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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
いかにして彼は呪詛を受け入れたか?
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菊花機構


 車に乗ると、やることがなくなる。

 マレビトに切られた傷は、やや痛かったが我慢できる範囲だ。

 だから、僕はこの車を出してくれる“機構”について考えることにした。

 機構とは、簡単に言えば、マレビト駆除を請け負っている会社のようなものである。正式名称を菊花機構という、秘密結社。マレビトを殺すために、最低でも、僕ら七組の応化儀杖とその担い手、あと僕らをサポートするエージェントで構成されているはずの、組織。

 何処が運営しているのかは知らないけどね。

 マレビトが人を襲うのだ。考えようによっては正義のミカタっぽく思える組織なのだが、たぶん違うだろう。

 とりあえず、僕らはその機構と言うモノに所属していた。

…正確には熊崎と契約したため、所属せざるをえなかったのだが。

 そんなコトは別にいい。僕が不思議に思うのは、この組織は何処からお金が来ているのかについてだ。この高級車も機構の手配。そう思うと、どれだけ金がこの組織には在るのだろう?と考えてしまう。

 何処の誰が出資しているのか知らないが、機構の上の連中は、僕ら七組――七支とも言われる僕らに―謙ったとも取れる待遇で接する。

 例えば、給料もその一つ。

 一介の学生に過ぎない僕の口座に、信じられない額の振込みがあることも、その裏付けだ。僕以外の担い手の連中の中には、この報酬で参加している人間もいるくらいだし。文字通り、命を賭けてまで金が欲しいのかと、僕は何時も疑問に思う。けど、借金などお金を苦に自殺する人間も多い、この国では。

…いや、この国でも普通かもしれない。きっと。

 でも、大きな金の動きがあると言う事は、何らかの資金源があるということだ。だから、僕はコレらのお金は、汚い金から来ているのではないか?と考えてしまう。だってそうだろう?この不景気にも関わらず、信じられない額をもらえているのだ、疑っても不思議じゃない。

 そこまで考えた僕は、ふと窓の外の景色が目に入った。

 見慣れた風景に、自宅のすぐ近くまで車が来ている事を知る。

 だから、もう考える事は辞めにした。

 別に、どうでもいい事なのだ。

 考えたくも無いし、考えたところで憶測の域をでないんだからさ。資金源だとか、この機構が正義のミカタなのかなんて、どうでもいい。大切なのは、僕が死なないで、さっさと契約を破棄する日がくることなのだから。 

 五分ほど過ぎてから、自宅付近の公園で車が止まる。

 自宅前で止まらないのは、僕がご近所と家族を気にして、運転手に頼んだからだ。彼は、おそろしく綺麗な標準語で、かしこまりました、と言ってくれたっけ。

安全に停車したのを確かめてから、高級車っぽいドアを開ける。

「…じゃ、お先に」

 カバンを持って、車から降りる。

 そのとき、僕は形式的だったが、一応、熊崎に言ってみた。

「…またね」 

 そう、僕は一応のコンビである熊崎に言ってみたものの、僕の台詞は彼女に露骨に無視をされた。なので、僕は、内心苛つきながら、車を降りた。

 クラクションを軽く鳴らすと、黒塗りの高級車は夜の道路へ走り去っていった。

僕は自宅に入ろうと、門を開けたところで、ふと思った。

 もしかして熊崎に、僕の声は聞こえてなかったんじゃないのかと。

 だが僕は直ぐに、思いなおした。都合勝手のいい妄想だ、あの熊崎に限って僕の発言を聞き逃すなって考えられない。

 そう僕は自分に言い聞かせながら、玄関から自宅へと入っていった。


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