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プロローグ
外からの日差しは、壁がはねた光と重なって、いっそうの明るさを室内に満たしている。
午後の眩さは、日が西に傾くにつれて色味を帯びた。もう少し経つと、日暮れまでのひととき、光は多彩な色の音楽を奏でる。ひとところで日を繰り返していると、光の移ろいまで覚えるようになっていた。
その日は幾分か体調も良かったため、男は陽のあたる場所で、一日の残りを過ごすことにした。
椅子に座りじっとしていると、熱からおこる節々の痛みを忘れることができた。
窓の側の椅子に浅く腰掛けて、背もたれに体をもたせたまま、窓向こうの眩さへ視線をそそぐ。幼い頃からともにあった王都の風景が、居城を取りまく緑の向こうに佇んでいた。
その光景はぼんやりとした光の向こうにあって、眩さに入り交じる記憶の断片と区別をなくしている。
昼下がりの静けさに佇んでいる家の白い影に、懐かしい日々の喧噪が、蜃気楼のように重なる。ゆらめいて消えそうになる記憶の像に目を凝らせて、ぼうっとした光のかたまりへと目を細めた。
別の時空へと視線を投じる男の面に、まだ明るい午後の日差しがそそいでいた。