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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
けれど、二人は出会えない
19/52

逃れられぬ故殺



 何かのテストで、キルケゴールかドゴールか忘れてしまい、オルゴールと書いたらフザケているのかと教師に言われた。ふざけてもいないし、笑いを狙ったつもりもない解答だったのだが、書き方が悪かったらしい。

 そんな、感じでテストが返却されことがある。

…僕はそんな感じの高校生である。

 刀剣、打刀に変身する熊崎と言う女の子を武器に、マレビトと言うモンスターかエイリアンみたいな怪物を殺すアルバイトをしている以外に特別なことはなにもない。熊崎は、咎獅子と言う恐ろしい切れ味の刀に変身する以外は普通の女子高生。どう見たって魔術師と顔見知りだとかを別にすれば、綺麗な顔の女の子にすぎない。

 ただそんな僕らのバイトは普通じゃなくなりつつあった。 




 その日は何時も通りの狩りだった。

 咎獅子を振るって、駅のプラットホームを駆け巡る。

 そうして、最後の一匹を殺したところで、違和感を覚えた。

“どうした?“

 熊崎の言葉には答えず、僕は神経を張りつめる。

 何か、五感で感じる視線のようなものが、僕に浴びせられている。殺気とでも言うのか、ビリビリと当てられるようだ。僕は剣をおろすことなく、振り向く。

 そこにいたのは、妙な男女だった。

 男はやたらと長いコートを着ていたし、女は、ブレザーに長たけのワンピースを合わせていた。特異な格好でもないのだ、終電後の駅構内じゃなかったら、普通の客だと僕は思っただろう。

「菊花機構の四位ね?」

 ゾッとするような気配。

 俺は怯えを悟られぬように、刀を構える。蛍光灯の明かりを刃が反射して、眩しい事さえ気にならなかった。女は、一言も発さない男に手を伸ばしながら、言った。

「恨みはないけど、仕事なの」

 男の姿が歪む。

 まるで存在が畳まれて行くように、男の存在は分解され、やがて一つの形をとった。細く華奢、それでいて鋭利な西洋剣。三銃士に出てくる、たしかレイピアと言う奴だ。ソレが、僕に向けられる。

 コートがハラリと落ちる。

 そんななか、奴は動いた。

 相棒の応化が終了するかいなかで、刺突を放ったのだ。

「…!」 

 部活動なんぞとは比べられるものか!

 プロ、それも殺すための一撃だ。殺されそうになる理由が解らず、半ば恐慌になりながらも、俺は回避を行った。

 間一髪。

 咄嗟に首をひいて、咎獅子で払ってなければ、眉間に風穴が空いていた。変わりに、浅く額を切られたが、支障はない。

 僕は、距離をとりつつ、選択する。

 逃げるか、戦うか。

 人と戦うなんて!そんなこと、一度も考えた事のなかった僕は、躊躇い。

 そしてその隙を、悟られた。

“直江!“

 熊崎の叱咤に、俺は恐るべき速度でしごきだされる刃を知覚した。一先ず回避をしたのだが、見事に失敗した。反応が遅れたのだ、心臓を貫く筈の刃を、上体の捻りだけで避けようとするのが無謀だ。

 速度も、回避する為の時間も不足だった。

 明白な痛みに、僕は歯を食いしばる。

 斬られたとは、解った。がどれだけ深いのかは、わからない。とりあえず、血が止まらないし、なによりも痛かった。無様な足運びで、距離だけは取った。が…、敵は無傷、此方は手負いだ。

 不利だった、逃げるにも殺すにも。

 ただ、この好機を、敵が逃す筈がなかった。

 再度の突きに、僕は刀身で剣を弾き飛ばす。しかし一度は弾いた剣だったが、弾かれた数瞬の後に、猛烈な方向転換をして襲いかかる。これを避けるために後ろに跳んだ僕だったが、直ぐに自分の失策に気付いた。

 カカトが何かに当たる。

 もう、後ろに足場はなく、階段である。

 左右にも逃げられぬし、階段を逆さに上るのは至難の技だ。上手くかわせたとしても、次手で決まる。つまり、突きを決めるには、絶好の状況である。

 僕は腹を決めた。

 向こうが、最速の突きを放つ。

 僕は、その機会で後ろへ跳躍する。一種の博打だった。階段に着地が成功する可能性に賭け、飛び、着地と同時の切り払いで殺す。とん、と踏み切って、跳ぶ。

 体が宙に浮き、奴の突きは失敗する筈だった。

 が、敵の方が上手であった。まるで剣が生きているかのように、僕を追尾する。体勢は不十分、緊急制動をかけても不味い。信じられないが、コレまでこの技を魅せなかったという事は、嵌める心算があったのだろう。

 実に精巧な手に、これは死ぬと理解した。

 

 嗚呼、死ぬのか。

 でも、ただ殺されるのはゴメンだ。

 せめて相討ちしてやる。

 そのために、残った力の限り、刀を振り抜くしかない。

 でもヤツまで、刃が届くのか。

 着地は済んだが、このままでは長さが足りない。

 長さだ、アイツを切りはらう、長さだ。

 間に合わない。

 届くのか。

 目の前まで、刃が迫る。 


「チクショウ」

 不安を度胸で捩じ伏せ、それでも、俺は烈帛の気合いを乗せ、咎獅子を振り抜く。

 どうなるかが解らないほど、愚かではない。だが目を閉じてしまった。

 それでも背負う事になる事への惧れより、死への恐怖が勝った。

 だから、俺は振りぬいた。

 

 鉄と鉄が撃ち合う音がした。


 僕は目を開き続け、そして喉笛を貫く筈の刃が首を掠めた。それは、ガランと音をたてながら、階段を落ちていった。

 華奢な刃は、僕の全力に耐え切れなかったらしい。

…当然だ、武器の強度がまるで違う。

 その、折れた応化儀杖からは、真紅の血が流れていた。

“直江、あんた“

 何が起こったか、僕と敵の両者とも判らなかったらしい。

 ただ、知れたのは、敵の剣を折り、その敵も斬ったのが咎獅子だと言うことだ。血に濡れた刀身から、ポタリポタリと敵の血が垂れ、僕はその時初めて、刀身が伸びている事に気付いた。

 本当に延びていた。打刀から太刀くらいまで伸びた。

「それよりも、だ」

 僕は自分の得物の変化よりも、敵の傷を見た。

 敵は、胸を深く斬られたらしい。青い顔は、チアノーゼを起こしていたし、もしかしたら出血多量で死ぬかも知れない。僕は、自分がやったことを、改めて確認する。


 これは、殺人だ。

 僕がこの手で、僕の意思で暴力を行使した結果だ。


 だから、僕は、彼女と彼の命を奪った殺人犯ということになる。

「…殺した、か」

 命の危機だったから、この場合は許されるだろうか?

 いや、違うだろう。道徳や心理が許そうが、殺人を犯したという事実に変わりは無い。裁くべき法に触れないと言うだけで、裁きを逃れているだけだ。

 そんな事を考えてから、僕は敵を見下ろした。

 死ぬだろうが、情けだ。

“直―ッ”

 熊崎の念話より早く、僕は、敵の胸にカタナを突きたてた。


刀剣乱舞おもしろいですよね

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