僕の人生を変えた恋人12
11月の終わり、コユキは京都競馬場で、牝馬限定戦の500万下白菊賞に出走する。
芝のマイル戦、1600mだね。
僕は、SALEの準備やクリスマスのディスプレイなどで、忙しくて行けないんだけど…
店でラジオを聞くわけにもいかないし、気になるな。
「オーナー、パワーストーンブレスはどうします?」
「クリスマスカラーにしようか」
「どの石ですか?」
「8㎜レッドアゲートとグリーンアゲートが良いな。それに6㎜水晶を入れて、周囲の人との愛と絆を深めるブレスだね」
「良いですね、クリスマスに愛と絆のブレス」
「それと、深い色のアベンチュリンとレッドジャスパーに水晶」
「はい」
「疲労回復とエネルギーの活性化、対人関係の改善、家庭円満だね」
「こっちの深い色のですね」
「そっちの方がジャスパーと色合いが合うでしょう?」
「そうですね」
「じゃあ、それで作ろうか」
店の中には工房が有って、アクセを作っているところが見えるようになっているんだ。
僕は店長と一緒に、パワーストーンブレスを作り始めた。
「ネックレスは、水晶無しね」
「はい」
他のスタッフは、接客をしたり、クリスマスのディスプレイを作ったりしている。
「町もクリスマスの飾りつけされ始めましたしね」
「うちも、今日中にディスプレイしましょう」
そろそろ出走の時間だよな…
メールだ!
お姉さんからか?
「冬休みお姉ちゃんと一緒に、そっちに行っても良い?」
凛ちゃんからだった。
「良いよ、勿論」と、返信した。
「12月20日から お休みなのよ。おば様に聞いて」
良い、って言うに決まってるけど、一応聞いてみるか。
母に電話した。
いつもと同じ答えだった。
「OKだよ」と、凛ちゃんにメールした。
「わあ、ありがとうo(*'▽'*)/☆゜’またお店でバイトしたいのよ」と、返信が来た。
「良いよ( ̄▽ ̄)忙しい時だから、助かる」と返した。
「クリスマスだから、どんなアクセサリーが有るのか楽しみ(*^^*)」と、返って来た。
そう言えば、慎二のヤツ、凛ちゃんに告白する、って言ってたな…
何だか知らないけど、慎二にも凛ちゃんにも、僕が舞ちゃんの事が好きだと思われてるみたいだけど…
あ、またメールだ。
「コユキのレース終わったわよ」と、お姉さんからだ。
え?勝ったの?負けたの?
「帰ったらゆっくり話すわ」
って、どうだったの?
負けちゃったのかな?
「今から記念撮影(⌒▽⌒)沢山褒めてあげるわ」って!
勝ったんだ!
「勝ったんだよね?」と返信した。
「そうなのよー(^∇^)」と、返って来た。
【葉月家のリビング】
「あの仔ったら、また出遅れたのよ」
「出遅れ癖ね」
「でも、その後が凄かったのよ」
お姉さんは、少し興奮気味に話してくれた。
「菱ちゃんが居ないから、この前みたいにわからなかったらどうしようと思ってたんだけどね」
コユキは、出遅れてまた後方で足を溜めていたらしい。
「それが、途中から1人で前の方まで進んで来たの」
「大捲り?」
ファレノプシスみたいに?
「そう言うの?4コーナーではもう先頭の馬と並んでたわ。白いから、あんな動き方すると目立つのよ」
「それで、直線失速しなかったんだね」
「皆んな後ろに置いて来ちゃったの」
「スタミナと根性も有るみたいだな」
「そうなの?」
「これでオープンだね。阪神ジュベナイルフィリーズ、出られると良いけど」
「何かね、12月の大きなレースに登録するって、先生が仰ってた」
「2歳の女の子のG1だよ」
「ジーワン?」
「グレードワン。G2、G3と有って、G1が1番上だよ」
「そうなのね」
「出るだけでも大変なんだ」
500万勝っただけじゃ難しいかもな。
前走からあまり間隔も無いし、除外の対象になりやすいかも…
【大学】
「へー、冬休みに来るのか」
「うん」
「クリスマスだし、チャンスだな」
慎二はネットで何か調べてるぞ。
「ホテルのレストランは、どこも一杯だな…お兄さんの店はどうかな?」
一応兄貴に聞いてみよう…
いや、兄貴は怖いからお姉さんにね。
12月、僕の店はSALEで大忙しだ。
凛ちゃん、早く来てくれたら良いのに。
来るのは、22日だもんな。
あ、凛ちゃんからメールだ。
「私の作ったアクセサリー見て\(*⌒0⌒)」って、写メだ。
猫や馬や蹄鉄をデザインしたリングとペンダントヘッド。
ハンドメイドのシルバーアクセサリーだね。
「来る時持って来て、店に凛ちゃんのコーナー作るから」と返信した。
「Σ(゜ロ゜」)」本当?!本当に良いの?」と返って来た。
「全部持って来てね~」と返した。
「わーありがとです♪(〃▽〃)ゞ」と返信が来た。
【葉月家のダイニング】
「菱ちゃん、ワイン開けて」
「はーい」
