くまざき
エレベーターに乗って上へと向かう。
何が起こっているのか知らないが、やけに悲鳴が響く。
虐殺でも起きているのだろうか?
そう推測しながら、待つ。エレベーターのドアが、開いた瞬間だ。
何かが室内に飛び込んできた。
顔を狙った何かを避ける。が、ソイツは、しつこく襲い掛かってきた。
「ッ!」
マレビトだった。
…ついてない、上にも出ていたのか!
拙いのは組み伏せらせてしまったことだ。奴は、僕を殺そうと、喉笛めがけて噛み付こうとする。僕は、咄嗟に体を捻って、避けるが、上手くは行かなかった左眉を思い切り斬られた。
僕は怪我にも構わず、渾身の力でマレビトを蹴り飛ばした。
跳ね飛ばされた、マレビトは受身を取ると、距離を離そうとする僕に飛び込んでくる。
僕は応戦しようにも得物がないため、無様に、逃げるしかなかった。
エレベーターから出て一生懸命走ったところで、根本的な解決にはならない。
と、わかっていたのに僕はあるオフィスのドアを開ける。
が、そこはビルの角にあたるらしい。僕は追い詰められたことを知りながら、マレビトの方へと振り向いた。
こんなところで終わりかと思うと、情けない。
僕は観念しようとした。
が、その時、誰かの叱咤が聞こえた。
「走れ!」
聞き覚えのある声に戸口をみた。
すると熊崎が、此方だと、手を振っている。
忌々しくても、
憎くてたらしくても、僕は、彼女に縋らねば、戦えない。
そのことを新ためて知った僕は彼女の方へと疾走する。
マレビトに向かって走る。
…何時もの犬型とはいえ、オフィスの通路は狭い、だからマレヒトは回避できないようにと、三角跳びのように壁をけって跳躍した。
赤い口腔と白い牙が、僕をかみ殺そうと開く。
僕はそれを、左足と上体の脱力で交わした。
力を抜いた体は、重力に従い、倒れこむ。その上をマレビトとは通過した。
背中を爪で切ったが関係ない。
僕は彼女に向かって手を伸ばす。
「熊崎!」
手を取った瞬間、熊崎が言った。
「私でいいの?」
左の掌を合わせる。
冷たい、彼女の指が、僕の甲に絡む。僕も、彼女の手に手を合わせ、そのまま、ワルツを踊るかの用に彼女の肩に手をかける。
言うべき台詞は、解っていた。
「もちろん」
そのまま、強引に指を重ねる。
同時に、彼女の、存在が、武器のソレへと生まれ変わっていく。抜け落ちる、彼女の存在を感じながら、僕は咆哮をあげつつ振り返った。
走り出していたマレビトを、叩き切る。
必殺の一刀はデスクごと、マレビトを破砕した。