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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
けれど、二人は出会えない
26/52

喫茶しながらの不謹慎を

6 


 会合の三日後、こうして熊崎に呼ばれ、会合で会った事を逐一報告した。

 場所は珈琲専門店である。

 話が変わるが、人を殺せば地獄に堕ちると言う。

 仏、キリスト、イスラム、教と多々宗派あれど、人殺しは地獄に落ちるのが通説である。シェイクスピアのマクベスも、たしか王位を勝ち取ったはいいが、世継ぎに恵まれず討ち取られたはずだった。

 なので、人殺しとは悪党であり、地獄に落ちるべき存在だ。

…そんな人殺しの一人に僕はなった。

 殺されかけたので正当防衛で殺したともいえなくないが、殺した現実を覆せるはずが無いんだから、僕は人殺しで当然である。けど、そんな人殺しは思うのだ、何故、幽霊が見えないと。

 いや、別に見えて欲しいわけではないよ。

 もしも、我々が想像するような幽霊が見えたら非常に嫌ではないか。プライバシーもお構い無しに、壁を突き抜け、無差別に私生活を覗き見る存在と僕は出会いたくない。けれども、亡霊と言うのは怨念と密接だ。

 だから、彼女と彼を殺した僕になら、彼女らの怨霊が見えてもいいはずである。

 しかも、魔術なんて似非学問が存在すると知った今ならば、より亡霊が見えてもおかしくはない。

 だが、不思議なことに、彼らのどちらも僕は見たことがなかった。



「どうしてだと思う、熊崎?」

「だから、何がいいたい訳?」

 僕は、ちょっとだけ傷ついた。

 嘘だけど。

「地獄に落ちる気が少しもしないから、通り魔をしてきました」

 自分で言っても危険だが、熊崎にそう言うと、彼女は露骨に不快を表した。

「あんた、無関係な人を斬ったの?」

「嘘だよ」

 殺さざるを得ない状況ならまだしも、法治国家において無意味な殺人は危険すぎる。仮に僕が通り魔を行ったとしても、捕まらない可能性はゼロでは無いし、なによりも僕は殺人を娯楽としては考えていない。

 アレです、あれに性的興奮を覚えるだなんて、信じられない。

 もっとも娯楽としないだで、だたの作業でなら幾らでも殺せそうな気配があるが、十中八九僕の気のせいだろう。そんな危険人物では無いはずだ、自分。

 爽快感は菅z煮るかもしれないけど。

「いいわ、別に嶋よりマシだから」

 けれど、そんな僕の思考とは裏腹に、彼女はこう言った。

「…なんで?」

「アイツ、犯罪者じゃなくても、不良や公務員に、ヤクザとか学生とか斬ってたから」

 ヤクザを殺すとは…嶋という男、相当イッた神経をしていたらしいな。そして、そんな殺人鬼でも機構は強ければ雇うのか。

 やはり、思う。

 機構は断じて正義の組織ではない。

「殺人鬼だったんだ、嶋って」

 僕が確かめると、熊崎は頷く。

「そうね、殺人鬼よ」

 ということは、僕は殺人鬼の技を使ってるらしい。なるほど、人殺しに向いていて当然だ。あの、沢田への刺突もそう考えれば納得できそうだ。

―――そんなどうでもいい事を話しているほど、僕らは暇だった。

 


 もっとも、危険には違いない。七支殺しは未だ発見されてないし。 

 まあ熊崎はどうだか知らないが、僕は本当はやることが色々あった。

 例えば、先日に行われた二者懇談で説教喰らっていたから勉強だとか、現在の志望校を書いた紙の提出だとかである。何にせよ、勉強はしないと不味いだろう。なんだか、今度、また試験があるらしいから、そこで不味い点数をとると留年するらしい。

 けれども、まあ、思い出すと面白くない。

 先日、二者懇談が会ったのだが、その時担任は僕の成績をみて呆れた後、烈火のごとく僕に説教をした。あの担任、絶対母親の胎ん中に、慈悲や情けといったものを置き忘れて来たに違いない。

 でなけりゃ、僕の後ろにまだ懇談を受ける生徒達が残っていたのにだ、延長二十分をしてまで説教しないだろう。

 駄目だね、我を忘れる大人なんて。

 だから教育委員会とかで頭角を現せず、教頭にもなれないまま、一教員なんだと思った。その、教師に、怒られた際、本当に留年するぞとも脅されたのである。ご丁寧に、僕の学年・クラス順位と偏差値をピンクの蛍光ペンで引いた紙を出してくれた。

 WOW、すっげー。

 となると、いかに危険な状況にあるのか理解できそうだ。

 どうやら僕は留年する瀬戸際で間違い無いのだろう。

 それと、僕の順位は総合して最下位でした。

 ただ、僕はどん底まで落ちても、モチベーションが上げるタイプでも無いから、

へえ最下位なんだと思っただけだったが。



「…で、七支に誰が加わるの?」

 沈黙を破るように、彼女が口を開いた。

 ぼくは慌てて彼女に会話を合わせる。

「…さあ、まだ決まってなかった」

 僕は事実を口にする。

「数打ちの奴でしょ?」

「違うよ」

 そうして、僕は、熊崎に先程説明してもらった単語を使って説明を試みた。

「なんだっけ、オリジナルの応化儀杖の一族の…えーっと、十三氏族?」

「十四氏族」 

 訂正されたとき、明らかに侮蔑の表情が見えたが仕方が無い。

「そう、ソレの担い手の四人が候補だった」

 そう言うと、熊崎は納得した。

 そして、説明が遅れたが、数打ちというのは十四氏族に対して後世または新造された応化儀杖のことであるらしい。

 つまり芹澤さん達の事だ。

「なんだ、やっぱり血統なのね」

「競馬と同じじゃないかな」

「競馬って血統なの?」

 疑問で返された、優等生も疎い分野があるらしい。

「…そうじゃなかったかな?」

 もっと、僕らは深刻に問題を考える必要があったのだろう。

 だが、そんな会話が出来るほど、僕らには危機感なんて無かった。確かに伊藤や秋谷は死んだのに、なんだか自分のよく知らない奴が自殺したときみたいに、僕には実感が無かった。

 だから、そこまで悲しくもない。

 同時に、喜びも薄いのかもしれない。

 と、これまた人事みたいに思った。



 このような調子で、僕らは、今回も喫茶店で会って、話していた。

「この紅茶、何時もより美味しい…」

 そう、熊崎は零したが、僕の珈琲はちょっと不味かった。

 砂糖を入れすぎか。

…おいしい珈琲の入れ方さえ覚えたら、喫茶店とかカフェって来なくていいんだろうか?しかしパフェを食う彼女は絵になるな、性格わるけど。


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