今日のワインは、シャトー・モン・ジョワ。
セミヨンが80%の甘いワインだから、お姉さんはデザートと。
僕は、ブルーチーズで。
「今日連絡が有ってね、コユキ、除外だって」
「そうか…残念だけど、前走から中1週じゃキツイし、休ませた方が良いよ」
「そうね…短期放牧に出す、って仰ってたわよ」
無理して阪神ジュベナイルフィリーズに出走するより、来年のクラッシックに備えた方が良い。
出られたら良いなあ~
春風牧場の馬が中央で走るのは何十年ぶり、って言ってたけど…
コユキは、一勝を挙げるのが大変な競馬の世界で、勝ってくれた。
それだけでも大変な事なのに、オープンに上がって、僕達に、クラッシックの夢まで見せてくれているんだ。
「来年の桜花賞に出したいのか?そんなに甘いもんじゃないぞ」
「甘いの食べる?」
「俺は、甘い物は嫌いだ」
「知ってたわよ」
兄は、ビールを持って行ってしまった。
「兄弟で甘い物が嫌いなところは同じなのよね、性格は全然違うけど」
無口で、口を開けば厳しい事しか言わない兄だけど、それでも店の予約は取っておいてくれたんだ。
お姉さんを通して頼んで、お姉さんを通しての返事だったけどね。
【アクセサリーショップ】
「わー、本当にここに置いてもらえるの?」
「そこが凛ちゃんのハンドメイドのコーナーだよ」
12月22日、舞ちゃんと凛ちゃんが来た。
凛ちゃんは、荷物を置いてすぐに店に来てくれたみたいだ。
「お姉ちゃんは、早紀さんと一緒に出かけたの」
僕達は店が忙しいので、2人で出かけたみいだ。
お姉さんは、僕の中学の先輩だけど、卒業してから部活に来てくれた時に知り合ったんだ。
僕より3つ上だから、舞ちゃんとは2つ違いだ。
年が近いから、気が合うみたいだね。
「これで全部です」
「リアルなのも良いけど、これ、可愛いですね」
「売れると良いね」
「そう言えば、菱さん…オーナーは、アクセサリーしないんですね」
バイト中だから、敬語だな。
「前は、リングとかしてたけどね、今は見えるところにはしないんだ」
「見えないところに?」
「ペンダントだけね」
「そうなんですか」
「本当は、つけてる方が宣伝効果みたいなの有るんだけどね、そういうのは、女性スタッフに任せてる」
「あら、どうして、それ、しまっちゃうの?」
「あ、アハハ、これは良いんです」
何だろ?
何かショーケースから出したみたいだぞ。
「わあ、このパワーストーンブレス素敵」
「クリスマスカラーのアゲートね」
「愛と絆のブレスだよ」
「パワーストーンも勉強しようかな?」
アクセサリーを見る凛ちゃんの目は、いつもキラキラしているな。
女性は、アクセサリーが好きだ。
僕は、アクセサリーはあくまで女性の美しさを引き立てる物で、目立ち過ぎない方が良いと思っているんだ。
こんな仕事をしているのに、言って良いのかな?
内緒の話しだけど「ありったけのアクセサリーをつけてます」みたいな女性は、あまり好きではないな。
2つか、多くても3つぐらいまでかな?
その方が、品が良いと思う。
凛ちゃんは、まだアゲートのブレスを見ている。
「それはね、第1、第2、第4チャクラ対応だね」
「素敵」
「そんなに気に入った?」
「素敵なのは、オーナーです」
「え?」
ちょっとドキッとしたけど、アクセサリー好きの凛ちゃんは、アクセサリーに詳しい僕が素敵に思えたみたいだ。
仕事だから、詳しいのは当たり前なのにね。
「愛と絆のブレス…素敵だな…」
「そっちは、疲労回復とエネルギーの活性化、対人関係の改善、家庭円満」
「こっちの赤い石、お姉ちゃんのネックレスに似てる」
「レッドジャスパーだね、前に来た時に買って行ったよ」
「いらっしゃいませ」
「凛ちゃん、そこの工房で作って良いよ」
「わーい、材料持って来て良かった」
【工房】
凛ちゃんは、シルバーのリングを作り始めた。
お客様がご覧になっている。
気がつくと、外にも人が立ち止まって見ていた。
「わあ、それ可愛い。出来たら欲しいな」
「ありがとうございます。サイズはいくつですか?」
「わからないんです」
僕の小指と同じぐらいだな。
「8でしょうか」
リングサイズゲージで測ってみた。
「本当だ、どうしてわかるんですか?」
良くお客様に聞かれるけど…
「仕事ですから」
うん?
何か熱い視線を感じるぞ。
凛ちゃんだ。
また、このぐらいの事で「素敵」とか言うのかあ?
お客様は、リングが出来上がるのを、ワクワクして見ていらっしゃるようだ。
あの馬のペンダントヘッド良いなあ。
僕は、実はリアルなのより、ゆる~く可愛い方が欲しい。
馬の縫いぐるみも、競走馬のより、ターフィー君のが可愛いよなあ。
エアグルーヴのは欲しいけどね。
猫のペンダントヘッドも可愛かったな…
あれは、ぶーニャンがモデルだな。




