高等学校生
5
朝目覚めれば、筋肉痛だった。
昨夜、よく使った筋肉と腱が、疼痛を訴え、動く事をボイコットしていた。
痛いので温シップを貼る事を決めてから、僕はノロノロと布団からでる。
寝具の中での目覚めが、そんな具合だったから、僕の気分は悪かった。いっそ、学校もサボってやろうかと思ったが、学校をサボってもすることが無い。
したいことが全く見えないなら、将来のために学んでおくのがベターだろうと、何時もの打算が働いた。
いや、打算よりも、普通でいたいと願う小心か。
そんな風に自己分析をしながら、学生鞄に教科書を詰め込んで、適当な朝食をとる。ほぼ慣習的につけていた液晶テレビでは、どこかの企業の不祥事のニュースをやっていた。それよりも、僕は天気予報の方が気になった。
雨は降らないと言うので、僕は傘を持たず自宅を出た。
予報のとおり、空は青く、晴れていた。
自転車通学が許されない距離だから、市バスに乗っていく。トイカやスイカみたいに、タッチ式のカードなんか導入されてないから、僕は何時ものように、磁器式のカードを使ってバスに乗る。
まだ、余り乗客は少ない。だから、簡単に席に座る事が出来る。酔いやすい方なので、車輪の上をさけた席に腰掛ける。カバンを膝の上に抱え、ポケットに突っ込んでおいた、無名メーカーのポータブルオーディオのイヤホンを耳に刺して、プレイを押す。聞こえるのは好きなアーティストの好きな楽曲だった。
そうして、年代物の、ボロい車体は、ディーゼルの音を響かせ、街を走っていく。
シャッフル再生だからか、オーディオからは自分が余り聞かないアルバムの楽曲が流れていた。
バス停に止まるたび、北校の生徒が増えていく。そして、生徒が増えるたび、バスの中が五月蝿くなる。朝から、おしゃべりに花が咲いて、本人らは楽しいだろう。
が、聞こえてしまう僕としては不愉快だった。
黙れよ。
そう言えたら、どれだけこの胸の内が爽やかになるだろうか?言いたい台詞を飲みこんで、過ごす毎日が、また始まったのだなあと、僕はバスの中でそう思う。ホントはトモダチが少ないから妬んでいるのかも知れないけど。
兎に角、臆病な自分が怨めしい。
どうしてこうなったんだろう?って自分に問い掛ければ、答えは直ぐ出るんだケドさ。でも、答えを見つけたとして自分がそれを治せるのかと考えると、かなり微妙だ。
変えるのは、難しい。それに比べ、現状維持のなんと楽な事か。何も考えなくても続けて行けるんだ、変化に伴う苦痛や懊悩を避けられるのならば、現状維持で僕は良いと思う。脳味噌に思考を放棄させることができるなんて、サイコーじゃないか?
そんな事を思いながら、高校近くのバス停で降りて、コンビニに入った。
雑誌のラックを物色して、最新号のマンガ雑誌を抱えつつ、菓子パンと清涼飲料水を買う。レジでお金を払ってから、僕はトコトコと、高校の校門を潜った。
下駄箱に、靴を投げ込み、上履きに履き替える。そして階段を上がって、何時もの廊下を抜けると、これまた毎日変わらない教室にたどり着く。僕は、ロッカーにカバンをしまってから、こないだから読んでいる小説を片手に、席に付いた。
誰も挨拶してこないが、これも何時もの事だ。だいたい、挨拶っても社交辞令的なものに成り下がっているのだから。形だけのものなんて偽物だ、言われて不愉快になるだけだ。
予鈴まで時間はある、何ページかは読めるだろう。