僕の人生を変えた恋人30
【葉月家】
「ねえ、フルーツバスケットの中に、絶対に入っていてほしいのって何?」
「バナナ」
「えー?バナナは嫌だわ」
「え?嫌いだったっけ?」
「おっとり坊主ちゃんの名前よ」
「なるほどね。フルーツバスケットの中に絶対入っていてほしい物か…」
「バナナの他に何が有る?」
「パッションフルーツも良いなあ」
2017年秋、おっとり坊主事パッションフルーツがデビューした。
フルーツバスケットの仔でパッションフルーツ。
あの大人しくて甘えん坊のおっとり坊主君は、ジョッキーの言う事を良く聞く物覚えの良いお利口さんで、とても乗りやすいそうだ。
デビュー戦快勝。
朝日杯は距離不足なので、次は芝200mの500万下を使う予定だ。
ハルクンは、スプリンターズSで除外されて、11月のマイルチャンピオンシップに向かった。
3歳馬ながらもNHKマイル勝ちが有るので5番人気。
彼はいつも通り、ジョッキーが宥めるのも聞かず、口を割ってカリカリ飛ばす大暴走。
直線で馬群に沈み11着だった。
あてにならない馬と言われている。
はぁ…
あの気性どうにかならないかなあ。
パッションフルーツは、500万勝ちの後放牧に出された。
2018年春。
コユキは、今年は男の子を産んだ。
お父さんに似たのかな?
毛色は鹿毛。
気性も大人しいらしい。
パッションフルーツは、皐月賞のトライアルで出走権を取れなかった。
もっと距離が有る方が良いのかも知れない。
青葉賞に向かう事になった。
青葉賞では、2着までに入るとダービーの優先出走権が与えられる。
パッションフルーツは、惜しい3着でダービーには出られなかった。
「残念だわ」
「まあね、ダービーは出る事自体が大変なレースだからね」
「でも私、あの仔には期待してるのよ」
「彼は奥手みたいで、成長はこれからだね。秋には頑張ってほしいな」
なんて言ってたら、秋には神戸新聞杯を快勝して菊花賞に向かう事になった。
【京都競馬場】
久しぶりだな…
コユキが引退してから、忙しくて遠くの競馬場に足を運ぶ時間が無かった。
ここへ来ると思い出すな。
コユキのレース。
秋華賞、女王杯。
そして、ウイニングラン。
引退式…
【馬主席】
「おや、葉月はん。久しぶりでんな。まあ、あんたんとこは馬の数が少ないのやさかい、あんまり会わへんのも当然やろけど」
「ええ、そうですね」
ははぁ、これを忘れてた。
「それにしても、又まぐれでG1に出て来はるとはなあ。まあ、せいぜい頑張りなはれ」
「はい。頑張るのは馬ですので、良く言っておきますわ」
久々に金成オーナーのイヤミを聞いたな。
【パドック】
「菱ちゃんお兄ちゃんこんにちは」
桜ちゃんだ。
いつもみたいに飛びついて来ないぞ。
「桜ちゃん抱っこしようか」
「嫌」
「えっ?何で?」
「だって、恥ずかしいもん」
「振られた。何だか寂しいな」
「桜も一年生だからなー」
「華ちゃんが抱っこするー」
「華ちゃーん。はいはい抱っこね」
「何だかなあ、その緩んだ顔は。お前も早く結婚して子供作れば良いべさ」
「うん。子供ほしい。桜ちゃんや華ちゃんみたいな可愛いい女の子」
「自分の子供は可愛いぞー」
「僕に似たら可愛くないかも」
「凛に似た可愛い女の子なら良いべさ」
「えっ?」
「「えっ?」ってお前いい加減にしろっし!」
凛ちゃんに似た女の子かぁ…
そりゃ可愛いだろうね。
「あれ?舞ちゃんが居ない」
「舞は、お腹に赤ん坊が出来てなー」
「そうなんだぁ」
「あああぁ、益々顔が緩んでるぞ」
【スタンド】
本馬場入場だ。
白い馬体が見えて来た。
