〜音無奏の場合3〜
足取りも軽く、鼻歌なんぞを歌いながら、満面の笑みで、彼女は病院に姿を現わした。
そして、ほどなくして彼女は奏がいることに気付く。
「あ、カナくんホントにいたよ?……やっほ〜元気〜?」
傍から見て、明らかに病人のカッコをする奏に元気?と声をかけるなど言語道断であるが、そこはあまり触れないでやっておいてほしい。なにせ彼女にしてみれば、他人の事を気遣う、その行為自体が珍しいのだから。
「うるせぇよバカタレ」
!
「え、何か言った??」
彼女は目を瞬かせて奏に問いかける。今の発言が少しばかり気になったのだろうと推察できるが、キャラクタがストーリーテラーに対して突っ込むのはいただけない。
「や、こっちの話。創造主に対しての発言だから気にするな。はは」
こっち目線はやめなさい。
「そう?」
何が何だかわからないという表情を彼女は見せるがソレも当たり前だが、その表情もたった一瞬で変わっていった。
「う〜みゅ………で。何か私に用があるんだよね?」
「……」
にこっと笑いながら、ズバッと核心に触れてくる彼女のその行為は中々に清清しい。清清しすぎて、微塵の悪意さえも感じられないのがすばらしいとさえ思える。
「“奏の親愛なる友人ゼロ様”って人から手紙をもらってさ。
『カナくんが響子ちゃんにどうしても伝えたいことがあるんだとさ。だから明日午後三時、琴音病院にいってやってくれないか』
って」
また余計なことを!と抗議の声が脳裏をかすめるが、実のところそれは余計なことではなく無駄が無いナビゲートだったりするから質が悪い。
「というか、やっぱりカナ君も病気になるんだね?」
「なんだその含みのある言い方は。彼氏に対する発言じゃないだろ」
奏のツッコミに微塵も揺るがない彼女は微笑を一つ返す。
焦らずに、あくまでも自分のペースを保ちながら、確実に核心へと踏み進む彼女。
「そして?カナ君はどんな病気にかかっちゃったんだい?響子様の愛で治してしんぜよう」
躊躇いながらも言葉を脳内で構築してゆく。
目の前の笑顔が壊れないように、失われないように、コトバを選びながら、確認しながら、全てを伝えてゆく・・・
「響子?」
「……」
全てを打ち明けられた彼女の顔には、少し寂しげな笑みが浮かんでいた。
「ん、先いっちゃうけど…ごめんな。」
いつまでも一緒にいられるわけではないと知っていたし、いつか大切な人の死を見ることがあると知っていた。
だけど──これほど早くに大切な人の終わりを告げるとは、世界はあまりにも無情である。いや、“無情”では無く全てにおいて“公平”なのか。
「……大丈夫…ダイジョブだよっ!それなら、それならさっ!?終わりまでいーっぱいラブラブしちゃうからねっ!!」
寂しげな笑顔をどこかへと吹き飛ばし、今は無邪気な笑顔に満ち溢れていた。
儚くも短い時間を駆けていく二人は、太陽のヒカリでより一層輝いているように見えた。




