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僕の人生を変えた恋人7

その日、その人は、僕のブログにアクセスして来た。


2011年7月7日、僕はブログを書き始めたんだ。


猫の事とか、色々気まぐれに書いてるんだけど、その最初の日、七夕の日からその人は毎日来てくれていた。


初めてその人の写真を見た瞬間、僕の魂が共鳴した。


それから僕は、その人の仕事上の顔を少しずつ知る事になり…


そう、仕事上の顔。


彼女は、ペルソナ…


いくつもの仮面を持っていた。


会った事も無い人だ。


恋なんて有り得ないと思っていたのに、まるで心と魂は別かのように、魂が勝手に彼女に惹かれて行った。


僕がまず惹かれたのは、女神のような仕事上の顔だった。


そして冬…


春風牧場のブログは、ユキの2011の馬房で、足元にぶーニャンが居る写真。


あのヤンチャな仔が、ぶーニャンを踏まないように気をつけている優しい写真だった。


ぶーニャンは、僕が持って行ったおもちゃを色々な所に隠していて、雪の中から出て来たりするらしい。


2012年。


僕は、写真の彼女とメールをするようになっていた。


「過去世で何度も会っているように感じます」とその人は言った。


彼女なら、一生変わらず恋していられると思った。


電話で話したりもした。


そして2月。


彼女と会った。


メールも電話も違う人みたいだったけど、会ったらまた違う人みたいだった。


彼女が何人も居るようだ。


ペルソナ。


いくつもの仮面。


彼女は結婚していた。


始めから知っていたら、好きにならなかったと思う。


子供が居るのは知っていた。


写真に、子供の物が写っているのを見たから。


でも、その時は、もう好きになってしまっていて、写真を見ても自分の中で見なかった事にしていたんだ。


ご主人も、居るんだ。


もう、会ってはいけない。



春…


今年は、店の方が忙しくて、牧場に行けなかった。


ユキは、去年は不受胎だったので、今年は子育てをしていない。


そしてまた、キンカメをつける。


今年は、仔馬と寄り添う姿が見られないのか…


1歳になったユキの2011は、気性もだいぶ落ち着いてきたけど、時々聞かないらしい。


キツイくせに、放牧場では他の馬の後ろから走っていて、内弁慶のようなところが有る。


でも、気がつくと、皆んな追い抜いている。


そんな仔に成長していた。


馴致も順調で、あの駿さんも気を使っているそうだ。


凛ちゃんからメールが来た。


「お兄ちゃんがね、ユキの2011はやっぱり他の馬と違う、って♪( ´▽`)」


内弁慶で、他の馬の後ろから走っていて、気がつくと皆んな追い抜いている。


僕が好きなあの馬に似ているな。


スイープトウショウ。


強い強いと言われながら、後方一気で中々届かず。


僕は「この子はGlを勝たなきゃいけないんだ」って、2歳の時からずっと応援してて、秋華賞を勝ってくれたんだ。


勿論宝塚記念も僕の本命。


「Gl馬なのに、11番人気なんて酷いよ」って言ってたんだ。


ちゃんと勝ってくれた。


僕は、馬券は買わないからね、好きな馬が低評価では嬉しくないよね。


馬券…


どうやって買うのかわからないし。


低評価で悔しかったのは、あの馬。


アドマイヤコジーン。


1998年朝日杯を勝ってから、骨折して長期休養。


復帰後中々勝ち切れず。


2002年、僕は、人気薄でも負ける気がしなかった。


重賞を2つ勝ってくれて「もう足は大丈夫だね」って思ったんだ。


それまで、お利口さんの彼は無理をしなかっただけ。


高松宮記念は2着。


安田記念でも、勿論本命。


絶対勝ってくれると信じてた。


あの時は、泣いたな。


【アクセサリーショップ】


春は、パステルカラーのアクセが良く売れたけど、夏になると、はっきりした色目の物も売れてきている。


「7月の終わりまで、バイトさせて下さい」


「短期は、ちょっと…せめて8月までやって頂けないと」



「どうしたの?店長」


って…え?


「凛…ちゃん?」


「あ、菱さん。家がわからないから、取り敢えずお店にきちゃった」


何も言わずに来るんだからな、言えば迎えに行くのに。


「婆ちゃんの野菜、持って来たの」


【葉月家】


「おじさんに、御線香をあげさせて下さい」


「はいはい、どうぞ、どうぞ」


「小さい時、お会いした事が有るんです。とっても優しかったです」


「よその人には優しいんだよな、親父」


「おじさんが居なかったら、牧場追い出されてました」


「あれで、人が良いところが有るのよ」


と、母は言った。


「すみません。お金…返せなくて」


「良いの、良いの。そんな人沢山居るのよ」


そう言って、母は笑った。


担保も無しに貸して、帰らないお金が何億も有るらしいんだ。


それで、警察の人が話しを聞きに来た事も有った。


家のお金も持ち出して人に貸していたから、うちはいつも生活が大変だった、と母は言う。


まだ他に、春風牧場のように何かを担保に貸して、そのままになっていて、僕達が知らない話しが有るらしいけど…


そんなのが出て来たら、面倒なだけだな。


【キッチン】


母と凛ちゃんが、魚を料理している。


鳥取県出身で、子供の頃から魚を食べて育った母は、何だか嬉しそうだ。


「バイトするの?」


「うん、させて。勉強になるし」


ジュエリーデザイナーになりたくて、夏休みに勉強しに来たんだそうだ。


僕の店でアクセ見てたらバイトしたくなって、店長と話していたらしい。


母が「1人でどこかに泊まるのは良くないから、とにかく連れて来なさい」と言うので、連れて帰って来たんだ。


大学生になった凛ちゃんは、一年会わない間に随分大人っぽくなっていた。



翌日、僕は、凛ちゃんの買い物に付き合わされた。


【吉祥寺】


服を買いたいんだって。


選んでくれ、って言うんだけど…


女の子の買い物って、時間がかかるんだよな。


「お腹空いた」


「もう、1時過ぎ?」


中学生の頃お姉さんと良く来たお店が、今も有った。


そこで、遅いランチにした。


「随分沢山買ったね」


「ホテルに泊まるつもりで持って来たお金、全部使っちゃった」


「無駄遣いし過ぎ」


「無駄じゃないわよ。だって、これ着て明日からお店に立つんだもん」


店の人達が、皆んなセンスが良くてびっくりしたらしい。


「アクセサリーは、お店で買おう」


「社員割引有るよ」


「嬉しいー。バイト代、皆んな使っちゃいそう」


【井の頭公園】


ボートに乗りたいと言うので、井の頭公園に来たんだけど…


「やっぱり良い」


凛ちゃんは、柵の所から池を見ていて動かない。


「せっかく来たのに、乗らないの?」


「伝説…知らなかったんだもん」


カップルでボートに乗ると別れる、って、良く言ったものだけど…


ああ…確かに、一緒に乗った人とは皆んな別れたな。


「荷物も有るし、帰ろう」


荷物沢山有るね…


僕が持ってるんだけど…


ここから井の頭通りに出るまでの道は、凄い人だ。


「逸れるなよ」


僕は、凛ちゃんの腕を引っ張った。


「あっ」


凛ちゃんは、驚いたように僕の顔を見た。


でも、手を離すと逸れてしまう。


井の頭通りに出るまで、僕は、凛ちゃんの手を引っ張って歩いた。



【井の頭通り】


この通り、僕の家の方では、水道道路って言うんだけど…


「離して」


「うん?」


「手…恥ずかしいから」


あ、そうだった。


僕は、掴まえていた凛ちゃんの手を放した。


「何で小声?」


「だって、恥ずかしいでしょ」


「ごめん」


【アクセサリーショップ】


夕方、凛ちゃんは遅番でバイトだ。


少し早めに来て、僕は凛ちゃんのアクセを選んでいる。


今日の服に合うのは…


店長も、いくつか出して来てくれた。


ピンクの星のイヤリングと…


髪がだいぶ長くなったから、ヘアクリップ。


ちょっと、大人っぽいか?


これは、舞ちゃんの方が似合いそうだな。


「わー、シュシュも可愛い」


「イヤリングするなら、ヘアアクセサリーは、あまり目立たない方が良いね」


「そうですね、こちらの方が宜しいかと思います」


「イヤリングを小さめにして、同じ感じの星のバレッタでも良いね」


これは、僕が気に入って仕入れた物だ。


「あー、私、そっちにします」


結局、金平糖のような小さな星が2つぶら下がるイヤリングと、星のバレッタに決まった。


女の子は、髪で随分雰囲気が変わる。


「何で、そんなに見てるんですか?」


「いや…大人っぽくなったな、と思って」


昨日とは、まるで別人だな。


バイトを始めてから、言葉遣いも変わってきた。


敬語は、店に居る時だけだけど、家で話す言葉も…


何かこう…大人の女性に近づいて来たような…


星のバレッタで髪をとめていると、ちょっとセクシー?


いやいや…


星…星の中の馬たちに、早く会いたい。




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