第3話・慈愛?敬愛?それすら超えた?~微笑みで無双する~
第6章 幼く拙い敬慕の揺籃
第3話・慈愛?敬愛?それすら超えた?~微笑みで無双する~
日が落ち、部屋が暗がりに支配される頃。
静かに病室の扉が開き、そっと顔を覗かせたインスを見て、控えていた看護要員の神官呪師が緊張する。
「……ゾナール神官長を呼んで下さい……」
告げる声が落ち着いていて、それが逆に怖い。
硬い表情で頷いた神官呪師の様子に、インスは「……ああ!」と、気づいたように小さく声を上げた。
「大丈夫。目を……覚ましてくれました」
ふわりと、その女性的ですらある優しげな風貌に華が咲くような柔らかな笑みが浮かべられて、
「っ!! ……すぐに……!」
目を見張って息を飲んだ神官呪師は、思わず大きな声で告げると、急いで神官長室へと向かった。
知らせを受けて病室に来たのはシリウムだけではなかった。
丁度、打ち合わせなどもあって訪れていたチェスパスもやってきて、シリウムがアインの、チェスパスがインスの診察と治療を受け持つ。
無理に腕を動かし、傷口を開いてまで魔法を使ったアインは極度の貧血。
風の神剣の、強い魔力が残る左腕の切り傷はいまだに一切治る気配もなく、縫合し直した後も滲むような出血を続けている。
そもそも、最初の段階で、胸にナイフを刺され、心肺停止の状態で運び込まれたアインはその時点ですでに出血多量。
胸の手術をして……こちらは順調に治って行っている……造血剤や止血剤、鉄剤に、他にも血を作り、体の中に行き渡らせるための薬を摂らせているのだが、追いついていない。
実は、インスの方も似たり寄ったり。
最初の段階で、見た目の割に酷い怪我はないのに失血死寸前。
魔力どころか生命力まで枯渇した状態で、皇宮からの搬送途中に心肺停止。
緊急手術をして、蘇生が確認された後、全身に残る怪我の治療もして……アインよりも年齢が上で体力もあった分回復も早かった。
だが、退院後すぐに皇宮側での任務に投入されて連日怪我が絶えない……というよりも命の危険に晒されてばかりいて……治した端から運び込まれるを繰り返している。
流石にこれ以上続くのはまずいと判断したシリウムが、その日に負った怪我の魔法による治療を避け、入院させたのが五日前。
その怪我に、アインの中に入り込んで沈黙している水の神剣の魔力の残滓が微かにあって、治癒を妨げていると分かり、アインが回復魔法をかけたのが三日前だった。
お互いの治療の様子を、心配そうにチラチラと見ているのに気づいて、シリウムもチェスパスも……もちろん補助でついている者たちも……何とも言えない気持ちで沈黙する。
「……とりあえず、食事ができるならしろ。アインもだが、インス。お前もだ……ったく……気になるなら答えてやるから聞け」
治療を終え、準備の指示を出したシリウムが溜め息混じりに言えば、二人は同時に顔を見合わせ、シリウムを見た。
そこから、それぞれの怪我の具合や体調などを確認し合い、途中、運ばれてきた食事をなぜかインスがアインに食べさせている。
「「……………」」
三日、意識のなかったアインはもちろん、インスも昨夜から食事どころではない精神状態だったため、用意されたのは栄養価が高く、消化のしやすいものばかり。
「もう少し、食べれますか?」
「……えっと……はい……」
極上の笑顔で問われ、口元にスープを掬ったスプーンを差し出されたアインの方も、少し戸惑ってはいるものの、ちょっと嬉しそうに小さな口を開けて、そっと含ませられるに任せている。
「……インス様も……!」
「はい。いただいていますよ?」
こくりと嚥下して、ハッと声を上げるアインに対し、インスは同じスプーンで自分の口のも同じものを運んでいて……
「……我々は何を見せられているんだろうな……」
「……言うな。本当に、嫌なところがそっくりだ……」
遠い目をして呟いたシリウムに、若干頭痛を堪えるような仕草をしたチェスパスも、シリウムには聞かれないように口の中で小さく漏らす。
チェスパスの頭の中では、かつてインスが幼いころに、同じようなことがあったのが思い出されていた。
「……とりあえず。今後の話をするぞ?」
咳ばらいを一つ。
食事をする二人から若干視線を逸らしてシリウムが言えば、インスは手を止めずに頷き、アインも「はい」と返事をしながらも口に運ばれるまま食事を続ける。
「……インスの怪我は今後はこちらで治療する。アインは、これ以上、左手を酷使するのは禁止だ……その怪我を治す算段がつくまでは使うな」
「えっ!?」
溜め息を吐いて、話し始めたシリウムの言葉に、即座にアインが声を上げた。
「私も、それがいいと思います」
「でも!!」
対して、インスの方はすんなりと頷き、納得いかない様子なのはアインだけ。
「……アイン君……」
「……ぁ……」
視線を合わせて、呼び掛けたインスを見て、アインは言葉を飲み込む。
「先ほども言ったでしょう? 頑張るのはいいですけれども、無理はしないで下さい。と……」
微かに眉を寄せ、悲しそうに微笑まれて、アインは完全に沈黙した。
((……強い……))
様子を見ていたシリウムとチェスパスは感心半分。呆れ半分で同じことを思う。
ちらりと視線で会話して、同じことを感じていると確信した。
第6章第3話をお読みいただきありがとうございます。
アインが無事に目を覚まし、病室に少しだけ平穏な時間が戻ってきました。
……が、そこで繰り広げられたのはインスによる「微笑みの無双」と、まさかの食事介助(笑)
彼がこれほどまでに感情(と独占欲?)を露わにするのは、それだけ前話での「誓い」が重かったからでしょう。
重鎮二人を遠い目にさせ、アインをすっかり懐柔してしまうインスの手腕。
もはや「慈愛」を超えた何かを感じざるを得ませんね……。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




