赤点と彼女
7
出来もしないのに、帰宅して寝てやろうと思っていた。
僕は、ポケットの中の携帯が激しく震えている事に気づいた。
開いて見れば、熊崎からの着信である。
内容は言わずもがな、マレビト退治の用件であろう。
嫌だという想いが直ぐに沸いたが、逃げるわけには行かない。また、送迎してくれるらしいので、学生服のまま、歩いていけばいいか。そう考えていると、担任がやってきた。
「え、ではこないだのテストを返却する」
なんて、間の抜けた声調でつげて、僕はテストの存在を思い出した。しばらく、級友が名前を読み上げられるのを利いていると、自分の名前を呼ばれた。呼ばれたので、解答用紙を貰いに行ったら、教師は『勉強しろ、直江』と言った。
何故僕にだけソンナ事を言うのか?
そう思って用紙を見れば、なるほど、道理であった。
僕はテストで赤点をとってしまった。
なるほど、そうか、平均点以下なのだから、当然だ。そして、赤点の連中は担当教諭の追試を受けなければならない、と言う話ではなかったか。
酷く面倒臭いなあ、と僕は思った。
やがて、テストを返却し終えた担任は、授業を始める。教科書何ページの小説を読めということで、適当に教科書を開いて、僕は面白くない授業をうけることにした。
僕は小説を読み終えたのが早かった。
なので、窓の外を眺める。
この後、苦痛でしかないアルバイトが控えていると思うと、憂鬱になった。
気分が重くなって、僕はため息をついた。気が滅入っているのは、僕だけだろう。熊崎は、今頃、あの澄まし顔で授業を受けているんだろうな。ずっと僕より、優等生な顔をしてやがるし。
そんな余分な事を考えると、斜め左奥で悠々と昼寝をしている沢田に考えが向かった。沢田――、憎い恋敵にして、『何故か』応化儀杖となった芹澤さんの担い手。どうやら、彼と芹澤さんは、クサナギ計画なるものに巻き込まれていると言う話だった。
沢田が、僕よりも混乱している筈だと思うと、いい気味だった。
が、沢田が困る事は、芹澤さんを道連れにしている訳だから、それを思うとやるせなくなる。マレビトに襲撃され、やむを得ず、僕は熊崎と契約した訳だが……あの混乱した状況下で、何故僕は熊崎を選んだのだろうか。
熊崎でなく、芹澤さんでも良かったはずである。そしたらそれで、クサナギ計画とやらに巻き込まれるのだろう。だが、熊崎と過ごすより、芹澤さんと過ごした方が爽快な気分でいられることは間違い無しである。
あの女といると、疲れる。
正論尽くしで言い返せず、僕の気持ちなぞ考えなさそうな、あの女。
僕の心理的な余裕は減り続けていたが、それでも僕はマレビト駆除から逃げなかった。こんどこそ芹澤さんを守るためには、強くならねばならないからであった。
そう考えると、あの日、僕らが契約したのは、間違いだったのかも知れない。
僕は、教科書を開いたまま、記憶へと、思いを馳せた。