不和
6
呼ばれたので、行かない訳にはいかない。
僕は乗り気じゃないけれど熊崎に会いにいった。
ポクポクと日暮れの道路を歩く。人通りが、まばらな道は、あっという間に過ぎていって、やがて待ち合わせ場所にしておいた公園に、辿り着く。
することもないので、僕は、風雨で変色したベンチに腰掛け、彼女を待つことにした。
ふと公園に目をやると、くすんだペンキ塗りの遊具で、児童が友達と戯れたていた。楽しいんだろう。キャッキャと嬉しそうな声を出して彼らは駆けている。近くにランドセルが放り投げられてるのを見ると、僕と同じように学校帰りらしい。
そうやって何も考えず、無邪気そうだった彼らを眺めていたら、熊崎に声をかけられた。
「着たの」
「まあ、ね」
本当は会いたくないが、向こうから会おうと言うのだ。来ない訳にはいかなかった。そんな僕の心中なんて知らない彼女は、カベンチに腰掛けた。カップルにも友人にも見えない微妙な、それでいてお互いに声が聞こえる距離をとって、僕は熊崎に要件を尋ねた。
「用って何」
彼女は、少々の間をおいてから言う。
「機構の話、しかも他の七支が知らない話」
妙な話だ。
機構の話の癖に、他の七支に知られていないとは。
「で、なんなのさ」
僕はそう、熊崎に聞き返すと、彼女は平坦な声で事実を教えてくれた。
「七支の三位が殺された」
物騒な冗談だと、思った。
なあ、熊崎よう。
だって遠くでは小学生が遊んでるし、今から四月馬鹿まで何ヵ月あると思ってるんだ。なんて、そんなタイプでなくても言いたくなった。だが、熊崎の様子を見れば、そんなことを出来るはずがない。
それに、もしもすれば無いに等しい信頼感は崩れ去るとわかってたのだから。
なので、それを事実と認識した僕は反射のように口にしていた。
「なんだよそれ」
そうなると、伊藤が死んだと言う事だ。
あのオンナタラシは、先月の会合でも里奈さんと一緒に楽しくやっていたのではないか。
僕は、様々な事を思った。
「私も今知ったの」
彼女は僕の驚きも少しは理解できるのか、すぐに答えた。
「どういうことだよ」
「殺されたのよ、何者かに」
それくらい、わかる。問題は、誰が何の為に、彼らを殺したと言う事だ。
「誰が、殺したんだ?」
「わかれば、名探偵よ。死因は、何か刃物のような物による切り傷で、最悪な事に三位の応化儀杖は何者かに破壊された後…間違いないわ、敵がやった」
僕は三位を思い出してみた。
そうそう簡単に死ぬような女ではなかった筈だ。しかも、マレビト退治には僕より経験があるはずで、そんな彼女と彼女の武器が、たかがマレビト風情に殺されるとは考えられなかった。
殺された彼は、僕達/七支を殺せるマレビトにでも出会ったとでも言うのだろうか?
「七支を殺せるようなマレビトか?」
そう、僕が言ったのを聞いて、彼女は訂正した。
「違うわ、人間よ」
まだ、遠くでは小学生が遊んでいた。
そんなアリフレタ日常的な光景の中では、熊崎の言葉は少々重く響いた。
「馬鹿言うなよ、応化儀杖の担い手だぞ?そんな奴を、一体何処のどいつが殺せ…」
これ本音だ。
この僕が名人並みの剣を撃てるのである。実力で三位をもぎ取った彼らなら、無敵と言っても過言ではない。そのような達人を、鉄砲でなく切り殺すだなんて、信じられない。
が、僕はそこで、気付いた。
「まさか…、七支の誰かが?」
そう仮定すると、切り殺す事が不可能ではなくなる。
七支の実力は、僕を除けば、基本拮抗しているという。しかも、三位が消えれば自然、順位は繰り上がる。階位が繰り上がると権限も増加されるそうだし…それらを欲した、誰かが殺したとでもいうのか。
解らなくはないが、生々しすぎる。
「かもしれない、けどはっきりしてない。なんにせよ、今度の会合で解る筈よ」
そんな熊崎の言い方は、僕を不安にさせるのに、十分だった。