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僕の人生を変えた恋人16

さあ全馬ゲート入りしたぞ。


「スタートしました!コユキは、好スタートからジョッキーが下げて後方の位置取り」


コユキの定位置だね。


「本当、いつもあんなに後ろでハラハラするわ」


桜の花びら舞い散る中、まだ幼さの残る3歳牝馬18頭が、駆け抜けて行く。


「ハナを切ったのは、2番カネノカンムリ、5馬身ほどのリードです」


コユキは、道中後方でじっと我慢して脚を溜めている。


「ジョッキーの言う事聞くようになったな」


「先頭はカネノカンムリ。これは大逃げだ。場内がどよめいています。リードは8馬身から10馬身、先頭から後方までは20馬身ほど」


それほど早いペースじゃないみたいだ。


我慢しきれると良いけど…


「3.4コーナー中間、カネノカンムリのリードは10馬身ほど。おっと!コユキが馬なりで上がって行く!絶好の手応えです」


捲り気味?


「大丈夫かしら?」


馬なりで、絶好の手応えだから、大丈夫だと思うけど…


のんびりしてたら、カネノカンムリの大逃げ捕まえられないもんな。


「第4コーナーを回って、最後の直線に向かいます。カネノカンムリのリードは、まだ5馬身から6馬身ほど、このまま逃げ切れるか」


コユキはまだ中段で、残り2ハロンだ。


「後方の馬が、カネノカンムリを捉えにかかる」


コユキはまだ来ない。


「ラスト1ハロン。大外から1頭もの凄い脚で追い込んで来た!」


「来た!!」


「大外からコユキ!果たして届くのか!?」


「コユキ頑張れ!」


「カネノカンムリは、馬群に飲み込まれた!大外からコユキが強襲!まとめてかわす勢い」


凄い脚だ!


「コユキです!ラスト1ハロンの女コユキ!1馬身半差で完勝!です。16番コユキ鮮やかに差し切りました」


「勝ったわ!!」


「本当にコユキよね?」


「だって、芦毛だったよー」


「本当に勝ったのね」


やってくれた…


密かに期待はしていたけど、とにかく無事に回って来てくれれば良いと思ってたんだ。


でも、コユキは、きっちり勝ってくれた。


「信じられないわ、ウチで生まれた仔が桜花賞を勝ってくれるなんて」


「まだ夢を見てるみたい」


「爺ちゃん達も喜んでるだろうねー」


「沢山褒めてあげなくちゃ」


「コユキ良い子良い子」


「頑張ったね」


「うん」



ウイニングランだ。


皆んな帰って行くのに、コユキは1人だけで「え?何?私どこに行くの?」ってキョトンとしているのが可愛い。


初めてのG1、初めてのウイニングランだもんね。


「口取り行こう」


コユキは桜花賞の肩掛けを掛けてもらってる。


本当に桜の女王になったんだな…


僕は、桜ちゃんを抱かせてもらって記念撮影だ。


春風牧場の人達に来てもらってよかったよ。


桜花賞の口取りの写真が寂しいと、コユキが可哀想だもんね。


皆んな並んで待っているんだけど、コユキは中々言う事を聞かない。


厩務員さんが引っ張って来るんだけど、皆んなの列から離れてしまう。


どうしてそこに連れて行かれるのか、わからないみたいた。


「コユキ良い子だね」


僕がそう言うと、桜ちゃんがコユキの鼻を撫でた。


「仲良し」


コユキは少し落ち着いたようだ。


ジョッキーが指を一本立てて「これで一冠」


記念撮影出来た。


表彰式が有るけど、僕はそういうの苦手だから、お姉さんとさつきさんに任せて逃げよう。


あ、コユキ、桜花賞の馬服着て可愛いぞ。


馬服もピンクで、桜花賞って書いて有る。


【厩舎】


「あいつ、勝負所で自分で動いたんです。中々賢い馬ですよ」


「ありがとうございました」


「これで、牝馬三冠狙えるのはコユキだけですからね」


「ええ、でも」


無理はさせないでほしい。


コユキは成長が遅めだから、ここで無理させてケガでもしたら、いや、最悪予後不良なんて、絶対嫌だ。


「大レースを勝ってくれるのは嬉しいんですけど、無事で居てくれるのが一番ですので」


「そうですね。俺は、派手なガッツポーズはしません。馬に負担をかけたくないので」


「そうですか、助かります。次も宜しくお願いしますね」


お姉さんもわかってくれているんだ。


サラブレッドは、ガラスの足。


ちょっとした事がケガにつながり命取りになるって、良く話すからね。


成長途中の馬は特に、骨折などに注意が必要だし、あまり無理させると、燃え尽きたりするのも心配だよね。


それでも次はいよいよオークスだ。


嫌でも期待がかかるね。


「菱ちゃん。オークスって?」


「優駿牝馬だよ。男の子で言うダービーだね」


「わー、大変ねー。コユキがそのオークスに出るのね」


オークスは、僕の一番好きなレース。


普通の人はダービーなんだろうけど、牝馬好きの僕はオークスだね。


恋人エアグルーヴが勝ってるからかな?