「夏を越してグングンと力を付けて参りました。トライアルを快勝して臨む菊の舞台に、その大輪の花を咲かせる事が出来るでしょうか?パッションフルーツです」
「最終的に3番人気になってるわね」
「ダービー馬と皐月賞馬が、1.2番人気だね」
ファンファーレが鳴った。
各馬ゲートイン。
皆んな無事に回っておいで。
「スタートしました!まずまず揃ったスタートです。どの馬が行きますでしょうか?」
皐月賞馬が先団に取り付いている。
ダービー馬は中団だな。
パッションフルーツは、中団やや後ろからだ。
素直な仔だから、ジョッキーの言う事をちゃんと聞いて折り合っている。
「さあ淀の坂越えだ。この辺で動いた!さあ動いた!ダービー馬が動いた!」
「おっとり坊主ちゃん、まだ動かないわね」
「もう少し我慢した方が良いんだろうね」
「第4コーナー手前、パッションフルーツが上がって行った。直線に向きました。前はダンゴ状態だ。パッションフルーツ来た!パッションフルーツ来た!」
脚色が衰えないな。
「パッション頑張れ!」
「パッションフルーツがままとめて交わした!さあ、突き放す、2馬身、3馬身!勝ったのはパッションフルーツ!2着以下は微妙です」
「やってくれたなー」
「強かったわね」
掲示板が上がった。
5馬身差で優勝だ。
ウイニングラン。
やっぱりキョトンとしているのが可愛い。
初めてだもんね。
コユキの桜花賞を思い出した。
違うのは口取り。
大人しいパッションフルーツは、良い子に記念撮影を済ませた。
頑張ったね、おっとり君。
良い子良い子。
そして次走の有馬記念。
3番人気に支持された彼は、2着と好走した。
しかし、調教中に屈腱炎を発症して引退を余儀無くされた。
「大事に至らなくて良かったわよ」
「そうだね。これからは種牡馬として頑張ってもらおう」
2019年春。
パッションフルーツは、コユキのお婿さんになったんだ。
仔馬が産まれるのが楽しみだね。
そして、ダービーシーズン。
舞ちゃんに男の赤ちゃんが産まれた!
「え?僕が名前付けるの?大役だなあ」
舞ちゃんから電話で、赤ちゃんの名前を頼まれちゃった。
「主人が「菱ちゃんに付けてもらいたい」って言うのよ」
それで僕が考えた名前は「駿介」君。
一番喜んだのは駿さんだった。
可愛い甥っ子にメロメロだそうだ。
僕も早く会いたい。
2020年3月。
【春風牧場】
「菱、顔が緩んでるぞ」
「だって、可愛いくて」
「駿介まですぐに懐いたなー」
「子供の好きな人はわかるのね」
「凛の事どうするつもりだー?」
「どうするって…」
「いい加減にしろ!凛はもう27だぞ。お前がもたもたしてるなら、他に嫁にやるー」
「………」
3月3日午前1時20分。
僕は、凛ちゃんに起こされてコユキの馬房に急いだ。
産まれる。
コユキとパッションフルーツの仔が。
実はさっきまで夢を見ていたんだ。
ペガサスの夢。
ヤンチャ姫が産まれた時もそうだったな。
今日見た夢。
それは…
青い空から舞い降りたペガサスは、コユキと一緒に走って行った。
そして、舞い上がった。
コユキも一緒に。
【コユキの馬房】
「コユキどう?」
「今回は、少し時間がかかってるの」
ぶーニャンが、コユキを励ますかのようにペロペロ舐めている。
「コユキ頑張るのよ」
「いつも安産だって聞いてるけど」
僕は心配になって、舞ちゃんにそう聞いた。
「うん。大丈夫よ。この仔逆子になってたからね…」
「え?逆子って、足が引っかかったりするんじゃないの?」
「今は大丈夫。でも…」
「え?でも?」
「いつもよりだいぶ時間がかかってるわ」
大丈夫?
