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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
だから少女は少年の手より
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賃借武芸


 バイト中、何を考えるかといえば、何も考えない。

 先程とは違い、本当に何も考えない。

 気を抜けば死ぬ状況で、僕が余分なことを考えるはずも無い。つーか余裕がない。何故なら、僕の剣術は借り物であり、未だに自分の物として取り込む事が出来ないでいるからだ。

 故に気の緩みはもってのほか、ただの雑念でさえ、命取りになる。

 自分に気合を入れ、僕は最初のマレビトの群れに切り掛った。

 走り出した、脚を止めることなく、切り上げで一匹目の首を刎ねる。そうして、首が落ちるより速く、二匹目の前足を断つ。斬った勢いをそのままに、僕は返す刀で三匹目の胴に一閃を入れ、呻く二匹目にトドメを刺す。

 此処まで一呼吸。

 それから、僕は止めていた息を吐き、吸い。そうして残る敵目掛けて、咎獅子を振り下ろす。僕の体重を乗せた一撃は、最後の一体の頭部を叩き割る。

 斬られたマレビトの死骸が燃える中、僕は周りを見渡した。

 今回、ホワイトノイズの規模が大きいだけあって、大量のマレビトがいる。その上、普段の犬型、虎型、に加え見慣れない奴が見受けられた。大蛇のような奴、豚のようなやつ、また厄介そうなマレビトの予感がする。

 駆除にも慣れてきたし、もうコイツラを斬っても何も感じない。

 が、まだ油断は出来ない。

 どうも、慣れると注意が散漫になるらしい。普段倒しているマレビトにしても、今の新型にしても、まだまだ残っている。だから、油断は禁物だ。

「っと!」

 新しいマレビトが突っ込んできた。 

 狙うは横薙ぎ。僕は豚のような、そのマレビトの胴を狙い、左からの薙ぎを放つ。

 狙いも速さも悪くない、僕はマレビトを斬ったと思った。

 

 しかし、咎獅子の刃は空を斬っただけだった。


 意外だった。

 外見からは想像しにくい俊敏さを発揮されたらしい。攻撃をかわされたばかりか、僕の腕が伸びきっている事を知って、体当たりしてくる。体当たりといっても、僕の二倍はありそうな質量が向かってくるのである。

 当たれば無傷ではいられまい。

 冷や汗をかきながら、僕は体当たりを避けた。

 今の攻撃が避けられても、次がある。そう、頭で解っていても、僕は避けられたことに焦った。次の手をどうするか、僕が焦りから生まれた動揺に襲われた。

 だから、反応が遅れた。

 豚のようなマレビト――ソイツが、何かを噴出したのだ。

「!」

 霧吹きのように、何らかの液体が細かく宙に散る。僕はソレを直接は被らなかったが、完全な回避には失敗したらしく、服の袖に浴びてしまった。

 僕はマレビトから距離を取りつつ剣に付着した液体を払う。

 空中に舞った、液体の臭いだけは、嗅いだが……酷い臭いだ。石油系の臭いに、生臭さを足した様な悪臭。

 僕が顔をにおいにゆがめた瞬間だった。

 豚のようなマレビトが、口を大きく開ける。

 

 何をこのマレビトが狙っているのか、僕が理解した時には、

 マレビトは、その歯を勢い良く噛みあわせた。


 清んだ、金属片を打ち合わせる音と、そして発火の轟音。


―――燃え盛る火の勢いに僕は度肝を抜かれた。

 気転を利かせ、マレビトの方向へと飛び込むような形で、緊急回避をしてなければ、焼け焦げていただろう。僕は勝手に動いた体に感謝しながら、体を跳ね起こしつつ咎獅子を構え直した。

 もう一度、マレビトは火炎放射をしようと、可燃性の霧を噴出する。

…しかし、その動作は一度見ている。

 なによりも人間の慣れと学習とは恐ろしいものだ。

 平然と、僕は歯をかみ合わせる瞬間を狙って、マレビトの口腔に咎獅子を突き立てていた。

「………」

 声を出せぬまま、燃えていくマレビトを眺めつつ、僕は内心安堵した。

 もしも歯に、刃を当てれば、最悪爆発の可能性もあったのだ。しかし、終わってみれば呆気ない。僕は可燃性の液体を払ってから、残る敵に目掛けて走り出した。


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