第3話・秋色深く薫る日の~斜陽に沈む呪師長室で~
第4章 眩いからこそ深くなる
第3話・秋色深く薫る日の~斜陽に沈む呪師長室で~
主神殿から届けられた書簡を前に、皇宮呪師長・キプラ=ペンティスは目を細めた。
差出人は主神殿・医務殿総括の医呪神官長・シリウム=ゾナール。
今朝、医務殿に届けさせた書簡の返事だろうと、開いて中身を見る。
「……ほう……?」
見て、「面白いことを言い出したな。」と、口元に笑みを浮かべた。
問い合わせたのは皇宮呪師であるインス=ラントの退院時期。
先日、皇都西方にある廃離宮の調査に行かせた彼が、そこで何かに怪我を負わされたらしい。
その前にも連日の任務で何度も命を危うくしていたインスの疲労は限界で、魔法による治療は許可できない。とのことで入院となったのだが……
(二日も休めばある程度回復は可能なはず……それなのに、まだ時期の確定はできない。とは……)
つまりは、廃離宮でインスにも想定できなかった『何か』があったということ。
その詳細に関する報告も、インスが退院してからしか受けられないので、今はキプラにもわからない。なのに……
(先に廃離宮の調査で何があったのかを神殿側に共有させろ。ですか……治療に関わる何かがあった。とみるべきでしょうね……)
シリウムが、越権となるような行為はしない人物であると理解しているがゆえにそう判断する。
その上で、必要があれば『先行開示』が可能であるはずなのに、インスがシリウムにも話していないこともこの書簡の内容から読み取れた。
シリウムは情報を『必要』と判断し、逆にインスは治療には『不要』と判断しているということ。
インスが『言わない』と判断したことをシリウムが『言わせる』ためにキプラに対して『許可を出せ』と要求してきた。
要するに、直接的には治療には関係しない。けれども何らかの関りはある。ということだろう。
さて、どうするか……。それと……
(……水の神剣の力を宿した魔力の残滓……ですか……)
皇宮呪師長であるキプラには、ジャンヌが起こした事件の顛末がきちんと共有されている。
だから、ジャンヌが神剣の封印を解いたことも。その結果、何が起きたのかもすべて知っていた。
当然『神官長』という、神殿側の上層部の一人であるシリウムも知っている。
だから情報を共有してきた。
インスの怪我に水の神剣の力を宿した魔力の残滓があり、治療に時間がかかる可能性を。
そして、その対処法としてアインに回復魔法をかけさせる事を検討している。と……
アインはいまだ見習いの身。
ただし、その才能は本物で、既に正式な呪師に引けを取らない実力を持っている。
けれど同時に、呪師学校の最低入学年齢に満たない、幼い子供。
その扱いに関しては慎重を期さなければならない。ということは、神殿側だけではなく皇宮側も承知している。
その上で、わざわざアインにやらせるということは……
「……いいでしょう……二人の復帰は、私も望むところです……」
呟く声が空気に溶ける。
その浮かべた笑みがとても愉しそうで、誰もいない呪師長室で口元を隠して声を抑えた。
ややあって、ペンを手に書簡の返事を認める。
日差しは午後の半ばを示し、秋の色が濃く薫る風が忍び寄る冬を微かに宿す。
明るいはずの呪師長室がなぜか暗く感じるのは、この部屋の住人であるキプラの浮かべる笑みのせいか。
それとも……
「……さあ、早く戻ってきてください……」
書き終えた書簡に封をしながら、キプラはうっそりと微笑んだ。
第4章第3話をお読みいただきありがとうございます。
今回は皇宮呪師長キプラの視点から、静かだけれど少し不穏(?)な手紙のやり取りをお届けしました。
インスの怪我の理由や、治療にアインがどう関わっていくのか……。
シリウム神官長との探り合いの中で、大人たちの思惑と今後の展開の火種が少しずつ見えてきたかと思います。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
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ノリト&ミコト




