第3話・奇跡の不在と不審の苗床~神職者たちの知る事実~
第5章 極限の先にあるものは
第3話・奇跡の不在と不審の苗床~神職者たちの知る事実~
深夜にまで及んだ処置が終了し、青い顔で眠るインスとアインを別々のベッドに寝かせたまま、シリウムとチェスパスは一旦仮眠室へと移動する。
二人の様子は部屋付きの看護要員の神官呪師と、緊急対応用に追加の人員を配置して、何かあればすぐに知らせるようにと厳命しておく。
「……それで、どうだった?」
仮眠室のテーブルセットに向かい合って座り、疲れたように息を吐いた後、先にシリウムが口火を切った。
「内部組織の修復は確認できた。が、まだ完治には至っていないのは知っての通りだ……神経系の修復などに関しては、麻酔が切れた後、ラント呪師にも聞かなければはっきりとしたことは言えないだろう」
「……そうか……つまり、そういうことだな……?」
同じように疲れを隠さない溜め息を一つ漏らして、答えたチェスパスの言葉にシリウムはもう一度溜め息を吐く。
「……ああ。前の事件で、アインが起こしたとされる『奇跡』は起きていない……普通の回復魔法の範囲だ」
前の事件。
二か月ほど前に起こった魔族による事件で、アインは二度、奇跡のような回復をもたらした。とされている。
一度目は魔族によって共に連れ込まれたインスにかけられた回復魔法。
拘束され、蠱毒の呪いにかけられた子供たちに切り刻まれて深手を負っていたインスに、アインが回復魔法をかけた。
その結果、酷い怪我を、インスに負担なくあらかた治療を完了させていた。
完全に治療しきれていなかったのは、拘束魔法が同時にインスを攻撃する魔法にもなっていたから。
治した傍から傷つけられていたようなもので、流石にそこまでは無理だったのだろう。
二度目は、心を奪われ、抜け殻になっていたアインの体を魔族が操り、皇孫皇女であるジャンヌを刺させた時。
抜け殻のはずの体が白く光る涙を零し、ジャンヌの怪我も、他の者の怪我も、どころか『疲労』さえもを癒したという。
アインを操っていた魔族は、その現象を『水の神剣』によるものと言って、アインに持たせていたナイフを、そのままアインの胸に刺した。
まだ残るアインの胸の怪我はその時のものだ。
けれど今回。アインに使わせた回復魔法は、そんな『奇跡的』な効果をもたらさなかった。
アイン自身の魔力と、回復魔法で必要になる神族から借りた魔力。
それらに、インスの肩の怪我に残っていた、水の神剣の力が残る魔力を絡めとって構成された……ごく一般的な回復魔法として発動した。
こうなってくると、アインが起こしたとされる『奇跡的な回復』がどのような条件下で起こされているのかがわからない。
水の神剣が力を貸した時に発動するのか……いや。だが……
「……猊下が仰っていたことが真実なのだとすると、魔族はなぜジャネット皇女らを治療した時に『水の神剣』だと言い出したのか……」
頭痛を堪えるような仕草をしたシリウムの向かいで、チェスパスも眉間を揉む。
そう。神殿の上層部にだけ共有された、教皇・ステラ=シアスからの情報。
その情報が正しいのだとすると、魔族の発言はおかしいのだ。
魔族が知らなかっただけかもしれないが、今度はなぜ、魔族はアインが『水の神剣の使い手だ』と知っていたのかという疑問が浮かぶ。
何しろ、アインが水の神剣の使い手に選ばれていることを知る者は本当に少ない。
神殿上層部と、皇帝陛下とその最側近と言った皇宮の最上層部。
あとは、ジャンヌが話してしまったことで知ったインスと。
残りは皇宮呪師長のキプラ=ペンティスだけだ。
神剣に関して、というだけなら、ジャンヌがインスに相談を持ち掛けた時に同席していた皇宮護衛官のステールと。
皇宮内神殿の医務殿総括の医呪神官・ウスニー=メンテも治療の一環として確認した結果、インスから少しだけ話を聞いているが、彼らはアインが水の神剣の使い手として選ばれていることまでは知らない。
分からないことばかりが積み重なり、起きてはならない異変が続きすぎている。
「……廃離宮の西の塔がある小島の池に水の聖霊が誕生していた。というのも驚きだったがな……」
夕方の診察の際に、キプラからの許可を伝えてインスから聞き出した情報。
水の聖霊が誕生していて、その誕生のプロセスにインス自身の血と、水の神剣の力が宿るアインの血とが利用されていたのだというから驚きだ。
更に、その水の聖霊がインスから魔力を奪うのと引き換えに、アインが見ている悪夢や塔でジャンヌたちが魔族と戦った時に何が起きたのかを見せられ、そのせいでインス自身の精神状態も最悪に近くなっていたのがようやくわかったところ。
怒りに任せて聖霊を消滅させるほどの力を使わせて、聖霊の最期の反撃で負ったのがインスの右肩の怪我だった。
最初に聞いた時には何をやっているんだと呆れたものだが、聖霊が何をしたのかを事細かに聞き出してみればインスの気持ちもよく分かる。
むしろ、思い出したくもないと言っていた悪夢の内容を聞き出して、自分たちまで気分が悪くなったくらいだ。
当然だが、話し始めるまでずいぶんと渋っていたインスは半ば逆切れ状態。
そんなに聞きたいのなら……と怒りを隠さない笑顔で本当に事細かに語って聞かせていた。
「……一体全体。今の世で何が起きているのか……」
疲れたように呟くチェスパスに、シリウムも無言で頷く。
もはや二人共溜め息しか出ない。
流石に、心身ともに疲労困憊。
二人とも、早々にベッドに入って仮眠を取ることにした。
第5章第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、治療後のシリウムとチェスパスによる「事後検証」をお届けしました。
アインの力にまつわる謎や、インスが廃離宮で経験した壮絶な出来事など、重要な情報が次々と明かされました。
心身ともに限界を迎えた彼らに、安らぎの朝は訪れるのでしょうか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




