第1話・諦念あれども繰り返し~それでも揺らがぬ眼差しに~
第5章 極限の先にあるものは
第1話・諦念あれども繰り返し~それでも揺らがぬ眼差しに~
夕方の診察を終え……その時にインスはまた別室に連れ出されて色々と話しをすることになった……夕食も終えたところで、医呪神官長のシリウムが、大神官のチェスパス=インゼラを伴って病室を訪れた。
皇宮側からの了承も取れて……インスから廃離宮で何があったのかもすべて聞き出し……アインに回復魔法をかけさせることになった。
そうは言っても、何が起こるかわからないので、シリウムと同じく医呪神官であるチェスパスも同席している。
そして今。
「もう一度、確認するぞ?」
「はい」
厳しい目でアインを見て言うシリウムに、アインの方も緊張した表情で、けれどもしっかりと頷く。
同じやり取りはもうすでに四回目で、黙って様子を見ているインスは苦笑い。
チェスパスも、ここに連れてこられて二度目のやり取りを見せられて若干呆れの視線をシリウムに向けている。
「インスの怪我に、お前の中の神剣の魔力が、微量ではあるが残留している。間違えないな?」
「はい。本当に、ちょっとだけですけれど、間違いなくあります」
霞のような魔力の痕跡。
すぐに空気に溶けて消えてしまいそうなほど僅かでしかないのに、まるで絡みつくように巣食っているそれは、ともすれば見落としてしまいそうなもの。
けれど、確実に存在していて、しかも位置が最悪。
「場所は体の奥の方で、そのせいで痺れも取れていない」
「はい。そのままだと、きっと表面的には治っても、ずっと痺れが残ったままになってしまいます」
神経の位置に絡んでいて、それ以外の組織を完治させられても後遺症が残る。
「そうは言っても、神経の修復を伴う回復魔法をかけるとなると、お前自身にも大きな負担がかかる」
「はい。でも、頑張ります」
ちょっとした擦り傷やら切り傷であるならともかく、貫通傷の治療となると、術者側への負担も大きくなるのは必然。
しかも今回は単に傷を治せばよいわけではなく、傷ついて、更に魔力の残滓が絡みついている神経の修復も行わなければならない。
ただでさえ難しい治療が、数十倍の難易度になってしまっている。
もちろん、きちんと理解しているアインは、それでも。と真剣に頷く。
「……呪印を描く必要もある……お前は腕に怪我をしているだろう……?」
「……はい。だから、時間はかかってしまいます……」
ムッと、眉を顰め、声を低くしたシリウムに、アインも少し、強張った表情になる。
そう。治らない左腕の怪我を抱えたまま呪印を描こうとすれば、当然傷に響く。
それでなくてもいまだに……もうすでに二か月近く経っているのに……滲むような出血が止まらない、一切治って行かない怪我を抱えて腕を動かせば、縫合してある傷が開くだろう。
けれど、だからといって「やめる。」とは言わない。
むしろ、時間がかかってもやり遂げるという決意を見せる。
シリウムは溜め息を漏らした。
「……お前……いつの間にそんなに頑固になった……?」
「……え? ……あ……ごめんなさい……」
言われて目を丸くしたアインは、ハッとして俯いた。
「……でも……」
泣きそうになって、それでも泣くことなく、顔を上げる。
「でも、僕がやるのが一番いいはずです……」
告げる声は不安げに揺れて、けれども目は逸らさない。
シリウムはまたしても溜め息を漏らす。
「もう一つ聞くぞ」
「……はい……」
再び睨むようにしてアインを見たシリウムに、アインの方も再び緊張した。
「……回復魔法は、患者の体力が必要だということは知っているな?」
「……はい」
確認に、基礎の基礎である情報をなぜ? と思いながらも頷く。
「場合によっては、インスの方の体力が持たない可能性もある……どちらかが危険そうだと判断したら途中でも止めるぞ?」
「! ……はい……」
言われて、ハッとしたアインはこれまで以上に真剣な表情で頷いた。
そう。回復魔法は患者自身が持つ治癒力を高めて怪我や病気を治す魔法。
治癒力を支える体力や生命力が欠けた相手にはかけれない。
そんなことをしたら最悪、救うべき相手を殺してしまう。
だから、危険と判断したら止める。
「……それで? そろそろ始められそうですか……?」
やり取りを苦笑いで見ていたインスが口を挟む。
「いや……だが……」
「ゾナール神官長。キリがないぞ?」
いまだに腕を組み、渋るシリウムに、チェスパスが呆れを隠さないで言えば、流石に観念するしかない。
「インス。お前は椅子にもたれるようにして、身体の力を抜いておけ。アイン、止めたらちゃんと中断しろ……絶対に、無理に続けようとするな」
シリウムの言葉に頷いて、それぞれが指示に従って配置に付く。
インスはベッド脇に運ばれたゆったりともたれかかることのできる椅子に座り、アインはベッドの上にペタリと座って、インスに向き直る。
「……始めます……」
シリウムが頷いたのを確認して、アインはそう宣言してから呪文を唱え始めた。
第5章第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、インスの治療に向けて最終確認を行う医務殿での一コマです。
ついに始まったインスの本格治療。
しかし、その難易度は「神経の修復」と「神剣の魔力残滓」という、絶望的なまでに高い壁でした。
かつては自分の意見を口にすることすら躊躇っていたアインが、シリウムを前にしても引かない「頑固さ」を見せたシーンが印象的ですね。
患者であるインスの体力、そして術者であるアインへの負荷。
一瞬の油断も許されない、静かな、けれど壮絶な戦いの幕が上がります。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




