僕の人生を変えた恋人8
【アクセサリーショップ】
8月、僕達は、凛ちゃんと一緒に北海道に行く。
その前に、お土産を選んでいるんだ。
凛ちゃんは、舞ちゃんにアクセを選んでいる。
「お姉ちゃん、どっちが似合うかな?」
「僕、雑貨屋に行ってるよ」
「待って下さいよ。決められなくて…」
「舞ちゃんなら、これだね」
「あ…なるほど、こっちですね。センス良いなあ」
「この頃、オーナーじゃないとダメって仰るお客様もいらっしゃるのよ」
ああ、そんな事言ってたね。
【輸入雑貨】
「わー、ステキ…これも、これも…みーんな欲しくなっちゃう」
「じゃあ、凛ちゃんのはこれで良い?」
「え?私も良いの?」
「春風さんのお宅の皆さんのお土産だからね」
「嬉しーい」
桜ちゃんには、肌触りの良いタオルだな。
何枚有っても良いだろうからね。
婆ちゃん、さつきさん、薫さんにはエプロン。
爺ちゃんと駿さんには、ビアタンにしたんだ。
最近僕も、弥生お婆さんの事を、皆んなのように「婆ちゃん」て、呼ばせて頂くようなった。
後は、駿さんと仲良くなれれば良いんだけど…
【北海道】
この時期北海道なら、オープンカーが良いね。
東京だと空気悪いし、暑いし、窓は開けられないもんな。
何故オープンカーが良いか?
北海道の風を感じられるし、動物達が良く見えるからで~す。
ほら、キタキツネだ。
道路わきに寝転んでいる。
近づいても動かない。
スピードを落として通り過ぎる。
急に動いたら危ないからね。
珍しく他の車とすれ違う。
「凛ちゃん彼氏ー?」
「え?違う違う」
「どっちの人が、凛ちゃんの彼氏?」
「だから、違います!」
激しく否定してます。
「俺って、言っとけば良かったかな?」
「やだ、本宮さん」
って、手で軽くつき飛ばしてますけどね。
男って、そういうのでドキッとするんだよ。
女の子って、わかってないんだよな。
【春風牧場】
「凛がお世話になりました」
「こちらこそ、店を手伝ってもらって助かりました」
「だって、ちゃんとバイト料貰ってたよ」
「それは、まあ」
「ありがとね」
【キッチン】
凛ちゃんが、お土産を配っている。
「いつも悪いね」
「いえいえ」
「凛、何だそのカッコ?」
「何?」
「チャラチャラした服着るんでねえ!」
チャラチャラは、してないと思うけど…
「東京の人は、これが普通だよ」
「そいつと一緒に居ると、おかしくなるんでねえか?」
「お兄ちゃんがおかしいのよ」
わ~
桜ちゃんが、ヨチヨチ歩きで僕の所へ来た~
「何ヘラヘラしてんだ?お前」
僕の足に掴まって、ニコニコしてる。
可愛い~
「は~い、桜ちゃんのは、タオルだよ~」
「あっ、あ」
何か、言ってる。
可愛いな~
「桜までか、全く、この家の女達は」
僕が、桜ちゃんを抱っこしても、駿さんは、ちょっと文句を言っただけで行ってしまった。
「お姉ちゃんのは、これ。菱さんと選んだの」
「ありがとう」
「あ、とめてあげる」
凛ちゃんがヘアクリップで、舞ちゃんの髪をとめている。
見てしまった。
こういうととろって、中々見る事出来ないもんな。
店の人は、人前でやらないし。
仕事柄気になるんだ。
と、思ってたら…ドキッ!
何でドキッ?
女性って、髪をまとめたりする時ちょっとセクシーで、何だかドキッとした。
「出来たよ」
髪を少し取って、後ろでクリップでとめている。
やっぱり似合ってるね。
「凛の星のも良いわね」
「これ、イヤリングと一緒に、菱さんが選んでくれたの」
舞ちゃんが、チラッと僕の顔を見た。
え?何?
