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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
けれど、二人は出会えない
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嫌悪のある食卓


 会合の連絡はすぐやってきた。

 僕らの着席した円卓には、シルバーの食器が並んでいる。洋食らしい。

「…これより、会合を始めたいと思う」

 機構一位、櫻木が七支の担い手全員の着席を確認してから、発言する。

 メタルフレームの眼鏡をかけ、ボブカットとか言うミディアムくらいの髪をした中性的な人物である。そんな櫻木は僕らの顔を一人一人見ながら、先を続ける。

「本来なら、ここで乾杯の音頭をとりたいところだが…今はやめておこう」

 櫻木は眼鏡を、指で上に押し上げると言った。

「急遽集まってもらったのは、他でもない。三位、秋谷伊藤両名が討たれた件についてだ」

 僕と熊崎は知っていたが、知らない七支も多かったようだ。

 どうやら三位の死を知らなかったらしい、畠が櫻木に質問する。

「下手人の目処はついているのか?」

 畠のその質問に、櫻木は表情を変えずとも、忌々しさを口調に乗せて言った。

「目処は、立っていない。現在、機構が彼らを討った下手人を調査中だが…」

「もういい」

 畠は、大きな手を櫻木に向けて、それ以上言わせないようにする。

 畠は続けて言った。

「ってことは、秋谷を斬った奴はまだ生きているってことだ」

 それから、畠は僕を含めた自分以外の七支をギロりと見渡し、こう付け加えた。

「そして、もしかすると犯人が、この中に紛れているかもしれないって事だな」


…畠も、僕と同じ事を思ったらしい。


 七支の一人を斬った人間が、此処の中にいるかもしれない。

 そう言いながらも、畠は初めっから、どうやら僕らの中に下手人がいると勘ぐっているらしい。でなければ、あんな目はしない。値踏みする目だった。

「畠、俺らを疑ってんの?」

 そんな畠の態度が許せなかったのか、五位の担い手、瀬古が畠に言う。瀬古は、2ブロックでセットした髪、そして細い目が印象的な男である。

 彼は、グラスを持ったまま、畠を睨む。

「疑うも何も…、機構以外の担い手と応化儀杖は『庁』の管理のはずだ。俺たちを打倒しうるのは、庁の天下五名剣か魔術師の一門、そして俺らだ。可能性をあげたまでさ」

 畠は、そう瀬古に言い、自身のグラスに注いであった洋酒を呷る。

「そうであるといいんだが」

 瀬古もまた、その大きな掌でグラスを、自棄のように一気に飲み干した。

 そんな二人の男のやり取りをみていた、六位、渡辺が畠に質問する。

「…では、畠さん。貴方が、三位を殺した可能性は?」

 三位秋谷が脱落した今、唯一の女性である渡辺。

 彼女は切れ長の目で畠を見ながら質問する。

 そんな渡辺の視線を気に留めることなく、畠は答えた。

「馬鹿か、俺がなんで秋谷を殺す必要が有る?直江から下の順位ならともかく、俺はアイツを殺そうが、何の意味も無い」

 畠は、渡辺の質問にそう答えた。

 すると、七位、浦部が可笑しそうに言った。

「直江を援護しますか」

「何がおかしい、浦部」

 挑戦的とも思える浦部の態度に、静かに凄みながら畠が問い返す。

 そんなやり取りにもかかわらず、浦部は物怖じすることもなく、こう言った。

「いえ、直江も秋谷を切った可能性があるのでは、と」

…冗談じゃなかった。

 僕がどうして秋谷や伊藤を斬る必要がある?

 僕はすぐさま否定した。

「僕はやっていない」

 だが、僕の主張を信じる心算などないのだろう、浦部は間を置いたから言った。

「…どうだか、ね。畠、直江、俺、渡辺、浦部…そして櫻木、あなたも斬れるんだ」

 櫻木は沈黙したまま、何も言わない。

 空気が悪かった。

 誰もが疑心暗鬼に刈られ、隣に座る奴こそ敵ではないか。そう思っていたんじゃないだろうか。そんな空気の中で、食事は始まった。

 某ホテルのフルコースだ、不味いわけがない。が、食事をする僕のテーブルマナーは、拙かった。相変わらずミートナイフとフィッシュナイフを使い間違える。そして、肉や魚が切れないばかりか、フォークでも掬えない。

 コレが意外と恥ずかしい。

 けれども、いつもなら僕に、こっそり指摘する男の姿は無い。

 そのことが、なんだか冗談にも思えてくる。そうして、食事も終わり、食後のデザートと珈琲が出たところで、櫻木が口を開いた。

「…食事の途中だが…本題に入ろう」

 彼は食器を置く。

「我々の誰が秋谷と伊藤を斬ったかと言う問題は、この際忘れてくれ。

 それよりも重要な問題が二つある。秋谷と伊藤が抜けた七支の候補を誰にするか、それと、四位直江を襲った応化儀杖と担い手についてだ」

 僕は、チョコレートケーキを口にしながら、耳を傾ける。

「直江を襲う?」

 珈琲を優雅に味わっていた浦部が驚いたような声を上げた。

 驚きは皆、同じだったらしい。

 カップを置いたり、スプーンを置いたりして、櫻木の方へと向く。そんな我々の態度を見てから、櫻木は補足した。

「事実だ。しかも、機構所属ではないモノの犯行だ。十四氏族とも縁の無い、新造品が彼を襲った」

 業界用語の意味は解らなかったが、とりあえず僕はあの敵が機構とは関係無かった事に安心した。だからと言うわけじゃないが、このケーキ美味しい。おかわり、出来ないだろうか。

