〜音無奏の場合4〜
「よう。なかなかアツアツじゃないか。最後の方とか俺がいること忘れてたろ?見せつけてくれるねぇ〜ひゅ〜ひゅ〜。」
響子が帰ってからしばらくして、彼は茶化しの言葉と同時に現れた。
恋人同士の出来事を陰から盗み見するとは人でなしすぎる。
…あれ?死神だから人でなしという表現は効果ないのでは?というツッコミは胸の奥深くに
しまっておいて欲しい。
「!!人のキスシーンとか見んじゃねぇよマジでヤな死神だな。慈愛の神とかいってるけどさ、アンタの全ては好奇心でしか構成されてないんじゃないですか?」
ほんのり顔を赤くしながら、実に正鵠を射た発言をする。
「たぶんそれに近いと思うぜ?好奇心とバファリンの半分側でできているのさ!ハハハ」
笑いながらその言葉をあっさりと許容する彼は、イヤミったらしいあの笑顔を軽薄そうな顔に浮かべていた。
「厄介なヤツだな、まったく。…はぁ、またしばらくしたら嫌でも顔を合わすんだろ?……そんときはアフターケアもしっかり頼むぜ自称慈愛の神様とやら」
どこかスッキリしたような顔で、旧友と言葉を交わすように奏は喋る。
最初嫌がってた相手に対して。
「おうよ任せな?お前がこっち側に来た暁には、カノジョが来るまでしばらく相手してやるさ」
まるで最初からアフターケアをしてくれるつもりのような口調だった。が、一つの疑問が浮頭にちらついてしょうがない。
やな予感が膨れ上がっていくが思い切って彼は聞いてみることにした。
「まてアンタ…仕事はドウスルンデスカ。ほったらかしですか」
どことなくかた言になっている奏の質問に、待ってましたと言いそうな、他意がありそうな笑顔を浮かべてゆく。
「いや、カナッチの相手をすること、ソレも仕事のうちなのさ。…というのを建前に、仕事をサボるというのが本音だったり」
「はは、まったくサイテーじゃないか。ま、よろしく頼むよ」
「おう。こっちに来たら俺様の身の上話からしてやんよ」
ろくでもない話だろうなと思いながらも、少しばかり楽しみにしている奏。
他愛の無い楽しい話をしていると、やはり時がたつのは早い。すでに日は落ちきって、柔らかい黒が辺りを覆っていた。
「さて、んじゃ俺は先に行っとくぜ。甘甘な思い出をしっかり作って来い」
とその言葉だけを残すとゼロの姿は虚空に溶け始め、やがては闇へと同化していった。
一人立ち尽くす彼は、大人しく院内へと引き返してゆく。
バタン
正面玄関のドアが閉まる。
「In the case of Kanade Otonasi ……“True end”…だな」
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