第1話・不穏の影に抱かれて~呪師を瞑らす役目を負った~
第1章 遭遇するのは貴き碧
第1話・不穏の影に抱かれて~呪師を瞑らす役目を負った~
「そういうわけで、今日は廃離宮です」
「……………」
疲れた顔を隠しもしないインスから、今朝のキプラとのやり取りと任務内容を聞かされた今日のインスの担当皇宮護衛官……引きがいいのか悪いのか、やっぱり今回も担当になってしまった……ステールは渋い顔をして沈黙した。
よりにもよってまた。という思いと、明らかに疲労が抜けていない様子のインスを見て何とも言えない気持ちになる。
あの御仁。後継になりえる者を抹殺したいのか?
と穿った考えをしてしまうくらいにはここ最近のインスへの任務の割り振りが露骨すぎる。
その上で、それでも何とか出来てしまっているから続くのだろうな。と言うのもあって、何とも言えない状況。
それに、キプラの言い分も、その割り振りが正しいのも分かるのだ。
それでなくても五年前に多くの熟練の呪師やら、優秀な騎士やら、護衛官が大勢死亡する事件があって……皇太子夫妻も巻き込まれて亡くなった事件……実戦経験豊富な、様々な任務に携われる人材の不足が問題視されている。
当然、その問題を解決するためには、まだ若く、色々な経験をさせることで成長が見込める者に多くの任務を体験させなければならない。
だから若手の皇宮呪師らを中心に、多くの者が様々な現場に割り振られていて、インス一人が無茶ぶりをされているわけではない。
ちなみに、無理だと明確に分かった任務には以降は割り振られないので、そういう意味でも平等ではある。
「……大丈夫なのか?」
「……………」
一応確認すると、インスはそっと目を逸らす。
思った通り、相当危険度が高いようだ。
「ですが、行かないわけにはいかないので……」
溜め息を一つ。
告げたインスを連れて、ステールは皇宮を出た。
「……今日はどうするんだ?」
「直行で」
出たところで、主神殿に寄ってから行くのかを確かめると、インスは真っ直ぐ旧都に向かうよう告げる。
軽く片眉を跳ね上げて訝るが、そういえばここ最近のインスは夜間は主神殿に出向していたなと思い出す。
おそらく、いずれ見回りに行かなければならなくなると見越して、事前に準備をしておいたのだろう。
そして、それをキプラも把握しているからこそ今日なのだろう。
二人は一頭の馬に同乗して、皇都・アンシェから旧都・アンヴァに向かった。
一週間ほど前に向かった時と同様、街道から旧道に入る直前で一旦休憩を取り、そこでステールはインスから護符を受け取る。
その場で首から下げて、即座に複十字を切って神に祈った。
長々と祈りを捧げるステールの様子を若干呆れて眺めながら、インスは馬に水とリンゴを振舞い、その首筋を撫でてやる。
新鮮な水とおいしいリンゴを与えられた馬が喜んで鼻先を寄せてくると、そこも撫でてやって、切り分けたリンゴの一切れをステールに投げつけた。
「っ! 危ないな……」
「いつまで祈っているんですか……」
魔法を使わず、直接手で投げつけてやったのに……一応、手は洗ってから投げてやった…………危なげなく受け止めたステールが文句をつける。
不満げな様子を隠しもしないインスが睨んでくるのを見て、ちょっと笑った。
考えてみれば、こいつもずいぶん変わったな……と感慨深くなる。
親戚のおじさんか年の離れた兄のような心理になっていることに気づいて、ステールは内心気を引き締めた。
護衛官は呪師に必要以上の情を寄せるわけにはいかない立場だ。
なぜなら、万が一、呪師が意図的にその魔法の力を悪用したり、魔法を暴走させてしまって、他の呪師では火消しができないとなった場合に、該当の呪師を『始末』する役割を担っているから。
けれど同時に、一緒に生死を分かつような場面を乗り越えることも多くあるので、一切の情を抱かない。と言うのは不可能。
その境界線を越えないように意識し続ける必要があった。
「で、今回はどうするんだ? 塔に近づくのはヤバいだろう?」
出発を告げたステールは、馬の背にインスを引き上げながら問いかける。
「……そうなんですけれど、ね……」
ステールの後ろに腰を下ろして、インスは溜め息を漏らす。
遠目からの確認では絶対に確かめられない、一番問題の場所と言うのが廃離宮西の塔の内部。
先日確認した際も、外と中の魔力濃度の差は明白で、内部を確認せずに終わらせるわけにはいかない。
最悪、あの場に残るその濃密な魔力から、何らかの魔物が発生しかかっていたり、既に発生している可能性もある。
「……とりあえず、ステールさんは近づかないでください……正直、前回と同じ状況に陥るのはキツいです……」
返答に思わず顔を顰める。
確かに、同じ状況に陥るのはステール自身もごめんだし、今日のインスの様子を見るに、万が一、同じ事態に陥った時に同じ方法で切り抜けられるかわからない。
そう考えれば、ステール自身は塔がある小島自体に足を踏み入れない方がよいだろう。
けれど……
「……お前が魔力に充てられて、もし魔法を暴発させる事態になったらどうする気だ……?」
その可能性は、前回もあった。
もしそうなった場合、止めようがないというのも分かっている。
「その時は、ステールさんが射殺してください」
「…………」
あっさりと告げるインスに沈黙で返す。
近づけないなら遠くから矢で射って止める。
それが可能なだけの技術をステールが持っていることをインスも知っているからこその発言。
もし、万が一インスが魔法を暴走させて、止めようがない状態に陥ってしまったら……急所を射抜いて殺すことでしか止められないとなれば……それをするのが護衛官の務めだ。
「……私を、加害者にしないで下さい……」
そっと、囁くように呟くインスに、答えを返すことはできない。
そう。呪師側も、ちゃんと理解しているのだ。
護衛官がなぜ、万が一の場合は呪師を殺してでも止めるのか。
それは、無用な犠牲を生まないためであると。
犠牲者と言う名の被害者と、加害者と言う名の被害者。
その、どちらも生み出さないために、万が一の時に止める役目。
呪師が望まず『加害者』になることを防ぐために、代わりに『呪師殺しの加害者』となること。
望まぬ状況から、呪師の魂を救済すること。
それが『護衛官』に課せられた務め。
お互いにわかってはいる。
けれど、だからといって簡単に割り切れるものでもない。
そこから先は無言のまま。
重苦しい沈黙は旧都の廃離宮に到着するまで続いた。
第1章第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、この世界の「呪師」と「護衛官」が抱える過酷な側面が描かれました。
リンゴを投げ合うような少し砕けたやり取りの裏で、交わされる「万が一」の約束。
インスの不憫さは相変わらずですが、ステールの抱える葛藤もまた、この任務の重さを際立たせています。
重苦しい沈黙を抱えたまま、二人は因縁の場所へと到着します。
果たして無事に任務を遂行できるのか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




