
「はい。わかりました」
「よし。帰ってよろしい」
巻枝は満足そうな笑みを浮かべると、5人の生徒たちを返した。
だが、次の瞬間、その笑顔は反転した。
「入ってこい、クズども!」
笑顔だけではない。声も低くドスがきいて威圧的だ。
5人の生徒と入れ替わるような形で3人の生徒が入ってきた。
3人とも顔はうなだれ、表情に生気はない。
「おまえら、よくもおれに恥をかかせてくれたな!」
巻枝はテスト用紙の束で3人の頭を順番にはたいた。
「いいかよく聞け、平均30点以下のクズども。おまえたちはゴミだ、カスだ、負け犬だ! おまえらみたいなやつらは社会にでても居場所はない。一生フリーターだ。時給800円か900円で死ぬまでこき使われるんだ、ええっ、わかってんのか、コラ!」
「…………」
3人の生徒たちは反論できず、拳を握ってうつむくのみだ。
「おい、石川!」
巻枝は真ん中の生徒の名を呼んだ。
「はい。先生……」
「『はい、先生』じゃねえよ、おまえ、父親の職業は自衛官だそうじゃねえか」
「はい」
「自衛隊ってのは軍隊だよな」
「…………」
「どうなんだ、こたえろ!」
「……だと思います」
「軍隊は憲法違反だというのはわかってんのか、おい!」
「…………」
「自衛隊は人殺しをする軍隊なんだよ。この日本に軍隊はあっちゃいけないんだッ!」
「よ…よくわかりません……」
石川という生徒はそれだけいうのが精一杯だ。目からは大粒の涙がぽろぽろとあふれている。
「軍隊があっていいのは欧米の資本主義国家に立ち向かう、平等の理念に支えられた労産主義国家だけだ。おまえも、おまえの親父も間違った存在だ!」
巻枝の目は無抵抗のものをいたぶるサディストの目と化している。自分は絶対的に正しいという思い上がった姿勢がそれに拍車をかけていた。
「いいか、おまえたちはこの先、生きていてもなにもいいことはない。
夢も希望も未来もない、絶望しかない人生が待っているんだ。
だからこのおれが、おまえたちに価値を与えてやる」
「価値……?」
3人はそろって首をかしげた。
「崇高な使命だ。この使命を果たせば、おまえたちは労産主義団体の伝説となり、未来永劫語り継がれる存在となるだろう」
「なにを……するんですか?」
石川がおそるおそる巻枝にたずねた。
巻枝は狡猾な表情を浮かべ、顔を間近によせていった。
「舞鶴市長の爆殺だ」
つづく




