機能
立っていても仕方がない。
真意はどうあれ、瀬古と協力して、ときおり襲い来るマレビトを殺し続けていた。
従業員口や非常階段を歩いたり通り抜けたりするうちに、僕らは商業スペースに戻ってきたようだった。
警戒を解いたのか、瀬古は、咎獅子を一瞥してから言った。
「しかし、お前が二段目を使えるなんてねえ」
「なんだ、それ」
僕は、先ほどから瀬古が言う、二段目の意味が解らず訊いた。
「応化儀杖の機能。担い手の技量、そして使い方にあわせ、形状が変化することさ。二段はそんなもんだが、三段以降はすげえらしいな」
「どう、すごい?」
瀬古は、ふざけた態度をとってから、言った。
「ま、魔法が使えるみたいな?…っても、まあ、俺らがパワーアップするでもねえ、ただ剣が変化するだけだしよお、あんま意味はないか。それに、俺らはさ、人の限界近くまで来てるしな。アスリートがぶち当たる、限界って奴を感じてんだろ、直江。これ以上、俺は速く剣を振れない!とか」
だらだらと、非常に、まとまらない言い方だ。
「ま、そんな話は忘れてくれ、直江。それよりも、出番だぜ」
曲がり角から、現れるマレビト。
僕らは、お互いに武器を携えながら、彼らを斬って斬って切り払う。
縦横無尽に剣を振るう中、瀬古が言った。
「なあ、直江。マレビトが何なのか、考えたことはあるか?」
剣を振りながら、マレビトを殺しながら、瀬古は補足する。
僕は、飛び掛ってくる犬型のマレビトを殺しながら、答えた。
「ありますけど」
首を断った、マレビトが燃える。
瀬古は、こんなことを言った。
「マレビトは、妖怪や悪魔、神みたいなものじゃない。どちらかといえば、誰かが作ったような気がすんだよ。都合よく、七支や担い手たちに殺されて、担い手どもの勘を錆びさせないように、応化儀杖に魔力が滲みさせるために、作られたみたいな」
瀬古は最期の一匹を殺して、振り返る。
「まあ、コレが正しい保障は無い。ただ」
瀬古は、言った。
「漠然と斬る、こいつらにも意味があるはずだ」
そして、僕らは無言になった。
マレビトが一旦消えたのもあるが、僕らは黙っていた。
ビルの中を進んでいくと、分かれ道に出くわした。どうやらオフィスとホテルの分かれ道であるらしい。
「直江、別行動だ」
僕が呼び止めようと、声を出すと、彼はこう言った。
「協力して共倒れよりも、俺らが生き残ることを優先しようや。俺は、いくぜ」
そのまま、振り返る事無く、瀬古は歩き去った。
そうして、黙って瀬古の背中を見ていると、熊崎が発言した。
“応化、解いてくれない?”
そう熊崎が言ったので、咎獅子を床に突き立ててから、熊崎に背を向けた。
僕は、彼女の方を向かないことを決める。
「行こう」
また着替えが終わった頃合を見て、僕は言った。
それから、僕らは歩き出した。