第4話・戯れ?本能?それとも親切?~翻弄される不等価な~
第1章 遭遇するのは貴き碧
第4話・戯れ?本能?それとも親切?~翻弄される不等価な~
池の上に浮かぶ、水が人の子供のような姿を取った半透明の存在を前に、インスは内心頭を抱えた。
なるほど、通りで。と納得する気持ちと、正直、冗談じゃない。という思いと、なぜ? という疑問と、どうしようか……という悩みと……とにかく色々な、複雑な思いが一瞬のうちに沸き上がり、何とも言えない表情で聖霊を見つめる。
「あのね、ここはね、大きな水の力が宿った子の血がたくさんあってね、あとね、キミの血もたくさんあったよ」
「……は……?」
にこにこと笑いながら、一方的に喋り始められて目を丸くする。
この聖霊が、いきなり何を言い出したのか分からない。
分からないが、聖霊は楽しそうに言って、インスに近づいてきた。
「……っ……!」
「あそこ、中にたくさんあるでしょ? 強い光と、大きな風と、大きな火と、強くなった地と、あと暗い火。強い闇の火!」
水が、なびくように伸びて水の流れに戻る。
胸から下の辺りの形が崩れて水になって、ぐるりとインスを取り囲む。
そうして、小さな子供の形をした指が塔の中を指し示した。
「他にも、魔力の宿った血と、水の子の血も、キミの血も、まぶしい光の血もいっぱい! それでね、前にね、また血をくれたよね!」
「……………」
だんだんと、この水の聖霊が言っていることが分かってきた。
同時に血の気が引いていく。
『大きな水の力』というのは、おそらくアインの体内に入り込んだ水の神剣の力。
その力が『宿った子の血』というのは、先の事件で大怪我をしたアイン自身が流した血。
この聖霊の言う『キミ』と言うのはインスのこと。
だから『キミの血』というのは、アインと共にここに連れ込まれ、拘束されて、蠱毒の呪いに操られた子供たちによって切り刻まれたインスが流した血のことで……
塔の中に残る、残留する濃密な魔力それぞれと、呪師の家柄の子供たちの血と、インスとアイン。それから、操られたアインが刺したジャンヌの血。
『前にもくれた』というのは、先日調査に訪れた際に、悪意の籠った魔力に体を操られたステールによって負傷させられた時に流した血を『貰った』と思っているから。
「あのね、だからね、もっと頂戴! 代わりに教えてあげるから!!」
「何を……っ!?」
無邪気な笑顔にぞっとする。
返事も待たずに水の聖霊は背中側から抱き着き、カプリとインスの首筋に嚙みついた。
一気に魔力を吸われる。
「……っく……!」
くらりと眩暈がして、同時に頭の中に何かを流し込まれる。
「……ぅ……っ」
それは、あまりにも凄惨な映像。
魔族に、アーグに拘束されたインス自身が、蠱毒の呪いに操られた子供たちに刺殺され、なおかつ捕縛の糸に体を切断されるという、まさに悪夢そのもの。
しかもソレは、もし、あの時、インスがアインを止めきれていたら起きたであろう出来事で……
さらにその結果、放心状態で座り込んでしまったアインがアーグに心を奪われて、抜け殻になった体を操られ、今度はジャンヌたちまで、その手にかけさせられるという未来に続いていた。
あまりにもおぞましい情景に、堪えきれない吐き気が沸き上がる。
誰が、好き好んで自分が惨殺される情景を見たいというのか。
その結果、アインの心を傷つけて、ジャンヌやファン。
クロードとリオンまでもが殺されて、最後にはアイン自身までもが己で己を殺し、傷だらけの心が砕け散って、それを愉しそうに嗤って踏みにじっている魔族の姿を、見たいというのか……
「……っ……!?」
咄嗟に口を手で覆う。
嘔吐いたインスを見て、首筋から口を離した聖霊が正面に回り込んできた。
小さな、水そのものでできた両手でインスの顔を固定し、いきなり口づける。
口元を覆った手をすり抜け、直接口に嚙みつくようにして口づけられて驚く。
目を見開いて抵抗しようとするが、全身を濡らす水にまとわりつかれて動けない。
その間に、インスの体内には清涼な水の魔力が送り込まれた。
水中に沈められたかのように呼吸ができなくなって、意識だけが必死に抵抗するが、実際にはピクリとも動けない。
「っは……。いきなり、何を……っ!」
「気持ち悪くなくなった?」
少ししてようやく口を離されると、咳き込むように息をする。
体も動くようになったので強引に振り払い、睨むが、聖霊はこてりと首を傾げ、何でもないように聞いてきた。
言われてみれば、胃の中身をひっくり返しそうなほどの吐き気は治まっている。
けれど、不快感はむしろ増して、耐え難い嫌悪感に顔を顰めた。
「あのね、水の子が見てる夢だよ? 全部の子の怨念をね、全部宿してるから、いっぱい見てる! でもね、魔力の宿った血の子はね、まぶしい光に焼かれて消えたから、みんな還ったよ」
こんな風に……と、再び頭の中に映像が流し込まれた。
「……っ……!!」
今度のものは、夢ではなくて現実に起こった出来事だと悟る。
蠱毒の呪いで操られ、殺人を強要されて、逆に命を奪われた子供たちの、その亡骸をアーグは再利用したのだと、初めて知る。
死してなお、魔物の器として利用され、ジャンヌの持つ女神の加護の光によって残滓さえ残さず消し去られ……子供たちの遺体は、回収されたからなかった訳ではないと、見せつけられた。
倒れそうになる身体を、両手をついて支える。
呼吸が荒く乱れ、白く青ざめた顔に苦痛が浮かぶ。
「あとね!」
楽し気な聖霊の声にまだあるのかとうんざりする。
正直、もうこれ以上聞きたくもない。
「魂は全部還ったけど、汚れはいっぱい残ってるよ」
けれど、聖霊はそんなインスの気持ちなど全く気づきもせずにケラケラと笑ってまた塔の中を指さした。
第1章第4話をお読みいただきありがとうございます。
首筋を噛まれ、魔力を吸われ、トラウマ級の悪夢を強制上映され、挙句の果てに強引な口づけ。
相も変わらず(?)不憫なインスは耐えられるのか。
聖霊に悪意がないからこそ、インスの拒絶と嫌悪感はより痛切です。
次回、インスの反撃(あるいは抵抗)はなるのか?
お楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




