第2話・異変の様で美しい~碧《きよ》さの意味を考える~
第1章 遭遇するのは貴き碧
第2話・異変の様で美しい~碧さの意味を考える~
廃離宮は旧都の最西部に位置している。
そこから最南端に向かって旧都の宮殿群が並び立ち、中央部には神殿跡地。
隙間を埋め尽くすように住居跡があり、道幅も狭く、馬車では通れないところも多い。
建国期に使われていた都のせいか、規則的な作りにはなっておらず、次々建て増していった結果、人口増加に伴って手狭になり、新たに皇都を建都して、元の住人たちはその周辺域に移住させ、それぞれに新しい町や村ができた。
特筆すべきは水路に関して。
これだけ無秩序に建物は建ち並んでいるというのに、その隅々にまで水路が引かれていた痕跡があり、都の至る所に人工的な池の跡があった。
廃宮殿西の塔がある小島の池もそんな人工池の一つ。
小島の手前、本当にぎりぎりの場所でステールは足を止め、先へと進むインスを無言で見送る。
何の気負いもなく小島に渡って、前回同様、先に周囲を確認したインスは、塔へは行かず、ちょっと首を傾げて何事かを考え込んでいた。
小島も、その周辺も、塔の内部に比べれば何の問題もない。
それは『最初』の調査の時にも確認されていて、二度目の調査でインスが来た時にも同じ。
『西の塔』という、封鎖された空間だった場所にだけ、濃密な魔力が複数入り混じって残留していて……壁の一角が破壊されていなければもっとまずいことになっていたかもしれなかった。
魔力と言うものは、本来、形がない。
魔法は、その『形がない魔力』に、同じく魔力で働きかけることによって、『望む形』に変え、現象を引き起こす。
それでも基本的には『形を取らせた』魔力も、維持するための魔力を注ぎ続けないと時間経過で崩れていき、元の『魔力』に戻って世界に溶ける。
魔法に永続性がないのはそのためと考えられていて、定着させるために図形を描いたり、魔力をため込み、留めやすいもの……主に鉱物など……に宿すことで長持ちさせたりする方法も用いられていた。
神殿で浄術神官が作る護符然り。一般的には知られてはいないが、皇都を始めとした人の住まう場の安全を保つための結界然り。
皇宮呪師も、武器や防具などに魔法の効果を留めるための手法を学び、日々実践している。
魔法の道具などは、そうやって作られたものだ。
魔力が基本的には一つの形を保ち続けられないとはいえ、まれに一所に魔力が留まり、溜まり続けることで自然に形を成すことがある。
それが『魔物』と呼ばれるもので、高濃度の魔力が溜まったところにあった……あるいは迷い込んだ……生き物が魔力に染められて魔物になる場合と、魔力そのものが周囲にあるものをまねて形を成して魔物になる場合があった。
そういった魔力が溜まりやすい場所と言うのは大体決まっていて、多くは『流れ』が妨げられやすい箇所となる。
例えば、人や他の動物などもあまり入り込めない密林の奥地や山奥などにできた窪地、鉱山。
逆に人が多い場所でも様々な思念が滞り、停滞しやすい場所。
かつては栄え、今は滅んだ都市。
その中でも特に、監獄として使われていたような場所は、恨み辛みを募らせた者などが非業の死を遂げることも多かったため場所柄としては最悪の部類。
だから、塔の壁が破壊されていなければ、『塔の中』と言う密閉空間に濃密な魔力が留まり続け、とっくに魔物が発生していたはず。
けれど、第一回目の調査の時も、それから二十日ほども経過してからインスが調査に来た二回目にも『魔物発生の痕跡』は見当たらなかった。
どころか、もっとも影響を受けやすい西の塔の壁が崩れた方角にある池はありえないくらいに清浄に保たれていて……そのおかげで前回来た時に起こした体調不良を、多少なりとも回復させられた。
旧都内の各所に残る人工池の跡地と、この西の塔を有する小島の池の状況が違いすぎる。
水の流れの途絶えた人工池の水が、どうしてこれほど綺麗に保たれている?
その疑問は前回来た時からあったが……
「……先に池を調べてきます」
「は? 池?」
しばらく考え込んでいたインスが振り返って、唐突にそう告げて来た。
小島の外で待っていたステールは、いきなり「何だ?」と目を丸くする。
「ええ。ちょっと、おかしいので……」
「……大丈夫なのか?」
一つ頷いて言うインスに、表情を引き締める。
「さあ? 何が出るか……何も出ないか、調べてみないと分かりません」
「お前な……」
軽く肩を竦め、あっさりと返してきたインスに脱力する。
若干呆れてしまったのは仕方がないだろう。
「なぜ、ここだけこれほど綺麗なのか、確かめておく必要がありますから……」
「……………」
言われて、ステールも違和感に気付いた。
確かに、旧都の他の場所では、涸れていたり、水草に覆われて濁っていたりでまともなものは一つもない。
西方の、それも端に作られた池だけが、どうして澄んだ碧のままなのか……
涸れていないのはまだしも、流れのない水が濁っていないのはおかしい。
「気をつけろよ?」
「ええ。もちろんです」
改めて気を引き締めたステールの言葉に頷いて、インスは塔を迂回するようにして池へと向かった。
第1章第2話をお読みいただきありがとうございます。
滅びた都、淀んだ空気。
本来ならば濁っているはずの水が、そこだけ不自然なほどに澄んでいる。
今回は少し世界観のお話も交えました。
魔力は水と同じで、流れが止まると淀みます。
だからこそ、流れがないのに「腐っていない池」は異常事態。
果たして、綺麗な水には何が潜んでいるのでしょうか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日12時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト




