【ツッコミどころ満載スポーツ小説】空飛ぶ竜巻三四郎
「待ていッ!」
夕陽の落ちる川沿いを歩いていると、突然後ろから呼び止められ、足を止めて少年は振り向いた。
「ぼくに何か用かな?」
「貴様、竜巻三四郎だな?」
「いかにも」
「齢16にして日本最強の柔道家の名を轟かせる、あの稀代の天才、竜巻三四郎だな?」
「説明的な台詞をありがとう、おじさん。ところであなたは誰ですか?」
黒い柔道着をだらしなく着た、人相の悪いおじさんだった。どう見ても悪役だ。
対する竜巻三四郎は白い柔道着に綺麗に身を包み、かわいい顔をした主人公の少年だ。
おじさんは名乗った。
「俺は大島一家の用心棒、小島一虎」
「大島一家だって?」
三四郎は読者に説明した。
「大島一家とは無法者の集団だ。戦争の引き揚げ者のマーケットを買収し、娯楽場にしようと企む周辺のギャング団さ。ぼくがいつも懲らしめてやってるから復讐に来たのかな?」(作者注:1956年刊「竜巻三四郎」の登場人物紹介よりコピペしました)
「そうではない」
小島一虎は柔道着の襟を正した。
「俺もおまえと同じく柔道をやっている。純粋にどちらが強いか試しにやって来た」
「悪いけど対外試合はしないんだ」
「フ……」
三四郎は鼻で笑われた。
「所詮、貴様の柔道は『スポーツ柔道』ということか。……知っているか? 柔道とは元々暗殺術──相手を壊すために生み出された殺人術よ。その初期衝動を忘れた貴様など──」
「知ってるさ」
三四郎は涼しい顔で答えた。
「その通り。柔道とは元々スポーツなどではなく、敵を殺すための技だ」
「ほ……、本当にそうだったのか!?」
口からでまかせを言った一虎がうろたえる。
「柔よく剛を制す」
三四郎がうなずく。
「その意味は、おっぱいの柔らかい女性だからこそ、剛毛の生え揃った逞しい男を投げ飛ばし、殺し、制圧することができるという──」
「「その通りよ!」」
声を揃えて現れたのは、着物の胸元をはだけたセクシーなお蔦さんと、かわいい女給の真弓だった。
(作者注:この物語は『空飛ぶ竜巻三四郎』というタイトルを思いついたあと、検索してみたら『竜巻三四郎』という小説?が1956年に存在したことにびっくりして、それならばとできるだけ『竜巻三四郎』のキャラを使ってやろうとしたものである。ちなみにオリジナルの刊行後ちょうど70年が経っているので、二次創作にはあたらない……知らんけど)
ちなみに作者は『竜巻三四郎』を読んだことがないので、お蔦さんと真弓がどういうキャラなのか詳しくは知らない。いやごめんなさいまったく知らない。ゆえに描写できないので二人の登場はなかったことにする。
「この俺と勝負しろ」
おじさんが大島流柔術の構えをとった。
「フ……。主人公のぼくとやるのかい?」
三四郎は余裕の笑みを浮かべる。
「ダァーッ!」
有無を言わせずおじさんが飛びかかった。
次の瞬間、おじさんは空を飛んでいた。
投げ飛ばされたのか? そう思ったが、そうではなかった。見ると自分の襟を掴み、三四郎も一緒に飛んでいた。
下を見ると昭和31年の町が小さくなって見えた。まるでオモチャのようだ。お蔦さんと真弓がこちらに手を振っていたが、それもちっちゃすぎた。まるでゴミのようだ。
おじさんは三四郎に聞いてみた。
「なぜ……俺たちは空の上にいる?」
三四郎はクスッと笑うと、答えた。
「これがぼくの必殺技だからだよ」
おじさんは定番の言葉を漏らした。
「なん……だと……?」
三四郎は卍解した。
「唸れ! 竜巻落とし!」
地上120メートルから遥か地上へ、必殺の背負い投げが炸裂した。
三四郎もおじさんの背中に抱きついて、一緒に落ちていった。
「これは……! まるでカ厶◯イの使う必殺技──飯綱落とし◯!」
「伏せ字の意味がないよ、おじさん」
みるみる地面が近づいてくる。
しかしおじさんもただのやられ役ではなかった。
懐から刀を取り出すと、自分のみぞおちを深く貫き、背中の三四郎のお腹にも──
「フッ。柔道家たるもの、必殺技を編み出した時には、同時に破られた時のことも想定しておくものだ」
笑顔でそう言う三四郎のみぞおちに、おじさんの体を貫通した刀が、突き刺さった。
「うわあああっ!?」
そのまま二人串刺しになったまま、地面に足からスタッと着地した。
「見事な着地よ、三四郎!」
お蔦さんと真弓が拍手をした。
「これは最高点が出たわね二人とも」
「スポーツ柔道だなどと言ってすまなかった……」
おじさんが三四郎を振り返る。
「おまえは凄まじいまでの殺人術の使い手だ。恐れ入ったよ」
「おじさんも凄かったですよ」
三四郎は口から大量の血を吐きながら、笑った。
「争い合ったあとには友情が生まれるものだ。ぜひ、ぼくと友達になってください」
そして二人は握手をしたまま、帰らぬ人となったのだった。
嗚呼、スポーツとは清々しいものよ!