一生に一度、3歳の時だけしか挑戦出来ない三冠レースの1つ。


中でもオークスは2400mの距離、クラシックディスタンスで争われるんだ。


それまで、殆どの馬が走った事の無い未知の距離だし、東京コースだし、色々な意味で楽しみだな。


さて、今日はお姉さんは厩舎の人達と祝勝会が有るので、僕は春風牧場の人達と京都~


兄貴が旅館を取っておいてくれたので、皆んなで京都に向かった。


「あー、京都でゆっくりできたらいいのにねー」


さつきさんは、牧場を離れて旅行なんて滅多に無いらしくて、嬉しそうだ。


【京都の旅館】


「お腹空いたな」


「え?競馬場で食べてたじゃない」


「そうだけど」


「食いしん坊ね、メモメモ」


凛ちゃんのメモが始まったぞ。


「夕食はまだだよな」


「先にお風呂に入って来ない?」


「うん、行こう」


「桜も」


舞ちゃんと凛ちゃんは、桜ちを連れてお風呂に行った。


ここは、二間続きの部屋になっているみたいだ。


僕だけ別の部屋にしょうと思ったんだけど、一杯で予約が取れなかったんだ。


食事はここで、皆んなで一緒に出来るみたいだね。


「菱ちゃん、ちょっと良いかい?」


「はい」


さつきさんは、皆んなとお風呂に行かないから、どうしたのかと思っていたら、何か話しが有るみたいだ。


「舞の縁談は聞いてる?」


「あ、はい、聞きました」


「良い話しだと思うんだけどねー、舞が、うん、て言わないんだよねー」


「そうなんですか…」


「駿が問い詰めたんだけどねー、好きな人が居るみたいだ、って言うのよー」


え?好きな人…居るんだ…


そうなのか…


「はっきりは、言わないんだけどねー」


牧場の人でも、獣医さんの先輩でもないなら、誰なんだろう?


「なんだか、凛に遠慮してるみたいなのよ」


そう…なんだ…


「凛は凛で、お姉ちゃんに遠慮してるみたいでねー」


???


「菱ちゃんは、結婚は考えてるの?」


「えっ?」


「凛がね、大学出たら東京に行きたい、って言い出してねー。駿が「はんかくさい事言うでねえ!」って怒ったんだよねー」



凛ちゃんが東京に行きたい、って言い出してから、仲良し姉妹の仲が少しおかしくなったらしい。


「菱ちゃんは、23でまだ結婚は考えてないかも知れないけど、舞は24だからねー。女の子は早くしないと子供産むしねー」


「はあ…」


「舞と結婚する気が無いなら、そう言ってやってー」


え?


「あの子は、はっきり言わないけどねー、わかるのよーお母さんだからねー」


何がわかるんだ…???


あ、3人が帰って来た。


まだ少し濡れた髪。


ピンク色の肌。


お風呂上がりの女性は、綺麗だな…


「お兄ちゃん、お風呂は?」


「あ、行って来る」


ああ、お腹空いた。


さつきさんの話しも気になるけど、夕食の前にお風呂に行って来ないと。


まあ、僕のお風呂なんて、すぐだけどね。


サッパリした。


部屋に戻ると料理が運ばれて来た。


京懐石だね。


綺麗だ…


京都の地酒、玉乃光。


美味しい。


「抱っこ」


「食事の時は、抱っこはダメだよ」


「どうして?」


「お行儀悪いからね。はい、お兄ちゃんの横に座って」


「はーい」


あ…さつきさんと目が合った。


さっきの話しを思い出してしまった。


舞ちゃんの縁談…


凛ちゃんの上京の話し…


考えてたら、料理の味がわからないぞ。


凛ちゃんは、東京で一人暮らしするつもりかな?


大学は、来年までか…


舞ちゃんは、獣医さんの学校は6年間だから、最後の年だな。


卒業したら、お父さんみたいな、北海道の牧場を回る獣医さんになるんだよね。


食事も終わり、襖を開けると、奥の部屋に布団が敷いて有る。


「お兄ちゃんと寝る!」


「え?」



桜ちゃんが、布団に潜り込んだ。


本当可愛いな。


僕も一緒に寝よう。


………眠れないぞ。


「スースーzzZ」


桜ちゃんは、寝ちゃった。


疲れたんだね。


僕は、春風姉妹の事を考えていたら眠れない。


向こうの部屋から声がするけど…


襖を開けてみるわけにもいかないよね。


ああ、もう、寝よ寝よう。


明け方やっとウトウトした頃…


「菱さん、新聞!コユキが出てる!」


凛ちゃんの声で目が覚めた。


桜花賞、ラスト1ハロンの女コユキ桜の女王戴冠…


ラスト1ハロンの女…だって…


確かに、ラスト1ハロン物凄い脚で飛んで来たけど…


「爺ちゃん達も、祝杯を挙げたんだって」


「もう、取材の電話がかかって来たらしいよ」


「社長に聞いてみます、って答えといた、って、どうするー菱ちゃん?」


「え?僕?」


「菱ちゃん社長でしょう」


そうだった…まだ自覚が足りないな。


「牧場長に任せます。爺ちゃんにお願いして下さい」


そして、凛ちゃんのブログに載せている舞ちゃんの絵本『仔馬とペガサス』が完結した。


桜の花びら舞い散る中戴冠式の絵がとても綺麗だね。


コユキが桜花賞に勝ってから、春風牧場にも中央の調教師さん達が来るようになったんだ。


ユキの2013コユキの全弟、通称怪獣君を見に、馬主さんや調教師さんが来てくれるけど、馬主は葉月早紀に決まっているからね。


彼が何故怪獣君と呼ばれているかは、想像がつくよな…


怪獣君も、来年デビューだ。


お姉さんみたいに活躍してくれると良いけど、そうは簡単にいかないのが競馬の世界だからね。


G1を勝って種牡馬になれれば良いけど、なれなければ、乗馬か、芦毛だし誘導馬になるのも良いけど、気性矯正が大変だぞ。


そして最後は、春風牧場で引き取りたいんだ。


早く功労馬牧場を作らないとな…


まあ、今からそんな心配するより、まずは、次のコユキのオークスを楽しみにしよう。



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