インターバル1
4
リムジンで自宅まで送ってもらう、その途中で、畠から次の集会の話しを聞かされた。
集会、というのは、簡単に言えば七支同士の会合である。
また、この集会は機構からの連絡や、マレビト駆除の今後、七支に欠番が生じた場合の推薦とかもする。ただ、今回は七支の誰かが死んだわけでも、機構に何かあったわけでもないから、多分機構が七支の現状を知りたくて集めるだけだろう。
しかし、あまり僕は集会に行きたくなかった。
有名なホテルのディナーを取りながらの集会は、たしかに素敵だが…僕はテーブルマナーがなってないために、できれば和食の方がよかった。それと、集会の席っつーと、大抵の場合、自分の応化儀杖が隣に座る。
だから、アレのプレッシャー(テーブルマナーへの注意)を感じながら食事をするのは苦痛以外の何者でもなかったからである。
さて、何時ものように自宅に送ってもらったわけだ。
勝手知ったる我が家で休む事にしよう、そう思ったら、留守番電話が残っていた。
「誰だよ」
と思い、再生するとなんと、母親からであった。まったく連絡しなかったから、たまには電話しなさいと言う、簡素な台詞が二十秒ほど。留守番電話に残されていた。確かに、連絡していないから、こんな電話がかかるんだろうなー、とは思った。
けれど、今から、電話をかけなおそうとはしなかった。
だって面倒臭い。
母親だから解ってくれるだろう。家族なんだし。
そう思った僕は、とりあえず明日の教科書だけ鞄に詰めて、風呂に入ってから寝た。
僕は、大学生の知り合いもいないし、日本以外の学校教育のシステムを知らない。
それでも思うのだ、高校ももう少し登校する時間を遅くしたっていいじゃないかと。なぜ年齢の変わらねえあいつら自由なカリキュラムなんだよ。
だから、なんだって話なんだけど……僕は、遅刻をした。
まあ、自分が悪いのは納得できる。
目覚ましをかけていなかったし、走れば間に合う時間だったのに関わらず、諦めたせいだからだ。家族の誰も起こさなかったことも、悪いかもしれない。しかし、ソレは詭弁だ。
だから、自責は十分なので、出来れば生徒指導の教師と出会いたく無かった。
けど、今朝はツキがなかったようだ。
ナンラタ強化期間ということで、やたらと生徒指導の教師に怒られた。
だけど、頭髪と服装は咎められなかったので、割と早くすんだ。ただ、もしも…お洒落していたら、僕から後に来た学生生活をエンジョイしている、彼や彼女みたいに、滅茶苦茶怒られたに違いない。
若い人間を押し込めるんだ。
体制への反発と称した、衝動の発散もしたくなるに決まっている。
けどまあ、校則程度守れなくてどうするよと、己を棚に上げてから思わなくもない。でも東京とかの街はそれで私服オッケーにするんだから扇動家の手腕に恐れ位いる。もっとも変えた後は自分が老いたってこと自覚してるか知らんけど。
しかし、
遅刻とは時間を守れないと言うことの証明だ!
みたいな説教をうけたのだが、別に僕は学校に対して定刻通りにやってきますと約束したワケではない(だからといってこの論理が容認されることは永遠にないだろう)。なので、タマには失敗するさ、人間だから。by直江、寒いな。
しばらく怒られてから、僕は一限目の終わった教室へと入る。
僕も一応人間であるから、挨拶されたら返すくらいの良識はもっている。しかし、取立て親しい奴がいないので、挨拶を誰とも交わさず自分の席に着く。とりあえず、教科書を机の中に入れて、もってきておいた小説を開く。
今日のは、昨日まで読んでいた耽溺ではなくて、メーテルリンクの青い鳥である。これは、堀内大學訳の奴を古本屋で見かけて、購入しておいたやつだ。
自宅で青い鳥を発見するまでの、チルチル、ミチルのプロセスを学べば僕も熊崎との間に青い鳥を見つけられるかもしれない。
そんな期待を込めて、夜の宮殿まで読み進めていると、古典の授業が終わった。
老教師が宿題だけ言って帰ると、皆、着替え始めた。なんだろうとは思わない。確か、次は体育だった。面倒臭いが、参加せねば成績が下がる。
もっとも、下がってもこれ以上下がりようがない成績なのだが、これ以上下げると退学の可能性も出てくる。
よって僕は、ボイコットしたい授業のために、渋々校庭へと出て行った。
今日は、マラソンだった。
前半後半と別れて、走るだけの授業である。僕は前半に走ろうとしていたのだが、教師が出席番号から無作為に前半後半を分けた為、こうして後半になってしまった。
まったく、次の授業に響くじゃないか。
話が変わるが、我が校は体育に熱心だった。
そりゃそうか、この地区の強豪校なんだから力を入れなきゃおかしいし、だから熱意ある体育教師も多い。当然、強い部活のレギュラーとなれば、運動神経抜群で普通だった。脳筋だと思う、多分。
だから、所詮、一般程度の運動能力じゃ、限度を感じてもっともだ。
また、昨日のアレでマラソンが平均より遅くても恥ずべきことではない。
「きっつい…」
けど何が悲しくて、筋肉馬鹿達とマラソンを競わねばならなかったのだろうか?
理由は簡単。
周回遅れで走っているのが嫌だったからである。つまり、吹けば跳ぶような軽いプライドのために、僕は校庭のトラックを全力疾走したらしい。息も、切れ切れ、正直やらなければよかったと思う。けど、走らなければ校庭の晒し者になっていただろうから、やっぱり僕は嫌々でも走ったのだろう。
けれど、こんなに頑張っても、中の下だと言うから驚きだ。
そして沢田にも負けた。
連夜のごとくアルバイトしているから、意外と早く走れる。なーんて思い違いは、やっぱり訂正すべきだった。僕はソコまで、肉体的に優れている人間じゃない。僕は、劣等生と言いながらも、周りの目が多少気になる、自意識過剰な青少年の括りから抜け出せない奴に過ぎない。
だから酷く情けない。
だから、この手が掴むのなんて、なにも無いのだろう。