初めての世界 その2
深海の奥底で二人のレースは始まった。戦闘機アベンジャー対エアーライド、フライトモード。変型タイプの新型、熟練した旧式。向こうの崖をすり抜けて帰ってくる3週勝負。
「ルーキー。ハンデーをやろうか?」「要らないさ。このマシンの性能を見たい。パトリックさん。サービスなら要りませんよ」「ちょっと隼人君!貰っときなさいよ。私を賭けてるんでしょ?」「美香さん!そんなんじゃダメなんだ!実戦では通用しないだろう?初心者だからお手柔らかになんて言ってみろ!」「そりゃそうだけどね。もう諦めたわ。勝手にしなさい。後で覚えときなさいよ!」
「ルーキー。なかなかやるじゃないか?俺に付き合うなんて」「こうゆうのは最初が肝心なんだ。最初からマイナス思考だと後に響く。フェイクでも気丈に振る舞えばなんとかなる」「若いな。技術に勝る気迫か?いつまで行けるか見物だな」
最初のターンは互角だった。初心者がついてこれた事を考慮すると若干、隼人がリードしていた。
「やるなルーキー。だがレースはフィールドを制覇した者が勝ちだ。その事を教えてやる」パトリックはエアーライドにバンクし、バランスを崩した。「キッ………負けるもんか!打ち返してやる! 」隼人はエアーライドをアベンジャーの方に傾け、競り合った。お互いのエンジン音が激しくぶつかり深海に消える。「ヘッ!乗りやがった。グリーンボーイが!」パトリックはスッと下に避け、加速した。「マズイ!わざと合わせていたんだ!僕が乗ってくると見越して!気を取られていた抜かれた!」隼人は前方のアベンジャーを視界に入れた。「先輩!後ろ頂きましたよ。ターゲットロックオン!手荒な手段に出ますね」隼人は魚雷の発射スイッチを押した。「フン。アマチュアが!隙を突きたがる。周りの状況も読めずに」「何だって?」「私がただ抜いただけだと思うかね?トラップ抜きで」アベンジャーの抜いた後には地雷が仕掛けてあった。隼人の魚雷はアベンジャーに当たらず爆発する。水圧がエアーライドを襲い視界が遮断される。「フン。煙幕地雷さ。ルーキー。覚えとけ。攻撃は時として身を滅ぼす。何故、二人乗りのマシンかわかるか?それは一人が分析、一人が操縦の二者一体だからだ。お前が女を賭けに使った瞬間、既に見切った。バランスは取れていないと。ファーストラップは俺に軍配が挙がったな」「クソッ!どうすれば………」「隼人君。マシンを逆噴射して!煙幕を吹き飛ばすの!少しロスになるけど早い方が良いわ」「わかった。今は状況を整えよう」エアーライドは旋回し逆噴射した。
「あの判断力。この状況でロスタイムとは。大胆且つ冷静なタクティクスだな」
「良し。霧は晴れた。立て直す。飛ばすぞ!」
アベンジャーは遥か先を飛んでいた。「隼人。相手の後ろを突く事は大切だ。だが大切だからこそ慎重な判断が必要になる。勝負とはチェスゲームなのだ」
セカンドラップもアベンジャーだった。いよいよファイナルラップが始まる。
「ようやく追い付いた。美香さん。相手に余力はあると思うか?」「一週、二周と彼のリード。このラップを譲ったとしてもトータルでは彼の勝ちよ。余力は残してるはず。後は相手の実力をどこまで出せるか。王者の品格ね。つまり、今の彼には勝負なんてどうでもいい話」「そうか。全て受け止める。僕の気迫もマシンの性能の差も。パトリック。なんて男だ。これが他次元。僕の知らない世界」「マイナスに考える事は無いわ。逆に色々試せるじゃない?私のバージンもね」「美香さん。………すまなかった。初めから貴女の話を聞いていれば。冷静さが欠けてたのは僕だ」「良いのよ。私も隼人君の立場ならそうしてたもの。当たり前よ。ネーさっきナビィーに助けられた時、どんな気がした?」「アンデットに襲われてナビィーさんがカカト落とし。勢い余って、僕の上にパンティーが……………初めてだったんだ。僕らとは違う世界のナビィー」「デ、どうなのよ?好きなの?私が伝えとこうか?」「………後で良いや。今はレースに集中したいんだ。考えとく。美香さんはどうなのさ。パトリックに抱かれるんだろ?僕のせいで」「イケメンじゃない?彼。ナイスアプローチよ」
二人に微妙な距離が出来た。
…………幼馴染みが外人に抱かれるなんて。まるで母さんそっくりだ。だから離婚して女手1つで育てられた。僕は…………また悲しい思いをさせるのか?……………
隼人は微妙だった。
「ヘイボーイ!ラストファイトといこうぜ!どうだ?」「当たり前だ!このまま帰る事は出来ないんだ!」「OK!カマーンベイビー!」「今の距離なら確実に狙える。さっきの仕返しだ!」「魚雷か?果たして当たるかな?俺の高速スピンで照準が定まらないだろう」「誰も貴方は狙っていない!目標はゴール地点のフラッグ!そう!進行方向だ!イッケーッ」「ワット?進行方向に魚雷を?これでファイナルラップは取れなくなったか」「肉を斬らせて骨を絶つだ!先に行くぜ!」「マッ………待て!ルーキー!君を失いたくは無い。ナイスガイだしな。褒美だくれてやる!」パトリックは魚雷を撃ち落とした。回避するエアーライド。ファイナルラップはようやく隼人が取れた。
続く