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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
食らいつく獣をその手に
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すれ違い


 翌日は、懇談を終えたから暇だった。

 僕の学校は、懇談の時期になると午前中で授業が終了するので、だから午後は自由である。生徒指導部は、出歩かないようにと、生徒に通達していたが、あまり効果はないだろうと思われる。

 遊びたい盛り(僕はこの表現が嫌いだ)の高校生。

 遊ばないはずが無い。

 仲のいいグループや友人どうしで誘い合って、やれボーリングだ、カラオケだ!とはしゃぐのが普通だろう。

 だけど、仲間はずれの僕は、やることもないので帰宅することにした。

 校門から出て少し歩くと、沢田と芹澤が仲むつまじく歩いているのが見えた。

「…………へぇ」

 見てしまったというべきか、熊崎にはああ言ったが、当然二人は出来ているだろうと僕は思っていた。

 が、その光景を実際に見てみると、なかなか威力がある。

 なんか負けたような、悔しいような。

 けど、そこまで苦しくはなかった。

 すでに僕が、【彼女】に恋焦がれなくなり始めていたからかもしれない。

 だから僕は、二人に気付かれないように、気配を消して二人の後姿を眺めてみる。

 


 仲むつまじそうだ。



 青春小説を映画化したワンカットか、少女漫画の一コマにありそうな、構図だ。

 それで思った。

 そんな沢田だから、熊崎は、沢田に惹かれるんだろう。僕とは違い、沢田は恒星のような少年だ。自ら光を放ち、誰かを照らし、熱く光り輝く存在。そして、彼の明るさは、きっと普通の人間には心地いいのだ。

 彼は誰かの中心になれる存在だから。

 きっとそうだ。

 けど、自分はどうだ?

 隙間風のように、俺は考えてしまった。

 僕の、光りもせず、言い訳を繰り返し燻る姿は、燃え尽きたというより、着火できなかった方が正確だろう。何をするでもなく、望むのでもなく、普通のシアワセとかヘイボンさえ手に入れられなかった輩。そんなのが僕だ。

 沢田が恒星なら、僕はただの隕石なんだろう。

 そう考えてしまってから、僕は気付いた。

 沢田とは、競い合うべきではなかったのだと。

 僕はきっと、努力しても彼には敵わない。

 だって、努力は尊いけれど、報われるとは限らない。絶対的な努力だけで、何事も上手くいかないのがその証明だ。そして、だから僕は、芹澤の視界にすら入れなかったんだ。

 そんな僕の目の前を二人は、歩いていく。

 傍目から見ても、楽しそうだったよ。

 明るくて、未来はバラ色で、苦難も越えられそうだ。二人が、曲がった交差点で、僕は彼らの背中を見つめながら、そんな事を思った。 



 二人が見えなくなってから、僕も僕で考えた。

 人と同じようなシアワセを望まないさ。

 ご飯があって、屋根があって、金があって。

 僕はこれ以上、何を望むのってんだよ?

 欲しい物なんて得に無い、ただ当たり前が欲しかっただけだしさ。

 家族ごっこがしたいなら、犬猫でもかえばいい。

 恋人がほしいなら明るくなればいい。

 けど、僕はそれじゃ満たされないと知っている。僕は贅沢になりすぎたのだろうか?足元にある大切なものを、僕が捨てすぎた報いなのか?

 友達も、家族も、恋人だっていやしない。

 それが、罰だろうか?

 けど、これは僕一人のせいじゃないと思う。また、運命が悪かったわけでもない。

 僕が努力を怠ったのも原因だけど…それでも、どうしようもない事がこの世界には多いんだ。不条理で理不尽 で、そんな世界では無責任にハッピーに生きられるほうが難しいんじゃないんだろうか。

 あの二人が付き合っているって、もとより解っていたことなのだ。

 けれど、いざ実際体験すると辛かった。

 

 辛い?


 馬鹿な、人を殺しても何も感じられない奴が辛いって?

「ただの、錯覚だ」

 僕は誰にも気付かれないように、独り言を呟いた。

「…?」

 そう、その時だ。

 僕はふと、誰かが走って行ったのに気付いた。

 俺よりも、辛そうで、悲しげな横顔。

 そして、あの制服。

 僕は、ウサギを追ったアリスじゃないけれど、不審なソイツを追いかけた。

「まってよ!」

 最近、鍛えられているからあっという間に僕は、ソイツに追いついた。

「…おい?」

 肩を掴もうとして、僕は彼女が泣いていることに気付いた。何故だか知らないが、彼女は泣いていた。…男として、女性を泣かせたままなのは、いかがなものなのだろうか。

 僕は、とりあえず悩みながら、彼女に話しかけてみた。

「熊崎?」

「……」

 しゃくりあげ、マスカラの黒い涙は流していないが、涙をちょっとだけたらしながら、彼女は泣いていた。…僕はポケットテッシュを彼女に渡すと、近くの自販機であったかい飲み物を買ってくることにした。

 ベンチに座らせて、缶コーヒーを握らせよう。

 そうすれば、話が出来るかもしれない。


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