第2話・神の奇跡と呼ばれる白の~命を削る静かな闘い~
第5章 極限の先にあるものは
第2話・神の奇跡と呼ばれる白の~命を削る静かな闘い~
回復魔法は、神の奇跡とも呼ばれる白魔法の一種。
だから呪文の詠唱は『神語』と呼ばれる言語で祈りを捧げるようにして行われる。
緩やかに紡がれるその音色に合わせて、ゆっくりと両手の指で描き出される呪印が時折動きを止め、たどたどしく形を作っていく。
動きが止まるたびに短く息を飲み、痛みを堪えるように奥歯を噛みしめて……ジワリと滲む左腕の怪我からの出血が増えて、ぽたりとリネンに赤いシミを作り出す。
額に浮かぶ汗が滲むようなものから玉のようなものに変わって行き、時折びくりと、微かに震えながらも詠唱を止めようとはしない。
集中力を限界まで高めて魔法を構築していくアインを、インスはもちろん、シリウムとチェスパスも息を潜めて見つめる。
真剣に、インスの肩に残る霞のような魔力を見者の『目』で視認して、欠片も残さないようにと自身の魔力で絡めとり、慎重に引きはがして構成に組み込む。
(……っ……!?)
怪我に残る魔力への干渉が始まると、一瞬インスもピクリと反応する。
絡みつく残滓。残滓でしかないはずのそれが剥がされていくたびに鈍い痛みを感じて、それをアインに気付かれないようにとグッと、左手で肘掛を握りしめた。
アインの方もやることが増えている分、普通に魔法を使うよりも呪文の詠唱は増え、呪印も複雑化し、集中力も、精神力も、必要になる魔力もどんどん増えて、それを支えるための体力も消耗していく。
白い顔がなおさら白く青ざめて、呼吸が乱れ、微かに痙攣するかのような震えが全身に走る。
やがて、目には見えない。けれども確かな魔法の『形』が作られた。
最後にインスの肩に両掌を翳す様にして動きを止める。
「っ。……回復……」
真っ青な顔で、一度息を飲みこんで、合図の言葉が紡がれた。
白い光が翳したアインの手とインスの肩を包み込む。
「……っ……」
インスはジワリと、身体の奥に熱を感じた。
急激に疲労感がのしかかってきて、うっすらと額に汗が浮かび始める。
緻密な魔力をコントロールし続けて、繊細に治療を施すアインはインスの様子を気にかける余裕がない。
本来であれば、ちゃんと確認しながら進めていかなければいけないのだが、完全に力の残滓を剥がしきることと、一番重要な箇所である神経の修復に心血を注いでいて、インスの表情や動きにまで気づけない。
「……………」
「……待って……まだ、大丈夫です……」
「お前な……」
口を挟みかけたシリウムを、痛みを堪え、かすかに震えるインスが止める。
呆れたようにシリウムはインスを睨むが、見つめ返すインスの目は真剣。
「……アイン君が、まだ、頑張ってくれているんです……私も、まだ大丈夫です……」
徐々に、腕の重さや痺れが取れてくるのを感じながら……同時に急激にのしかかってくる疲労感も分かった上で……もう少しだけ。と頼み込む。
「「……………」」
一瞬視線で会話を交わしたシリウムとチェスパスは、仕方ないともう少しだけ中断させるのを待つ。
「そこまでだ」
けれど、それからいくらもしないうちにインスもアインも苦し気に息を乱し始め、インスの意識が一瞬遠のきかかったのを察した瞬間、アインの肩を引く。
「っ! ……ぁ……?」
「っ!? アインく……っ!?」
ハッとしたアインが魔法を止め、同時にぐらりと倒れかかった。
インスが抱き止めようと動くが、こちらもくらりと眩暈に襲われてしまう。
アインは肩を引いたシリウムが、インスはチェスパスが、それぞれを抱き止めた。
そのままアインはベッドに横たえられ、インスは椅子の背にもう一度持たれかけさせる。
「……アイン君、は……?」
「気を失った。……完全に傷が開いてるな……縫合し直す必要がある……」
荒く息を乱して、青い顔で安否を問うインスに対し、短く応えたシリウムはすぐに部屋の外に待機させていた医師らを中に入れる。
「インゼラ大神官」
「わかっている。こちらは私が受け持とう」
準備を整える間に呼び掛けたシリウムに対し、皆まで言わせずにインスの方の処置を受け持つと答えたチェスパスは、すぐにそちらの補助に付く者らに指示を出し、簡易ベッドを運び込ませてインスを移動させる。
されるがままに横たえられたインスも意識がもうろうとしていて、薄く開いた視界の中で、アインへの処置が始まるのを辛うじてとらえる。
「……い……っ!!」
手早く包帯が解かれ、露わになった傷に遠慮なく薬をかけられて、短い悲鳴とともに体が跳ねた。
「すぐに治まる。耐えろ」
あっさりというチェスパスはインスが動かないように体を押さえさせ、精霊補助師に栄養薬を吸引させるように指示する。
最初にかけられた薬に麻酔の効果もあったのか、腕の感覚がなくなって行った。
霧状にされた栄養薬を空気と共に吸わされて、少しずつ落ち着いて来る。
けれど、やはり体力の限界を超えていたようで、呼吸が落ち着いたころにはインスも意識を失っていた。
第5章第2話をお読みいただきありがとうございます。
ついに始まった「白の奇跡」による治療。
しかし、それは美しき祈りなどではなく、文字通り互いの命を削り合うような過酷な闘いとなりました。
自身の傷が開きながらも必死に魔法を紡ぐアインと、急激な体力消耗に耐えながら彼を信じ抜こうとするインス。
果たして治療の結果はどうなったのか。
そして、開いてしまったアインの傷の行方は……?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




