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第2話・淡い予想に回答を〜食い違うのは認識か?~

第2章 強要された共感の共振



       第2話・淡い予想に回答を〜食い違うのは認識か?~



 夕方、診察に来たシリウムから、インスが怪我をして数日療養が必要であることを告げられたアインは、一瞬目を見張り、息を飲んだ。



「回復魔法をかけるまでの間だがな。だが、その期間もお前の傍にいることになるから、先に伝えておく」


「……ぇ……?」



 続けて言われて、今度は目を丸くした。



「もしかして、しばらく来られなくなると言われるとでも思ったのか?」


「……インス様……すごく、ご無理をされている気がしていましたから……」



 軽く眉を跳ね上げたシリウムに、こくんと小さく頷いたアインは、俯きがちになってぽつりと漏らす。



 その言葉で、やっぱり何となく察していたなと確信したシリウムは、だがそれには触れずに話を続けた。



「治療が終わるまでインスは右手が使えない。いきなりそんな姿を目にして、お前が驚きすぎないようにと言うだけだ。今は別室で休ませているが、後でこちらに連れて来る」


「……あの、でも……」


「ダメだぞ。インスがお前の世話係になっているのはそれはそれで任務だからだ。こちらはお前たちの個人の感情で中断はさせられない。どちらか、特にインスの方が、役目を果たせない状態にあるというならともかく、夕食から朝食までの間、食事と睡眠を一緒に取るだけだ。大部屋の患者と変わらない」



 途中、何かを言いかけたアインを遮る。



 それなら、インスにはそのまま別室で休んでいて欲しいと考えていることなど分かり切っていた。



 けれど、それでまたアインが悪夢にうなされ、結局インスを夜中に起こして連れてくる破目になるくらいなら、最初から同じ部屋で休ませる。



 アインのいるこの病室は個室だが、複数人が同じ部屋で寝起きする大部屋ももちろん存在していて、そこで一緒に療養している患者と大差はない。



「明日から数日間は日中もインスがいるというだけだ。ついでだ。授業への復帰に向けて、聞いておきたいことがあれば聞いておけ」


「…………はい」



 授業への復帰。と言われて、一気に緊張したアインの顔が強張る。



 既に一か月半ほど休学状態。どれほどの遅れが生じていることか……



(遅れを心配していそうだが、それはないんだがな……)



 アインの表情を見て、シリウムは内心溜め息を漏らす。



 アインは呪師学校の入学年齢には達していない。


 本来なら、魔法の使い方を学んでよい年齢ではないのだが、事情があって特例で個別授業を受けている。


 個別授業なのは、入学年齢に達していないからと言うだけではなく、他の見習いたちとの授業の方針の違いから。



 本来、神官呪師は神殿に所属し、神官としての奉仕に当たりながら魔法を学び、用いる呪師。


 その活動範囲の殆どが神殿で、外に出ることはまれ。



 そんな神官呪師たちの監視を兼ねた護衛役が『神殿護衛官』と呼ばれる者たちで、神殿内の各所や時に神官呪師に個別で付く。



 対して皇宮呪師は皇宮に所属し、皇宮内の呪師の生活圏と定められた範囲で生活しつつも、皇宮の外に出て行う任務が非常に多い。



 そんな皇宮呪師たちの監視を兼ねた護衛役が『皇宮護衛官』で、皇宮内の中でも呪師の生活圏と定められた範囲を巡回したり、各所の警備を行ったり、任務で皇宮の外に出る皇宮呪師に付く。



 また、使える魔法も大きく分ければ白魔法と黒魔法。


 精霊魔法に関して言えばどちらも使えるが、使い方は全く違う。



 更に、魔法を使う際の呪文も呪印も異なるので、すべてを網羅することなど不可能。



 いや。時間をかけて学べば可能ではあるだろうが、『使い方の違い』という一点をクリアするための技術の習得が困難になってしまう。



 それならば、元々向いている、言い換えれば覚えるのが早い方に集中し、技術を磨いた方がよい。


 だから、三種類の魔法の、四通りの使い方をすべて学ぶ者はいない。



 ここ数百年来で最高の天才と言われているインスでさえも皇宮呪師としての教育しか受けていないし、神官呪師の使う白魔法を学ぶことはできない。


 学べないのもそうなのだが、根本的に向いていないというのもある。



 けれど、アインに関しては、それが適用されなかった。



 理由は、もったいなさ過ぎたから。



 神官呪師として育てても、皇宮呪師として育てても、類を見ないほど優秀な、有史以来最高の呪師に育つと示した、まだ五歳ほどの、記憶のない身元不明の子供。



 しかも、見えざるものを見る力を持った『見者けんじゃ』で、保有する魔力も桁外れ。



 魔力を()()()()()放出し、一室を破壊して余りあるほどの力を持っていると判明した。



 もうその時点で放置はできない。



 早急に、力の使い方を学ばせ、制御させなければ、最悪周囲のすべてを破壊してしまう。



 もし、アインの理解力や、性格に問題があれば、あまりにも危険すぎる存在として『抹殺』しなければならなかったほど。



 幸いだったのがアインには、呪師学校の入学許可が下りる十三歳の子供たちよりも、ずっと理解力があったこと。



 それはそれでどうなのかとも思うが、その理解力……才能のおかげで、早急な排除ではなく、徹底的な教育に舵を切ることができた。



 さらに、努力を厭わず、常に学び続ける事にも素直で、真綿が水を吸うように、あるいは、空の器を満たすように次々と知識も技術も習得して行った。



 学習の進捗速度で行けば、十三歳で初めて学び始める子供が、順調に進学して行って、十五歳になってようやく任務を体験できるようになるまでを()()()()()()()



 年齢が、余りにも幼いがために討伐を始めとする危険で、命のやり取りを有する任務の体験は行われていなかったが、実力的に言えばもう正式な呪師を名乗れるほど。



 それを、保護されて、自分の名前も、それまでの記憶も、会話すらも成り立たない、言葉も知らない状態から、ほんの()()()()()()で成し遂げていた。



 その才能の異常さを、本人が正しく理解しない。



 だから、本人は常に不安がる。



 けれど、正しく判断できている皇帝が、そして国の上層部がアインにかける期待が大きくなるのも当然で、特例措置が出るのも当たり前。



 皇孫皇女ジャンヌの護衛騎士団長のファン卿ディアスが、先の事件で魔族・アーグに体を操られ、ジャンヌを刺したことを理由にアインに厳罰をと求めても、誰一人として頷くことがなかった理由でもある。



 だからこそ、今回の事件で、アインが心に負った傷の重さが、どれほどの影響を及ぼすのかが危険視されてもいた。


第2章第2話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、インスの怪我を知らされたアインの反応と、シリウムの視点から語られる「アインの規格外な才能と特異な立ち位置」についてのお話でした。


本人は授業の遅れを気にして焦っていますが、周囲からの評価は全く違うようで……。


彼が抱える圧倒的な力と、先の事件が残した心の傷が、今後どのように影響してくるのか?


引き続き、彼らの歩みを見守っていただけると嬉しいです。


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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