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第2話 お嬢様は死神

 とても暗い部屋。明りはあるのにとても暗い。光りはあるのにとても暗い。

 この部屋はとても暗い。私の目が不自由なわけでもないし窓がないわけでもない。

 私の居場所とても小さい。そして私の光はとても少ない。

 私は光が欲しい。とても多くの光が、私を包む多くの光が。






 今は操業を停止しているある廃工場に俺達は居た。


 「ま、まさかうまくいくとは思わなかったぜ……正直驚いた……な、なあ?」


 相方はそう言ったが俺自身も驚きを隠せないでいる。

 あれだけSPで厳重に周りを固めてあるのにも関わらず煙幕のみで誘拐に成功したのは奇跡に等しい。さらに不可解な点もあった。目標のお嬢様は車内に居たはずなのに車にはロックもかかっておらず運転手も後部座席で起こった異変に気づきもしなかった。しかも目標自身も声を上げたり暴れたりなど一切の抵抗を行わなかった。

 余りにもうまくいきすぎていると思うが、一応は成功だ。後はうまく金を手に入れてどうやって逃げ切るかだ。


 「なあ、あんた。あんたの家族はあんたのためにいくら金を出すと思う?」

 

 相方がそんなことを聞いていた。

 誘拐したお嬢様は縄で体を縛られ身動きの取れない状態にしてあった。結び方は素人なので無駄にきつく縛ってあるようにも見えるがほどける心配はない。

 相方は女のポケットから奪い取った携帯電話を開き連絡先を開いていた。


 「あんたのことを一番心配している人間はこの中の誰だ?」


 相方は女にそう聞くが返事はない。


 「あんた今の状況を分かってんのか?あんたは今一番危険な状況にあるんだぜ。俺達はいつでもあんたを殺すことができんだ。死にたくなかったらしらばっくれてねーでさっさと言え!」


 乱暴な口ぶりで女に言うが、女の方はそんなことどうでもいいかのようにすっと黙って目をつぶっていた。


 「おい、この女いかれてやがるぜ。クソが。映画かなんかと勘違いしてんのか?」


 相方はぶつぶつと文句を垂れていたが女は何を言われても動じなかった。


 「仕方ねぇ。この連絡先から適当にコールしてみるか。一番効果的なのはこいつの両親……」


 「前3、右3、左3、後4」


 相方の口から両親と言う言葉が出た途端女は初めて口を開いた。

 だがその言葉は全く意味のわからない物であり、同時に悪い予感を示すものであった。


 「おい、やっと口を開いたと思ったらいったいなにを…!?」


 「死ぬわよ。ここに居る全員。私も含めてね」


 その瞬間、俺達を取り囲むようにして機材や建物の陰から黒服の男たちが現れた。



 「おいおいおいおいおいおい!?ウソだろ!?完全に成功してただろッ!?」


 相方はこの状況にパニックを起こしていた。

 何が起こっているんだ。煙幕だけでは撒けなかったのか。いや当たり前だ。プロの訓練されたSPを煙幕一つで撒こうなんざ馬鹿の考えることだ。こんなこと簡単に予想できたはずじゃなかったのか。

 しかも相手は銃を持ってやがる。こっちは誰も武器なんてもってやしない。つい最近まで一般人として過ごしてきた人間二人だ。武道の経験なんて皆無だし武器を持った相手に何ができるっていうんだ。

 相手はざっと見て10人はいる……10人……まさか、この女気付いていたのか。さっきのだんまりも時間稼ぎだったってわけか。


 「こ、この女は、この女は返すッ!?だ、だから命だけは助けてくれッ!」


 相方はわらにもすがる思いで黒服に懇願していた。俺はそれをただ茫然と見ているだけだった。


 「お、おい!お前も頭を下げろ!死にたくねぇだろ!?」


 この状況下でパニックを起こした俺の相方はプライドも目的も忘れてただただ命乞いをしていた。俺にはそんな相方の姿が滑稽で仕方がなかった。そんな自分自身も滑稽で仕方がなかった。


 「お願いしますッ!命だけは!」


 相方は声を張り上げて涙ながらに懇願していた。


 「お願いしますッ!あなた様達に非常に多くの迷惑をおかけしたことは深く反省しており償いきれるものではないと理解しています!ですから命だけは!」


 何を言っているのか理解できないほど思考がパニックを起こしているのか相方はおかしなことを訴え続けていた。


 「お願いしますッ!お願いしますッ!」


 「……れ」


 黒服が何か言ったようだが相方の叫びにかき消されて聞こえなかった。


 「お願いしますッ!どうか」


 その叫びは途中で止まった。一発の銃声とともに。

 

 「黙れと言っている」

 

 黒服の手には一丁の拳銃が握られていた。その重心からは細い煙が上がっていた。

 そしてその黒服の前には真っ赤な血だまりに横たわる相方の死体があった。


 「人が死んだのに真顔でいられるなんてあなたは相当な変わり者ね」


 俺の後ろで女がささやいた。女の体を縛っていたはずの縄はほどかれ平然とした顔で俺に向かって囁く。


 「あなたは復讐する?その男のために」


 女は俺に問う。


 「それともあなたは生きる?自分自身のために」


 黒服の男たちは女が居ることを考慮せず俺に向かって銃を向ける。


 「選びなさい。あなたの運命を」


 女は俺に問う。

 

 「生きるも、死ぬも」


 死体は言葉を持たない。


 「あなた次第よ」


 俺は決める。


 「俺は生きる!生きてッ!死ぬッ!」


 「その選択に後悔はないな」


 俺は無言でうなずいた。


 その瞬間、まるで時が止まったようだった。


 女は一歩後ろに下がり言葉を紡ぐ。


 俺は敵を前にして思わず後ろを向いた。


 その時俺は思った。


 この女は女神であり、死神でもあると。





 「ならばわが価値の名のもとに使役する!勇敢なる兵士よその価値に従いて我が敵を殺せ!」

飽きずに続けたい(切実)

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