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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
いかにして彼は呪詛を受け入れたか?
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儀仗とマレビト



 なんて、芹澤さんに惚れた時の事を思い出すと、今の現状がより情けなく思える。

 だから自然と溜息が出た。

 

 いったい、僕は何処で失敗したのだろうか?

 

 さっさとキメラを駆除した僕は、廃墟の外にしゃがみ込みながら、そんな事を考えていた。…廃墟の外にいる理由は、熊崎の着替えを覗かないためである。当然の話だが、応化儀杖が武装化すると人間時と比較して著しく体積は減る。

 なので…衣服が脱げる。

 そして、仮にも異性である熊崎の着替えを覗くのは、興味があっても小恥ずかしく、僕は武装解除をすると何時も、彼女が見えないところへ避難していた。

「糞、どこで間違えたんだよ、僕は」

 一人、悪態をついた。

 そうだ、僕は何処で間違えたんだ?

 熊崎に出会ったことか。芹澤さんに恋したことか。沢田を憎んだことなのか。頭が思い出すのは、この生活を始める事になった切っ掛けだ。

 僕は、そのどれが、一番の原因だったか考察しようと目を閉じる。

…彼女の声を聞いた。

「不毛な事を考えているのね」

 着替えが終わったらしい。熊崎は、僕の隣に立って見下ろしながら言った。

「単純に、答えを言ってあげる」

 そう言って、熊崎は軽く微笑んだ。あまり、好感の持てない笑い方だった。ケラケラと、まるで軽く、何処までも目立つ奴の人生の、脇役である僕を嘲りながら、彼女は続ける。

「大人しく、諦めるべきなのよ。無駄な足掻きは苦しいだけ」

 僕は正論に沈黙して、彼女を見た。

 コイツと出遭ったことを激しく後悔する。やはり、カノジョとボクは、本来出会うべきではなかった。もしも、僕が、芹澤さんを追わなければ、こんな事にはならなかったのだと思うと、心が沈む。

 また、そう考えるほどに、僕は自分の迂闊さを呪った。

 そもそも僕が―――そう思いかけると、心を読んだかのように魔女は言う。

「逃避は無駄よ。自分の責任じゃない」

 忌々しいまでの正論、僕は何も言えなくなる。

 彼女の言うとおりなのだ、今の状況は、自分の責任だ。逃げ出したのは、僕だし、よりにもよって沢田が芹澤さんに選ばれたのが状況含めて不思議でならないが…、最悪なことに、僕は熊崎と契約してしまった。

 そう、契約だ。

 この場合は、法律的じゃなくて、もっと魔的なもの――そんな契約を、僕が熊崎と交わしてしまったから、こうして僕は戦う羽目になったのである。熊崎のような、人間の形をした武器で、さっきみたいな化け物を倒す為に。

 ふと僕は、髪を縛っている熊崎を盗み見た。

 こうしてみると、本当にただの女子なのに、彼女は武器に変身する。

 

 熊崎のような、武器に変化することが出来る人間たちの総称を、応化儀杖と言う。


 嗚呼、まるで現実感がないけれど、これは現実なんだよな。

 そう思った僕は、それから、オウカギジョウと、凄まじく読み辛い呼び名の、彼らについての説明を思い出す。

 

 人間が変身する。この地点で胡散臭さ満載だが…現実の話で在る。

 どうも、彼ら応化儀杖は、魔術なんてワケのわからない技術で製造されているらしい。人間を地金に、それを鍛造するという工法…そんな伝奇のような製法で作られる、忌まわしき武器。

 それが彼らだそうだ。

 そんな、彼ら応化儀杖の存在理由は多数ある。

 主だった一つは、さっき僕が駆除した―――獣のような、マレビトと呼ばれる化け物を倒す為だ。もっともそれは現状の使い方で昔は妖怪やら鬼退治をしていたと言うから驚きだ。

 

 曰く、マレビトとは異界からの侵略者である、らしい。

 だから、この世界の常識を守るために、ヤツらの存在は殺さなければならない。

…らしい。

 

 何度も、~らしい、と続くのは確証がないからだ。

 もしかしたら、マレビトを野放しにしていても、世界は何も変わらないかもしれない。だけど、マレビトは怪物のお約束通り、一般人を襲う。だから殺していると言った方が近いだろうと、僕は思う。

 厄介なことに、奴ら、通常の武器では傷一つ負わないのだ。

 カッターナイフ程度では、絶対に刺さらないことを、身をもって実証した僕が言おう。そのような、この世の常識が通用しない、条理の外の輩を斬るのだ。普通の武器では役不足。

 故に、常時、魔(熊崎が言っていた)を帯びたモノでなければ殺せないらしい。

 だから、応化儀杖が用いられる。


…応化儀杖について、僕が知っている説明は此処までだ。

 あとは良く知らないし、また熊崎から、これ以上聞きたいとも思わない。何故なら、僕はより深みにはまるのはゴメンだと、常々思っていたからである。

 だから、そんな話はどうでもいい。

 ぶっちゃけ、プログラムの仕組みを知ってなくても、パソコンが使えるように、僕が熊崎を武器として使えれればいいのだ。あとは知らなくていい、知りたくも無い。

 マレビトを殺せることに変わりはないのだ、由来や理屈は別に必要だとは思わない。

 そんな調子だから、僕は彼女との契約で、得をしたことは…金銭面を除けば、本当に何も無かった。怪物どもを駆除するアルバイトには強制的に参加させられるし、なんだか危険な仕事を請け負う可能性も出てきているようで、ツイテナイ。

 それに、草薙計画と言う実験にも、どうやら参加させられている様子だ。

 そーゆー事を思うと、僕は、本当に自分は熊崎にていよく使われる為だけに契約させられたのだろう。本人の口から、そのことは聞いたことは無いが、熊崎の、あのすまし顔の裏では思っているのではないか?

 そう、僕は考えていたし、多分真実っぽいと思う。


…ホント、口が悪い嫌な愛刀だよ。


 そう内心思うと、彼女がこちらを見た。

「無言ね、気分でも悪い?」

 見上げると、ちょっとだけ、僕を気にかけた様子の彼女が覗き込んでいた。

「別に」

 僕は、視線を逸らして、また溜息をついた。

「そ、じゃ帰るわよ」

 そんな、僕を気にも留めず、彼女は携帯で何処かに連絡をする。暫らくの無言。そして数分の後、廃墟の前に、大きな高級車が止まった。

 トヨタのセンチュリーって言う奴らしい。

 熊崎は、さっさと車に乗り込んだ。僕は乗るか乗らまいかで、悩んだが、熊崎が不機嫌そうに僕を急かしたので、僕は割り切って彼女の隣に据わることにした。

 運転手は、やはり何時もの、黒い制服を着て、白い手袋をした人。

 やたら大きく、エンジンで動いている癖に妙に静かな高級車を、たかが高校生二人にあてがうのは無駄じゃないのか――そう、思いながらも、本皮張りのシートに体を預けていると、どうでもよくなってしまうのだ。

 だって、乗り心地は抜群にいいのだから。

 そんな間に、車は夜の街へと走り出す。僕と、熊崎を乗せて。


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