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僕の人生を変えた恋人3

「今日の晩御飯は、婆ちゃんの畑の野菜で作ったてんぷらだよ」


凛ちゃんが呼びに来てくれた。


「その写真ね、私が生まれるよりもっとうーんと前ね、この牧場で生まれた白毛馬だよ。ペガサスみたいでしょう。また生まれないかなー白い仔」


「あ、ここに居た。凛!そいつと仲良くするんでねえ!」


また駿さんが怒鳴っている。


【客間】


僕が客間に戻ると、テーブルに料理が並べられていた。


野菜のてんぷらと、カニの味噌汁。


新鮮な野菜で作ったてんぷらは、とても美味しかった。


「こんな美味しい野菜、生まれて初めて食べた」


「東京は、野菜美味しくないの?」


「採れたての野菜なんて食べられないからな」


「そうだよね。僕、小さい頃野菜が嫌いだったのは、美味しのを食べた事が無かったからだね」


「そうなんだ…うちは、これが普通だからね」


僕の母は、鳥取県出身なので、カニの味噌汁は家でも良く出て来るけど、北海道で食べるとまた違って美味しかった。


「明日は、釣りに行くんでしょう?晩御飯楽しみにしてるね」


凛ちゃんに、そう言われてしまった。


釣らなければ。


頑張って釣るぞ~


食事の後、少し外に出てみた。


【牧場】


家を出ると、どこまでも牧場だ。


星が…手で掴んで取れそうだ。


怒られないかな?


ラチの近くまで行って、放牧されている馬を見る。


降るような星の下、草を食む馬、飛び跳ねる馬、走る馬。


ずっと見ていたいな…


幸せな時間だ。


「何してるの?」


僕は、馬に見惚れて、人の足音が近づいて来るのも気づかなかった。


「ごめんなさい、勝手に」


「別に、謝らなくても良いわよ」


舞さんだ。


人見知りするんじゃなかったっけ?


「お兄ちゃんなら、酔っ払って寝てるから」


そうなのか…


「別に、駿さんが怖いわけじゃないんだけど、勝手にここまで来ちゃったから、いけなかったかな?って」


「変な人ね、ここ、貴方の牧場でしょ」


「そう言われても…」



「私ね、夜の空の下に居る馬達を見るのが好きなの」


そう言うと、舞さんは、スケッチブックを開いて絵を描き始めた。


あのペガサスの絵も、彼女が描いたって聞いたな。


絵を覗き込んでも、彼女は気にせず描いている。


夢中で見ていたら、風でフワッと彼女の髪が僕の鼻先に触れた。


良い香りがした。


気づいたら、こんなに近くに居たんだ。


「あ、僕、明日早いから」


「おやすみ」


「おやすみ」


【客間】


「どこ行ってたんだ?」


「馬見てた」


「明日早いから、俺はもう寝るぞ」


「僕も、お風呂に入ったら寝る」


お風呂から出ると、凛ちゃんが冷たいお茶を持って来てくれた。


「ありがとう。凛ちゃんて、良く気がきくね」


「そう?お風呂の後は水分取らないとね。ビールはダメだよ。ビールの前にお茶ね」


「もしかして、健康オタク?」


「うん。テレビとかで健康の良く見るよ。爺ちゃんと婆ちゃん居るからね」


僕もちょっと、そういうとこ有るんだ。


僕は末っ子で、兄とは年が離れてるから、父親が36才母親が31才の時に生まれたんだ。


うちの両親は、同級生のご両親より年上だからね。


長生きしてほしくて、自然と健康オタクになった。


でも、父は心臓病で亡くなった。


食生活とかうるさく言ったんだけど、聞いてくれなくて、糖尿病にもなっていたんだ。


「あ、ハートのローズクォーツ。良く似合ってるよ」


「え?そう?」


凛ちゃんが選んだのは、ハートのローズクォーツが長さの違う2本のピンで揺れるタイプのイヤリングだ。


「うちの店のアクセサリーを、実際につけてくれているのを見ると、嬉しいものだね」


舞さんは、何を選んだんだろう?


「そうなんだ…私、お店屋さんになりたかったのよ。良いなあ」


「僕は、家が牧場の方が羨ましいけど…」



好きな時に、いつでも馬が見れるんたから、羨ましい限りだ。


貴方の牧場でしょ、って舞さんに言われたけど、全然実感が無いな。


自分の牧場で、資金が沢山有ったら、あの馬の子供が欲しい。


僕が恋した馬、エアグルーヴの仔。


でも、この赤字牧場では買えるはずがない。


僕の夢より、この家の家族の生活がかかっている事を一番に考えないといけないんだ。


繁殖牝馬のユキは、エアグルーヴの長女、アドマイヤグルーヴと血統背景が似ている。


年も同じだ。


何とか良い子を出してほしいな。


アドマイヤグルーヴが生まれた時は、それはそれは嬉しかった。


生まれる前から楽しみにしていた仔だからね。


普通の人は、男馬を喜ぶのかな?


