表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ → エピローグ

 トリビュートとは、本来称賛や尊敬といった意味ですが、今回は物語の始まりと終わりを提示して、その中間を好き勝手に書くという形式をとったものを指します。

 いつのころかもわからないほど昔のことです。それはそれは鮮やかで多くの色たちが住む世界がありました。たくさんの色たちは昼の間明るい光の下で互いに混ざり合い、離れながら遊び、夜は深海よりなお深い瑠璃色の下で眠っていました。そんな光と色に満ちた世界を憎々しい思いでみつめているものがいました。地下深くに大きな城を構える灰色の魔女です。彼女は灰色に生まれた自分が嫌いでした。自分が住む城の灰色が嫌いでした。自分の外に広がる明るくて色とりどりのセカイが嫌いで嫌いでたまりませんでした。

 ある新月の夜のことでした。灰色の魔女は大きく不気味な魔方陣の真ん中に立ち、両手を広げ呪いの言葉を紡ぎ始めました。荒々しい舞いのように動きながら魔女の呪文は続きます。魔女がすべての呪いを紡ぎ終え一つ息をついた瞬間世界中の色という色が魔方陣に吸い込まれ始めました。十分もしないうちに魔方陣は全ての色を吸い込み終え、世界はのっぺりとした灰色に塗りかえられてしまいました。灰色の朝日は世界を照らすこともなく灰一色の世界が静かに産声を上げたのでした。灰色の地平線を水平線を眺めながら魔女は悲しそうにつぶやきました。

「誰も私を愛してくれなかった。何もしてくれなかった世界には、なにもないのがお似合いだ」

 魔女の呪いによって全てが灰色になってしまったはずの世界には、しかし光と色は点在していました。弱弱しく自身でも見失いそうな光、それでも確かに色をまとった光でした。

 そんないくつかの光の中で最も優しく暖かい光は小さな赤い花の中から発せられていました。花弁の内側には赤の姫がふるえながら座っていました。姫はたまたま花の中でお昼寝をしていたため恐ろしい魔女の呪いから逃れられたのでした。姫は冷たくとげとげしい力がこちらに来ないことが分かってから恐る恐る花のベットから灰色の世界へと足を踏み出しました。

「誰かいませんか?」

 細く小さな姫の呼び声はいくつかのこだまを残して消えていきました。

「誰か、誰かいませんか?」

 今度はさっきより少しだけ大きな声で呼んでみますがこだまがいくつか増えただけでした。あんなにたくさんのお友達がいたのに姫は今一人ぼっち。さびしくて悲しくて姫はなきだしてしまいました。泣き疲れるまで泣いた姫が花のベットに戻ろうとしたときです。

「おーい」

 小さな声が聞こえた気がしました。姫ははじめ風の音かと思いました。しかし、

「おーい。誰かいないかー」

 今度ははっきりと呼び声が聞こえました。

「行ってみなきゃ、誰かがいるかもしれない」

 姫はまだ少し震える足で灰色の中へと踏み出しました。


   ↓


 魔女の涙は灰色の地面に吸い込まれることはありませんでした。ガラス玉のようにぽろぽろころころと大地を転がりました。いくつもいくつも転がりました。

 やがて灰一色だった空にいつぶりでしょうか、輝く太陽が強く強く光を届けました。太陽の光を受けた涙はしばらくの間無色透明のまま輝いていましたが、やがてその内側から外側から色が光り出しました。放たれた色は混ざりあいながら世界を染め始めました。魔女の嗚咽が終わり顔をあげたとき色の世界は昔の豊かな色彩をすっかり取り戻していたのでした。

 世界に色が戻ってからも灰色の魔女は城に残り一人で住み続けました。それでも彼女が寂しさを感じることはありませんでした。何日かに一度は色たちが魔女のお城に遊びに来ましたし、誰も来ない日が続いても自分が独りではないとわかっていたからです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