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第5話・犠牲と言う名の正義の本質~視点が変われば入れ替わる~

第4章 眩いからこそ深くなる



    第5話・犠牲と言う名の正義の本質~視点が変われば入れ替わる~



 インスが抜き出したのは、今朝、アインが一番最初に読んでいた本。



『浄化の巫女と闇の終焉』



 水の乙女・ライラが命を賭して、闇に染められ、堕ちた友人を清め、多くの人を救った。



「……例えば、このお話しでは、水の乙女は己の命を犠牲にして、闇に堕ちた()()を救っています」



 告げるインスの目が若干冷たい光を帯びる。



「……インス様……?」



 首を傾げて呼び掛けるアインに、インスはふわりとほほ笑んで……その時にはそんなことは感じられなくて……気のせいだったのかな? と少し疑問には思うけれど、口に出しては聞けない。



 そんなアインの戸惑う様子を優しく見つめながら、インスはゆっくりと話し始める。



「多くの人は水の乙女の行いを『正義』だというでしょう。けれど、彼女を大切に思っていた人たちから見れば、自分を犠牲にするようなその行いは『悪』とも取れます」


「……ぇ……?」



 息を飲み、目を丸くしたのはアインだけではなかった。



 部屋付きの看護要員の神官もまた、いきなり何を言い出したのかと目を丸くする。



「だって、そうでしょう? 水の乙女の『友人』だという方は、闇に染まり、堕ち、多くの犠牲を出した罪びとです……なぜ、その一人のために水の乙女()()が、命を捧げなければいけないのです?」



 結果的には多くの人を救ってはいる。


 けれど『誰かにとって』替えの利かない一人が犠牲になってもいる。



 そこに、正義はあるのか……?



「暁の女王は、ある意味とても()()で、ある意味とても()()です……世界の安寧のために、一人の犠牲で多くを救う道を示したのですから……そこに彼女を『想う』者の気持ちを考慮さえしなければ、ええ。正しい選択でしょう……」



 そう。選択としては正しい。


 そして他の方法では難しかったのだろうということも、わかる。



 けれど……



 この本に書かれている内容が、神話の時代の真実なのだとしたら、他の者は何をしていたのだろう? とも思う。



 たった一人の、友人であるという女性にだけすべてを背負わせ、命を投げ出させて、その後に残った結果だけを何の疑問も遠慮もなく受け取る?



 冗談ではない。



「……インス様は、ライラ様がお嫌いなのですか……?」



 あまりにもいつも通りに微笑んで、優しい声音で言われて、アインの口から疑問の言葉が零れ落ちた。



「いいえ? 私は水の乙女を嫌ってはいませんよ? 行いが正しかったことも認めています……けれど……」



 答えるインスの視線が、目を丸くしたまま二人を見つめている看護要員の神官を捉える。



「どうして『誰かが水の乙女を手伝った。』とは記されていないのかな? と思ったことがあるだけです」



 そう。水の乙女が堕ちた友人を救った後に、女神の巫女や神剣の騎士は救われた友人と共に、その友人を闇に染める原因となったものを封じた。とだけ、この物語には書かれている。




 なぜ、もっと早くに手伝わなかったのか?



――そうしていたら、水の乙女は命を落とすことはなかったかもしれない。



 何らかの理由があるのなら、どうしてそれが書かれていないのか?



――書けない理由が何かあるのか?




 言われてみれば、確かに。とアインも神官も気づく。



「……だから、私がこのお話にあまり良い印象が持てないのはそのせいですね……気になる点がおかしいのかもしれませんが……」



 苦笑して言うインスに、けれど『視点』を与えられた二人はむしろ納得する。



 犠牲を一人でも減らしたいのなら、誰か一人に任せるよりも、できることは協力した方がよいに決まっている。



 実際に教義にもそうある。



 他にも神話を題材にした物語は多くあるけれど、たった一人にすべてを任せ、その一人の犠牲で多くを救うようなものはない。



 どちらかと言えば、すべての者が、己ができることを精一杯することで、より多くのものを救うことができ、より幸せになれる。



 というものが多い。



 この話だけが異質なのだ。



「水の乙女は『己の正義』を貫いたのでしょう。そして、他の者たちも『それぞれの正義』を貫いた……そこに『善悪』を問うのは無意味です。だから、アイン君は『アイン君の正義』を貫いてよいのですよ」



 視線をアインに戻して、にこりと笑うインスに何とも言えない、不思議な気持ちが心に浮かぶ。



 言っていることはおかしくないのに、何かがおかしい……そんな気分にさせられて、アインも素直に頷けない。



「……急には難しいかもしれません。ですが、知っていれば、考えることもできるでしょう?」



 困惑した様子を隠さないアインを見て、インスもまた苦笑する。



 何とか曖昧に頷いて、アインはテーブルの上に置かれた本に視線を移す。



 神の教えを元に書かれた数多くの本の、そのごく一部でしかないそれに、不思議と怖さを感じる。



 その理由が分からなくて、微かに眉を顰めた。



 困惑する様が手に取るようにわかって、インスは内心「話し過ぎたな……。」と反省する。



 部屋付きの神官に、休憩を。と目で告げて、お茶の準備がされるのを待った。


第4章第5話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、神話に隠された「犠牲」と「正義」について、インスが新たな視点を投げかけるエピソードでした。


当然の美談だと思っていた物語に疑問を呈するインスの言葉は、確かに筋が通っているものの、アインにはどこか不思議な違和感(怖さ)として響いたようです。


インスの言葉にはなるほどと思わされる反面、少しヒヤリとするような迫力がありましたね。


アインを戸惑わせてしまい、内心で少し反省するインスの姿も印象的でした。


お茶の時間を挟んで、この後どうなるのか?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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