牝馬好きの僕は、彼女の初子が女の子でとても嬉しかった。


だって、女の子は、子供を産んでくれるからね。


男馬は、種牡馬になると、毎年沢山子供が生まれるけど、女の子が産むのは1頭だけ。


大好きなあの馬が産んだあの仔、っていうのが良いんだよね。


それに「男の子には負けませんわよ」って、牝馬が男馬をやっつけちゃうのも良い。


それもこれも、僕の恋人が、牝馬のエアグルーヴのせいだね。


さて、明日は5時起きだ。


そろそろ寝よう。


【渓流】


翌日、僕達は、車の中で、さつきさんが作ってくれたお弁当を食べて川に入った。


この時期禁漁の川も有るけど、ここは幸い解禁だった。


熊除けの鈴OK。


凛ちゃんに言われた通り、危ないから食べ物は車に置いて来た。


上流へ歩き、釣り場を探す。


魚に姿を見られないように注意して、釣りを始めた。


今日は、ルアーで鱒を狙う。


いきなりヒット!


凄い引きだ。


ラインがどんどん出て行く。


「シューベルトのクインテット」


「何だ、そりゃ?」


「鱒、伊藤恵さんのピアノで聞きたい」


長いファイトの末、52㎝のニジマスをゲット!


「こっちも来たー!」


慎二もニジマスを釣り上げた。



ああ…北海道に居るのにな…


ノーザンファームに行っても、彼女に会わせてもらえないんだよな…


「ハー…」


「菱、何ため息なんかついてんだよ、ほら!」


「うわっ」


ラインが切れてルアーを持って行かれた。


「今のデカかったな」


「うん」


残念…


今日の釣果…


僕は、ニジマス3匹とブラウントラウト2匹。


慎二は、ニジマス2匹とブラウントラウト1匹。


【春風牧場】


「釣れた?」


「今日は、手巻き寿司にしようかね」


「私も手伝う」


「舞も手伝って」


「はーい」


【ダイニングキッチン】


手巻き寿司だから、皆んなで一緒に食べようという事になったらしい。


僕達を、家族が揃うテーブルに呼んでくれた。


味付けされた鱒や大葉などを酢飯と一緒に海苔に巻いて食べる。


鱒のクリーム煮は、舞さんが、野菜たっぷりのホイル焼きは、凛ちゃんが作ってくれたらしい。


「俺は、まだそいつの事認めてねえからな」


「お兄ちゃん。ご飯がまずくなるからやめて」


「そうだよ。菱ちゃん達が釣って来てくれた魚だ。文句が有るなら食べなくて良いから」


「けっ、何が菱ちゃんだ」


「菱ちゃん、イカ食べないのかい?」


弥生お婆ちゃんが聞いてくれた。


「すみません、アレルギーなんです」


「あれま、覚えとくね」


と、さつきさん。


「メモメモ」


って、凛ちゃんは、本当にメモしてる。


食事の後は、また星空の下の馬達が見たくて、外に出てみた。


【牧場】


月明かりに照らされて浮かび上がる馬達の姿。


遠くを見ると、地面が空と続いている。


向こうへ走って行く馬達は、そのまま空まで駆け上がるように見える。


まるで、星の中に馬が居るようだ。



「今日も、馬を見に来たの?」


「今日も、絵を描きに来たの?」


「私が先に聞いたのよ」


「あ、そうだね、ごめん。見に来た」


「フフフ、描きに来たのよ」


「舞ちゃんは、獣医さんになるの?」


「そう。小さい頃は、絵本作家になりたかったんだけど、獣医だった父が亡くなって…」


「絵本作家か…舞ちゃんの絵は、優しい絵だから良いんじゃない?」


「優しい絵?ありがとう」


「展示室に飾って有るペガサスの絵も、舞ちゃんが描いたんだよね」


「そうよ」


「今にも舞い上がりそうだった」


「うちでまた、ペガサスみたいな白毛馬、生まれると良いな」


凛ちゃんも、そう言っていたな…


何だか僕も、いつかそんな日が来てほしいと思うようになってきた。


ペガサスのように真っ白で、翼が有るかのように早い馬…


僕の好きな馬の中に、エルコンドルパサーが居る。


そう、JCで、僕の恋人を負かした男馬だ。


彼は「飛ぶように走る」と言われていたけど、歩く姿も、まるで踊っているように軽やかだった。


パドックを歩く時の繋ぎの角度や、爪の向きが美しくて好きだったな…


エルコンは黒鹿毛。


舞ちゃんが今描いているのは…あの栗毛馬だね。


「あ、ムーンストーンのペンダントしてくれてるんだ」


「あ、これ、ムーンストーンて言う石なのね」


「うん、そう」


「色が気に入ってるの。名前もステキね」


「気に入ってくれて、良かった」


凛ちゃんは高校生だから、学校にイヤリングをして行けない、って、言ってたけど、舞ちゃんは大学生だから大丈夫だね。


僕より1つ年上の舞さんの事を、お婆さん達が舞ちゃん、て呼ぶから、僕もいつの間にか舞ちゃんと呼んでいた。



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