大丈夫なんだよね?
お産は命懸けなんだ。
エアグルーヴもそうだった…
パシフィカスだって、子宮破裂で死んだんだ。
コユキが死んだりしたらどうしよう?
僕のせいでコユキが死んだら…
そんなの嫌だ。
「何泣いてるの?」
「コユキごめんね。僕がパッションと種付けする、って言ったから…」
「泣かなくたって良いじゃない。ほら、足が出て来たわ」
「コユキ頑張れ」
「頭が見えた。もう少しよ」
そこからが中々出て来ない。
「早くしないと母体が持たない」
ダメだ。
我慢しても、涙が後から後から流れては落ちる。
「頑張って出て来るのよ。ママも頑張ってるんだから」
「僕にも手伝わせて」
「足を引っ張るわよ。そーっとね」
「うん。わかった」
凛ちゃんが、もう一度僕の手を消毒してくれた。
もう、泣いてなんかいられない。
絶対助けるんだ。
コユキも、赤ちゃんも。
「1.2の!」
まだか。
「もう一度ね」
「せーの!」
良し、もう少しだ!
「せーの!」
出た!!
「コユキおめでとう。良く頑張ったね」
「菱ちゃん。また泣くの?」
「そうだね、もう泣かないよ。赤ちゃん可愛いなぁ」
舞ちゃんが、体を拭いている。
「ちょっと待って!この仔…」
「え?今度は何?」
「この毛色…白毛?」
「本当?」
「目の周りを拭いて、良く見てみるわね…やっぱり白毛よ!白毛の女の子!」
「やった!」
遂に白毛が産まれたぞ!
それもコユキの仔だ。
しかも女の子!
女の子だから、仔馬を産んでくれる。
春風牧場に、白毛がたくさん生まれると良いね。
「奇跡よ!これは奇跡だわ!」
「ママと同じお雛様の日に産まれたのね」
「凛ちゃん!」
「はい?」
「僕と結婚して下さい!」
「え…?えーっ?」
「ほおー、菱の奴、やっとプロポーズしたか」
「奇跡が奇跡を呼んだ感じね」
「凛ちゃん?」
「え?」
「ダメなの?」
「……」
「そうだよな、ゆっくり考えて良いよ」
「うんにや!ダメだダメだ!直ぐに返事しろー。菱の気が変わらないうちにすぐだぁー」
「本当に私で良いの?」
「君じゃないとダメなんだ」
「あの…私…宜しくお願いします」
「こちらこそ」
「良かったなー凛」
「幸せになるのよ」
「あ!仔馬が立ち上がった!」
ママよりも強い馬になるんだよ。
あの夢の中のペガサスみたいに、翼を背にターフを駆け抜けろ。
雛ちゃん。
そして6月。
「雛ちゃん。お姉ちゃんがイギリスオークスを勝ったよ。君も頑張ろうね」
「菱、早くしろっし。新郎が遅れてどうすんだー」
ーLa Finー
最後までお読みくださってありがとうございました。
本当に感謝の気持ちで一杯です。
遂に春風牧場に白毛馬が誕生しましたね。
そして菱は、いつの間にか写真の人ペルソナの事を忘れていました。
それはきっと馬達が居てくれるから。
凛ちゃんが居てくれるからです。
駿に急かされて、その年の6月に結婚。
イギリスオークスを勝ってくれたのは、白毛馬雛ちゃんの姉。
あのヤンチャ姫です。
2人の新居はどこでしょうか?
おそらく、東京と北海道半々の生活になるのでしょう。
「新婚だから2人だけで暮らそう」と言う菱。
「お母さんや早紀さんと一緒が良い」と言う凛。
葉月家で賑やかな生活が始まります。
白毛馬雛ちゃんは、どんな競走馬になるのでしょうか?
そして、どんな仔を産んでくれるのでしょうか?
後は想像してみてください。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。
この作品をお読みくださった方々へ、感謝を込めて。
2016.6.1 大輝.




