表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
食らいつく獣をその手に
39/52

彼女へ施せる

「…運が悪かったんだ」

 搾り出すように呟いた言葉は、何の意味もないと、僕は解っていた。

「そうだよね」


 空虚な、

 同意。

 僕は、

 嗚呼、

 理解した。


 熊崎が想った相手は、眩し過ぎて、その隣にはすでに女がいる。

 その状況に、熊崎は打ちのめされたんだ。理由としては下らないだろう、恋愛至上主義を信じない人間なら一蹴できるお粗末な理由だ。

 けど、病んだ彼女には致命的だった。

「一人は、嫌なの」

 ボロボロと、彼女は泣きながら訴える。

「だけど、剣は私のことなんて、覚えていない。嶋は、私だけを見ていててくれなかった」

 熊崎は、沢田の下の名前を呼んでいた。

 その姿は、見ていて、快いものではない。

…あんな馬鹿が、女を泣かすのだ。

 人間的に苦手とはいえ、熊崎は相方だ。僕は、やはり能天気な沢田を憎んでみることにした。けど、無理だ、アイツは妬む事しか出来ない。

 僕が妬むような…イイ奴だからだ。

 黙った僕の目を、赤い目で見ながら、熊崎は言う。

「そして、直江は―――わかろうとして、くれない」

 事実を言われた。

 その通りだ、僕は他人なんて重いものを背負える自信が、すこしもしない。

 熊崎を支える事を、僕は出来るんだろうか?

 哀れだとは思えても、救いたいと思えない僕は、きっと無理かもしれない。

 

 在るべき価値観の一部を、僕は喪失しているのかもしれない。


 下流志向の時代で人間的に成長できなかったのかもしれない、あるいは知らぬ間に両親の離婚で歪んだのかも。

 どちらでもいい。

 ただ一つ言えるのは、僕は熊崎を背負えるほど強くないという事実だ。

 

 それでも、僕は彼女を守れるかもしれない。

 それとも、僕は彼女を守ったかもしれない。

 

 そんなことを、ふっと思った。

「…すまない」

 それしか言えない。

 それしかなかった。

 だけどさ、謝っても、答えは出ない。出るはずがない。

 僕は、悩んで、それから何も言えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