静かな始まり
「時雨様~!、時雨様~!」立派な和風建築の建物に、これまた立派な着物の少女の声がこだまする。
「どうした?秋雨」少女の声に反して低くそれでいて響く声が少女の通りかかった部屋の襖の奥から聞こえた。
「こちらでしたか時雨様。はいってもよろしいですか?」どうやら、襖の向こうにいるのが少女(秋雨)の探していた人物らしい。
「ああ」
「失礼いたします。」流れるような所作で秋雨は襖を開け中に入った。
「どうしたんだ?」中に居たのは年は17、8に見える整った顔をした少年だった、彼もまた秋雨の着物の柄と対になるような立派な着物を着て、刀の手入れをしている。その行動と彼独特の雰囲気が部屋全体を覆っていた。
「時雨様に沖野様から郵便が届いておりましたのでお届けに」馴れているのか部屋の雰囲気をものともせずに時雨は言った。
「そうか、ありがとう秋雨。沖野さんからか・・・厄介な用事じゃないといいが、どうしたそんな顔をして?」手入れをちょうど終えたのか時雨が秋雨のほうを向いた。
「いえ、主に尽くすのは武姫として当然の役目ですから、そんな鈍ら刀と違って!」さっきほどまで時雨の手入れしていた刀に恐ろしいほどの殺気を込めて睨む秋雨。
「美人が怒ると怖いと言うが人間離れした美貌をもつお前が睨むと更に怖いな秋雨」さらりと気障な台詞を吐く時雨。
「ありがとうございます時雨様でも今日はごまかされません。私の手入れを先にしてくれる約束でした。」若干顔が緩みかけた秋雨だったが、再度不機嫌さを醸し出し刀を睨む。
「ククク、女の嫉妬とは醜いな時雨よ。」突然睨まれている刀がしゃべり出した。
「そうか?嫉妬されるとうれしいけどな俺、それに整備の件は秋雨に許可を取ったって泣きながら言ったのお前だろ村雨」
「な、許可など出した覚えはありませんよ村雨!」さらに鋭く睨む秋雨。
「うるさいわ、私は泣いてなどおらん」秋雨に逆切れした挙句に許可云々をまるまる無視した村雨。
「これ以上は長くなりそうだな」時雨は一言つぶやいて拍手を打った。「村雨まずは人型に戻って秋雨に一言詫びろ。秋雨すまなかった、元はといえば俺がお前に確認しなかったのが悪いそれと村雨を許してやってくれ」村雨を鞘に戻しながら言った。
「ふん、秋雨に詫びたくなどないが時雨が言うなら仕方がない。《チェンジ》」時雨の持っていた村雨が金色の髪を持つ和室に似合わないドレスを着た少女にかわていた。「すまんかった」頭をさげた。
「時雨様は悪くありませんから、時雨様に言われたら許さないわけにはいきませんね、次はないですよ村雨」時雨に笑顔を村雨には怒気を浴びせた秋雨。
「ふ、ふん、偉そうにしおって、それよか時雨、沖野殿の手紙にはなんと?」目に涙をためながら村雨が聞いた。
「まあ、季節的に年賀状じゃないだろうから軍の用事だろうな。それにしても一般の郵便でくるなんてめずらしい」言いながら封筒をあける時雨「封筒を開け次第基地に来いだと」