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ポストエッジ  作者: こいかわぎすけ
だから少女は少年の手より
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二位の番


 

 僕は普通の高校生。

 だが、刀剣に変身する先輩の女子高生と怪物を殺すアルバイトをしている。

 生命の危険がある、このバイトは高給と送迎付きが約束されていた。



 今日はやけに送迎が豪勢だった。

 リムジンっていうのだろうか?アメリカ製の車らしい。マークはドコだったか知らないが(そもそもマークがドコの会社を表しているのかさえ、僕は知らない)、とりあえずビッグ3の車だろう。

 冗談みたいな、大柄な車体は不必要だと思う。

 で、いざ乗ってはみたが、つまらない。乗り心地が良いなしか思えない。

 二人だけにこんな車をあてがうのに意味は有るのだろうか?

 ちょっとだけ、機構が阿呆ではないかと疑ったが、理由はすぐ知れた。

 もう一組、乗ってきたのである。

 畠と金村の二人だった。彼らは僕らと同じ七支の一員で、階位は僕らより上の二位。因みに僕らは四位。

 補足しておくが、この七支の階位とは、実力の指標のようなものだ。

 一位を頂点に、下は末席七位まで続く。

 実力と序列は密接であるのに、新参の僕が四位なのは熊崎のお陰(つまり前任の島が強かったと言う事だろう)。だから、二位の彼らの方が僕らより強い。

 僕は、対面に座った二人を見た。

 その片割れ、畠は、巨漢といっても差し支えないような男である。筋骨隆々の大きな体、やや浅黒い肌。短く洒落た、染めた髪に、木彫りの仏像のような顔、そして炯々と光る強い目が印象的な人物だ。

 ただ、いかにもワルといったスタイルはどうにかならないのだろうか?

 対する、金村は、色の白い女性である。日本人形のような髪型に、慎ましい美貌をしている。ただ、何時でも何も感じていないのだろうか、鉄面皮のように表情が変わった事を見たことが無い。タイトなスカートに、トレンチコートを合わせている。

 中々、洒落とるわい。

 本当に、美女と野獣だな、と僕が思っていると、畠が話しかけていた。

「よお、直江。今夜はよろしく」

 よく通る声である。大柄なこの剣客は、色々とスケールが違う。

「こちらこそ」

 挨拶を返すと、畠は、楽しそうに今夜の事を話した。

「七支を二人も揃えたんだ、今夜は面白くなる」

 彼のまるで、賭け事に興じるような、いい口。

 そのことに僕は改めて、他の七支の危険さを確認する。

…二組も七支を揃えると言うことは、普通に考えて、マレビトの数が多いと言う証だ。敵が多ければ多いほど、戦いが困難なのは誰が考えても、明らかな筈なのに、畠はソレを楽しみだと述べた。つまり、彼はマレビトを殺す事に、なんらかの楽しみを見出しているとみて、間違いない。

 心強い助っ人ではあるが、僕は内心不安になった。

 自分の愛刀すら信頼できないのに、味方は危険人物。どうやって生き延びようか?と思う。

 そもそも、この状況を、どう切り抜けるべきなのか。

 そんなどうでもいい事を考えていると、リムジンが停車した。


 アルバイトの始まりだ。僕は憂鬱な気分で、手首に巻いたカシオを見つめた。あらかじめ指定された通りの時間になるのは、もう慣れた。

 恐ろしく、機構は時間に精確だ。

 停車した場所は、広々とした駐車場。

 今回の職場は、郊外にある大型ショッピングモールであった。

 なるほど、これだけの大きさなら、七支を二人は必要だろう。あの建物全体に、マレビトが詰まっていると仮定すると、どれだけの数になるのやら…そう、僕が不安になって意気消沈していると、畠は――ハッパをかけたつもりだろう。

 バシン!と僕の肩を叩いてから、ズンズンと歩いていく。

「…いってえ」

 僕は叩かれた箇所をさすりながら、冷ややかな視線を送る熊崎の隣へ、歩き出した。

 てっきり従業員口から入るのだと僕は予想していたのだが、畠と金村は無言で正面玄関へと歩いていく。ガラス張りのデカい、自動ドアが、ごく普通に開いたのが逆に変だった。

 お前ら、従業員口から入ろうって、考えはないのか。

 そう思ったのは僕一人だけらしい、皆足を止めず、そのまま中へと入っていた。そうして僕らはモール内へと入ったわけだが、やはりデカい。

 いったいどれだけの店があるのか知らないが、歩いて適度な運動になりそうな広さがあった。

「…」

 しかし、正面入り口から堂々と入ったと言うのに、妙な気分になった。

 非常灯しか灯されていない、寒々とした広大な場所に立っているのも、どこか違和感がある。世界的なチェーンのスタバ、フランチャイズのマック、スーパーマーケット。そのどれもが沈黙していると、まるで墓場に迷い込んだ気になる。

 そう僕は感じていたが、今回の助っ人である畠は違うようである。

 やたらと歩き回り、特にシルバーのアクセサリーを扱う店の前では、何か熱心に眺めていた。その後ろを、影法師のように金村がついていく。そうして見ると、二人がどこにでもいそうなカップルに見えた。

 無論…そんな筈が無いのだが。

 僕らは、非日常に脚を踏み入れている。普通な訳があるものか。

「おっと、きたぜ」

 やがて、待ってましたと言わんばかりの調子で、畠が指をさす。

 見れば、吹き抜けの一階と二階の間に、大きなホワイトノイズが発生している。今回は、やはり大きい。普段よりも体積の大きな現象なだけに、やはり、落ちてくるマレビトの数も普通ではなかった。

 しかも、見たことの無い種類まで、混じっていた。

「…。熊崎、行くぞ」

 溜息よりも、舌打ちをしたい気分だった。隣にいる相棒に声をかけてから、僕は彼女に手を伸ばす。不機嫌そうに、彼女は僕の手を掴んで―――また、僕は咎獅子を抜いた。

 お約束だが、着ていた本人が刀に化けるのだ、当然服が下に落ちる。

 極力、生々しいそれらを見ないようにしながら、僕は畠の方を向く。畠も金村を抜刀しており、峰で肩を叩きながら、楽しそうにホワイトノイズを眺めていた。

 そんな動作が気になって、僕の視線は、彼の応化儀杖に行く。

 たしか銘は錦竜だったか。

 典型的な打刀の咎獅子とは違い、反りが少なく、やや短い形をしている。分類的には、長脇差と言うヤツらしい。しかし、同じ応化儀杖だと言うのに、意匠が異なるのは不思議だ。けれど、応化儀杖が工業製品でなく、工芸品だと考えると、別におかしくはないか。

「余分なことは考えんなよ、新参!」

 考えを見透かしたかのように、畠が吼える。

 見れば、こちらに向かって、マレビトが何匹か走ってきている。畠はブンと一度、大きく剣を振ってから、突進した。僕も思考を切り替え、接近してきたマレビトに一太刀浴びせる。

「そうですね」

 僕は、未だに知れない敵の総数を予想しながら、答える。

「行くぞ、直江」

 先陣をきったのは畠だった。彼は、その豪腕を縦横無尽に振るい、マレビトを次々に斬り捨てていく。その様子を視界の端で捕らえながら、僕もまたマレビトに向かって走り出す。

 さあ、アルバイト開始だ。

 

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