「…上はこの件をどう考えている?」

 畠が聞くと、櫻木は、曖昧な答え方をした。

「上は、草薙計画への庁からの挑戦と考えたいらしいが…」

「が?」

 そんな濁し方に、渡辺が先をせかした。

「我々の中の裏切り者が行った可能性も捨てきれないらしい」

 言い淀むのも、うなずける。

 この空気の中、そんな事を言うというのは、畠の予見どおり、我々の中に裏切り者がいてもおかしくないと言う、確かな証明でもあった。

「カッ!やはり、そうか」

 そう、畠は櫻木の方に向いて、唇の端を吊り上げながら言う。

「お前が、今回の会合に儀杖を参加させなかった理由がよく解った。この場での乱戦を回避したかったんだろう?」

 そうだ、確かにそうだ。

 仮に、この場に熊崎がいて、僕か彼女の身に危険が迫ったなら、僕は間違いなく抜刀していた。それは、仮にいるかもしれない裏切り者も同じだろう。

 ソイツは、間違いなく、この場で抜刀するはずだ。

「…言わなくてもいい事を言うな、畠」

 忌々しそうに櫻木は畠に言うが、畠は畠で攻撃的な表情を浮べたまま言い放つ。

「事実だろうが、櫻木ィ」

 両者の間で、殺気が応酬される。

 場の空気が険悪さを超え、危険を孕んだものへと変わっていく。ウェーターなど、櫻木と畠の気迫に押され、コーヒーのオカワリを出せないまま硬直している。

 そんな空気を破ったのは、渡辺だった。

「二人とも、この場は押さえてください。それよりも、私は襲撃者が気になります」

 渡部の一言に、櫻木は、畠よりは落ち着いていたのか、殺気を撤回する。

 それから、時間を置いて話し出した。

「…まず直江を襲った敵だが、死体と応化儀杖の調査の結果から、間違いなく、庁の関係者であると思われる。おそらく、新参である直江を殺して、熊崎を奪うか消す腹だったのだろう」

 なるほど、僕を狙うんじゃなくて熊崎を狙ったのか。

 共犯と口にした熊崎の意味を一人僕が納得していると、浦部が口を出した。

「魔術庁は天下五名剣を保有しているはずだろう?それがなんで、新たに応化儀杖を求めたり、消そうとするんだ?」

 浦部の質問はよく解らない。

 なんなんだ、天下五名剣って?

 そして魔術庁って?

「…恐らく、我々の草薙計画を知ったからだろう。大人しくマレビトを斬っている分には、黙認していたが、草薙計画を容認するには行かなくなったらしい」

 そんな僕の疑問は余所に、彼らは話を先に進める。

「神剣を、作るのは黙認できない、と?」

 瀬古が、シンケンなんて言葉を使った。

 しんけん、シンケン、真剣?

 違うな、親権?

「そうだ、向こうにしてみれば、幾ら祭器が失われたからと言っても、魔術的に見ても危険な物を再現はして欲しく無いらしい」

「目的の相違だな」

 そう、瀬古は言って納得したが、僕は納得するどころか意味不明だった。

 何時もなら、伊藤に聞けるのだが、それすら出来ないので、今日は訳がわからないままだった。

「しかしだ、どこで草薙計画が漏れたが知らないが、七支の欠落は不味くないか?」

 浦部が口を挟む。

「だな、嶋がくたばった時は…直江が加わる事で何事も無かったが、今回は応化儀杖も担い手も共に破壊された。前代未聞じゃないか?」

 それに同調したように畠が言うと、櫻木は、自分の鞄から書類を取り出すと言った。

「考えてはある。元々、十四氏族に連なる応化儀杖と、写しの多さ、何より相応の実力をもった担い手で探すとなると、自ずと候補は絞られてくる。草薙計画の54組の中の…この四人だ」

 そうして写真が入ったA4の紙が回される。

 知らない面の男女が四組、その個人情報が延々と書かれている、その紙を見ながら、彼は言う。

「クドウ シンゴ。アリマ サエ。

 ビンゴ トモコ。エノモト ユウマ。

 シガ クニヒロ。オオガ ナミ。

 ホズミ コウヤ。トサカ ジュジュ。

 この八名が、現在の候補だ」

 男女の名前を挙げられても、それが何だと言いたい。

 むしろ僕は、草薙計画と言うのが何か、誰かに説明して欲しかった。

 

 頭が痛い、僕の処理を超えている。


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