僕の人生を変えた恋人17
今日は、慎二の彼女は女子会だから、僕達は男子会?
2人で呑む事にしたんだ。
「俺、酎ハイ」
「僕は…」
「お前焼酎わかるか?」
「まだ初心者」
「麦と芋ぐらい知ってるだろ?」
「芋の方が飲みやすいから芋にする。ロックで」
実は、焼酎はまだあまり呑んだ事が無いんだ。
あの人、あの写真の女性ペルソナと会った時呑んだんだけど、それは酔いたくなかったから。
僕は、スコッチやブランデーは良く呑むけど、度数の高いお酒はロックで呑むんだ。
そうすると、ゆっくり呑むから酔わない。
ワインも香りを楽しみながら呑むから比較的ゆっくりだけど、ビールやなんかは温度が変わらないうちに呑むから、早くて酔いやすいんだ。
「女って、何でああベタベタ触るのかね?」
慎二の彼女の話しだな。
話しながら叩いたり、触ったり…癖なのかな?
僕もやられた。
誰にでもするらしいけど…
それで変な気になる男は多いから、気をつけないと。
慎二には悪いけど、僕はやたら異性に触れる女性は、あまり好きではないな。
僕自身、しないしね。
気を惹こうとしてわざと触れたりするのは嫌だな。
ああ、でも…好意を持っている相手に触れられるなら嫌じゃないかな?
舞ちゃんに良くされるけど、嫌な気はしない。
彼女は、やたらと誰にでもはしないしね。
時と場合、相手次第か。
「お前、どうすんだよ?」
「どうするって?」
「舞ちゃんの事だよ」
「うーん…」
さつきさんが、気になる事を言っていたよな。
舞ちゃんと結婚する気がないなら、はっきり言って、って…
それって…
「お前まだあの写真の人の事が忘れられないのか?」
「もう…忘れたい」
「珍しいよな、お前が引きずるの」
今迄の相手は皆んな向こうからで、いつも逃げ出すのは僕だった。
だから忘れられない人なんて居なかったんだけど…
あの人は、初めて僕の方から好きになったからかな?
忘れたいんだけど…
魂が忘れない。
あの人が言うように、僕達は本当に過去世で何度も一緒だったんだろうね。
会ってみたら、思っていたのと全然違って、どちらかと言うと好きなタイプではなかったんだ。
僕は、おっとりのんびりした人が好きだから…
それなのに忘れられないのは、魂としか言いようがないね。
「お前の好きなタイプって難しいよな」
「そうかな?」
「上品だけど嫌味が無くて、天然の人だろ?そんな人お前の好きなピアニストぐらいじゃないか?」
伊藤恵さんね。
話し方が素敵で、温かくて…
狙って面白い事言おうとしてないんだけど、天然だから面白くて楽しい人。
理想の女性だよね。
でも「わたくしは、24時間ピアノの為だけに生きているのよ」なんて仰ると、やっぱり雲の上の人だね。
「お前さ、ラーメン屋でデート出来るか?」
「僕は無理だな。ラーメンは好きだけどスープが飲めないから行けないよ」
「そうだった。今迄1度もスープ全部飲んだ事無かったんだよな」
「一口か二口は飲めるよ。でも全部飲めないからお店に人に悪くて」
「あー前にテレビで見た。残すと怒る店」
「有ったね」
「俺は、ラーメン屋とか、焼き鳥屋でデート出来る女が良い」
煙が嫌とか、臭いがつくとか言って嫌がる子居るな。
「ラーメン食べると色々わかるぞ。食べる時は無防備だからな」
何がわかるんだろう?
「1本ずつ食べるのは、嫌だねー。行儀悪いのも嫌だけど、1本ずつ食べて「もう食べられない」って残すの嫌だねー」
「それも、あんまり行儀が良いとは言えないね」
食事をすると育ちがわかる、って親戚の人が良く言うけど、普通に出来れば良いと思う。
「お前いったいどっちが好きなんだよ?舞ちゃんか?凛ちゃんか?」
「どっちも好きだけど、まだそういう好きかどうか…」
「あのな、優柔不断もいい加減にしろよ」
前にお姉さんにも言われたよな。
「菱ちゃんの優しさは、女の子を傷つける時が有るのよ。優しいのと優柔不断なのは違うのよ」って。
「凛ちゃんが言ってた好きな人って、お前じゃないかと思うんだけどな」
「へ?僕?」
「本当に気づいてないのか?高校の時みたいに、気づかないフリとかじゃなくてか?」
高校の時、良く一緒に遊んだグループに居た子だよな。
遠回しに好きと言われたり、そんな態度されてたんだけど、良い関係を壊したくなくて気づかないフリしてた。
「お前って自惚れないと言うか…俺ならすぐ、俺に気が有るんじゃないかと思うけどな」
自惚れないと言うか自信が無いと言うか…
何で僕なの?
