第5話・救済と断罪の境界線~異変がないという異変~
第5章 極限の先にあるものは
第5話・救済と断罪の境界線~異変がないという異変~
増員で配置しておいた神官呪師からの呼び出しで病室に来たシリウムは、ベッドに横たわったままのインスが想定以上に弱った様子なのを見て眉間に皴を寄せる。
明らかに回復魔法を受けたことによる疲労とは違う。
「……何があった?」
シリウムからの問いかけに、目を伏せて曖昧に首を振るインスは何も言わない。
ただ、瞳に……アインがよくしているのと同じ、探るような怯えが見える。
(……これは……)
報告によれば、いつものように悪夢にうなされていたインスが、急に悲鳴を上げて跳ねるように目を覚まし、周囲を伺っていた。とのこと。
状況から考えて、見ていた夢を覚えているのだろう。
その夢の中で、おそらく周囲を警戒せざるを得ない何かがあった。と言うことだ。
「……怪我の状態はどうだ? 痺れは?」
そっと、気づかれないように溜め息を一つ。
インスには見えないように手で周囲に合図を出して、注意を引き付けるために問いかける。
「……しびれ……? ……ぁ……」
パチパチと瞬きして言葉を反芻したインスは、そこでようやく、ここ数日ずっと感じていた腕の重みと痺れが取れていることに気付いた。
確かに、まだ肩の怪我は残っているので、下手に動かすと全身を貫かれるような痛みを感じるが、じっとしていればずいぶん楽になっている。
「……そうか……最悪は脱したようだな……」
説明に、シリウムもホッと表情を緩め、視線がアインの方へと動いた。
つられたようにインスも左手側のベッドに向き直る。
シリウムはアインの左手側へと回り込み、慎重に診察を行う。
回復魔法を使った後、意識を失ったアインの方は夢も見ずに眠り続けているようで、室内で様子を見守っていた看護要員の神官呪師たちからも異変の報告はない。
いや。悪夢にうなされることもなく眠っていられるのは、ここ半月ほどの間では珍しいため、ある意味、それが異変か……
代わりと言っては何だが、今度はインスの方が悪夢に精神をすり減らされている様子であるのが何とも言えない。
(……インスとアインの血から生まれたという水の聖霊はもういない。インスの体内に残っていた魔力の残滓も……おそらくアインのかけた回復魔法で消えたはず……アインの方が悪夢にうなされないのは今夜は疲れすぎているから。と言う可能性もあるが……)
診察を終えて、ふむ……と考え込むシリウムを、インスが不安を宿した目で見つめる。
何も言わずにじっと見つめてくるところを見ると、やはり相当参っているのだろう。
(魔力的な繋がりが断たれ、水の聖霊に悪夢を無理やり見せられたインスの方にだけ残った……という可能性も皆無ではないが……)
正直、考えにくい。
結論を出すには、まだ事例が少なすぎる。
「……眠れないのなら、薬を出すか?」
「っ……!?」
視線を合わせて問いかければ、大げさなくらいにびくりと震えたインスの目に、明らかな怯えが浮かぶ。
「インス……?」
「……っ……」
思わぬ反応に目を丸くしたシリウムが呼び掛けるが、小さく震えて、必死に息をするインスからの答えはない。
口を開きかけて、溜め息を飲み込んだシリウムが後ろ手で合図をすると、一人の神官呪師が気づかれないように眠りの魔法をかけた。
「……ぁ……?」
インスが気付いた時には、全身を包んだ魔法によって、抗えない眠りに誘われる。
「とりあえず、もう少し寝てろ」
遠のく意識の片隅で、シリウムがそう告げたのが聞こえた。
第5章第5話をお読みいただきありがとうございます。
アインの治療により、インスの右肩の痺れはようやく癒えました。
しかし、身体的な回復とは裏腹に、インスの瞳にはアインが抱えていたものと同じ「怯え」が宿り始めています。
悪夢から解放されたアインと、新たに悪夢に呑み込まれていくインス。
二人の状況が鏡合わせのように入れ替わってしまった現状に、シリウムの苦悩も深まります。
インスが見た悪夢の残滓が、彼をどこまで追い詰めるのか……?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
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【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