あ、さつきさんと薫さんが、あのエプロンをして料理を作ってくれている。
婆ちゃんが来た。
婆ちゃんも、エプロンをしてくれている。
爺ちゃんは、あのタンブラーでビールを呑んでくれている。
「ったくーうちの女達は」
駿さんは、文句を言いながらも、タンブラーを使ってくれていた。
「出来たよ、座って」
今日の夕食は、婆ちゃんの畑で作った新鮮な野菜。
野菜の煮物に、炒め物が、大皿に盛られている。
婆ちゃんが作った漬け物も有るな。
これが美味しいんだよな。
「ニャー」
ぶーニャンが、ホッケのつみれを狙ってる。
「ダメだぞ、それは味がついてるから」
舞ちゃんが、料理を取り分けてくれた。
皆んなが居る時は、大人しくて、人の陰に隠れているような人なんだけど。
こういう事もするんだな…
【放牧場】
食事の後、僕は、いつものように馬達に会いに来た。
煌めく星の中、芦毛の馬体で走るユキ。
子供を連れていなくて、寂しそうだな。
今年は受胎したから、来年はまた親子で走る姿を見られるだろうけどね。
僕の方へ走って来た。
ラチから顔を出して甘える。
鼻を撫でてやる。
こんなに甘えるなんて…
いつもは仔馬が僕に甘えるから、ユキは甘えられなかったんだね。
「コラコラ、シャツを噛むなよ」
行こうとする僕を引き止めているんだ。
ユキの2011を見に行かないと、もうすぐセリだから。
【幼駒放牧場】
居た居た。
馬体はまだ黒いんだけど、少しずつ白っぽくなっている。
ブログで見てはいるけど、写真だけではわからないとこ有るよな。
「ユキの仔、大きくなったでしょう」
「うん。馬らしくなったね」
赤ちゃんぽさが無くなった。
「随分凛と仲良くなったみたいね」
あ、何だか少しトゲが有る言い方?
何て答えたら良いんだ?
「来年は、私も行こうかしら、東京」
「うん。おいでよ」
「私にも、お洋服選んでくれる?」
「勿論」
「井之頭公園でデートも?」
「デート?」
「したんでしょ?デート」
「行ってみただけだけど…」
「ボートは嫌よ」
凛ちゃん…いったい、どんな風に話したんだろう?
妹に嫉妬に似たような感情?
姉妹って不思議。
兄弟なら、相手に恋愛感情が無ければ、誰とどこに行こうが気にしないんだけどな。
あ、ユキの仔が来た。
鼻を撫でてくれ、って顔を出す。
良い人に買ってもらえよ。
大事にしてもらうんだぞ。
何か、ウルウルしてきた。
入厩までは、ここに居るのに。
でも、それまでに僕が来れなければ、もう会えないんだ。
僕が、初めて出産に立ち会って産まれた仔だからな、感慨深いものが有る。
無事走って、無事に戻って来てほしいな。
「君は、ここでお母さんになるんだからね」
「なあに?まだセリにも出してないのに」
絶対、この牧場に戻って来いよ。
「あら?泣いてる?」
舞ちゃんが僕の顔を覗き込む。
泣いてないよ。
ウルウルしてるだけ。
そういうのは、見ないフリしてよ。
【葉月家のリビング】
お姉さんは、二三日旅行に行くと言って出かけたんだ。
今日帰って来るんだけど…
「菱、電話よ。凛ちゃんから」
「はーい」
僕が電話に出ると、凛ちゃんが慌てて喋るので、わけがわからない。
「だから、あんまり安くは売れないって、爺ちゃんが連れて帰ろうとした時ね」
「ユキの2011の事?」
「そう。もう諦めてたんだけど、最後に手を挙げた女の人が居たんだって」
「それで?」
「私セリに行かなかったから、顔はわからないけど」
「うん」
「葉月早紀さんて人が、買ってくれたの」
「そうか、って、え?!」
「やっぱり、菱さんちの人よね?」
「兄貴の奥さん」
「あ、あの人ね、良かった」
「菱ちゃんの身内の人かい?」
爺ちゃんだ。
「はい。兄の妻です」
電話の向こうで喜んでるみたいだ。
大騒ぎしてる声が聞こえる。
夜になって、お姉さんが帰って来た。
「お帰りなさい。北海道のお土産は?」
「え?バレた?」
「牧場から電話が有ったんだ」
「菱ちゃんに言うと、気を使うからね」
「それで、黙って馬主登録?」
「だって、あの子見てたら可愛いくなっちゃったのよ」
後で母から聞いたんだ。
お姉さんは、僕の事が心配で馬主登録をして、知り合いに厩舎を紹介してもらったと。
「お雛様に生まれたから、モモ?」
「はあ?」
「それとも雛ちゃん?」
ユキの2011の名前?
よーく考えて決めてよ。
そして、2012年10月16日。
悲しいニュースが飛び込んで来た。
10月15日アドマイヤグルーヴ急逝。
モーツァルトのレクイエムをかけた。
まだ12歳なのに、ママより先に逝くのかよ。
恋人エアグルーヴの長女だ。
僕には、無条件に可愛い仔だった。
女王杯を連覇して、引退レースの阪神牝馬Sは桜花賞以来のマイル戦だったけど、その年の桜花賞とNHKマイルを勝ったラインクラフト相手に勝ってくれた。
Glを勝った時は、当然だと思っていたから泣かなかったけど、引退レースは泣いた。
末っ子は、男の子だったね。
頑張れ、アドマイヤグルーヴの忘れ形見。