僕で良いの?
って思っちゃうんだよね。
凛ちゃんが僕の事好きなの?
だったら嬉しいけど…
でも…
もし、舞ちゃんもそうなら、どちらかと付き合うわけにはいかないよね。
仲良し姉妹の中を壊すような事、僕には出来ないよ。
僕の方はまだ恋愛感情かどうかわからない。
人を好きになる時って、一瞬で燃え上がるんだよな。
僕は、そんな恋を知ってしまった。
じゃあ彼女が離婚したら良いのか?と言えば、答えはNo。
あの人が他の男と愛し合って子供を産んだ事を、僕は、僕の魂は一生苦しむのだと思う。
他の人なら…
例えば舞ちゃんが離婚して子供を連れて帰って来たら、僕は子供も一緒に愛せると思うけどね。
でもあの人だけはダメなんだ。
魂が「苦しい」って言ってる。
はあ…
早く忘れてしまいたいのに、本当に魂の記憶と僕の感情とは別だよな。
2014年4月26日。
「菱ちゃん。はい、お誕生日のプレゼント」
「あ、今日誕生日か、すっかり忘れてた」
って!
「これ…」
「誠人さんが探してくれたんだけど、ちょうど春風牧場の隣の牧場が手放すみたいよ」
「でもこれ」
貯金通帳…
「コユキが稼いでくれたお金よ。コユキ達の為に使ってほしいの」
「でも…」
「大丈夫よ。経費はちゃんと取っておいたから」
有難いね。
でも、後で返せると良いな。
「あの仔達が頑張ってくれたら、どんどん増えていくわよ」
来年は、怪獣君と姫ちゃんもデビューだな。
姫ちゃんは、エアグルーヴの孫。
やっぱりどこか気品が有るから、お姉さんは姫ちゃんて呼んでいる。
お婆さんが女傑だからって、孫が走るとは限らないけど、良い仔を産んでくれるかも知れないからね。
無事繁殖入りしてほしい。
デビューもまだなのに、気が早いけどね。
「功労馬牧場作れるわよね?」
「うん、作る」
「誠人さんも普段は厳しい事言うけど、良いとこ有るでしょ?」
「そんな兄貴を好きになったんでしょ?」
「あの頃は、若かったのよ」
「オバサンみたいな事言ってる」
「何ですって?」
「いやいや」
「あらお帰りなさい」
「ああ」
「今ね、牧場の話しをしてたのよ」
「金は払っておいた。すぐに見て来い」
「兄貴」
「ビール」
「はい。ウフフ」
お姉さんは、嬉しそうにビールを運んで行った。
「兄貴、ありがとう」
「ああ」
そんなわけで、翌日僕は北海道に来ている。
僕の家って、今言ったら今すぐ動かないと親父が怒ってたから、兄貴も同じだ。
母はの~んびりしてるんだけどね。
急な話しで、慎二は仕事が有るから、今日は1人で来たんだ。
舞ちゃん達の事も気になるし、ユキ達にも早く会いたいけど、春風牧場へ行く前に、まずは隣の牧場に行こう。
【春風牧場の隣の牧場】
牧場に到着すると、馬運車が来ていた。
厩舎の方から、何頭も馬が引かれて来る。
馬運車に乗せるんだな。
「邪魔になるから、退いた退いた」
「あんた、何してんだー?」
「この馬達、どこに行くんですか?」
「処分するんだよー、牧場やめるからねー」
「処分て」
「少しでもお金欲しいっしょ」
7頭ほどの馬が引かれて来た。
馬運車に乗せようとしている。
運転手さんに聞いてみた。
「この車どこに行くんですか?」
「屠殺場だよ」
「えっ?」
僕は耳を疑った。
嘘だろ?!
「ちょっと!ちょっと待って下さい!」
「早く乗せろー」
「隣の春風牧場の者ですけど」
あっ、1頭車に乗せた!
「待って!!」
他の馬達は何か感じているようで、嫌がって車に乗ろうとしない。
牧場の人達が、無理矢理馬運車に押し込んでいる。
馬達は嘶いている。
「待って下さい!この馬皆んな春風牧場に運んで頂けますか?」
「それなら、他の運送会社に頼みな。この車は屠殺場行きだからな」
「春風牧場で引き取るのかい?まあ、買ってもらえるなら良いけどねー。年取ったのも居るよー、どうする?」
「全部です。早くその車から降ろして下さい!」
「売るなら、場長と話しさつけねばね。あんたじゃ話しになんねから。あ、モシモシ。春風牧場さんの若い人が来てね、繁殖買いてえって言ってるけど…」




