表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

第2話・懸念と疑念・畏怖と危惧~『無き者』に課された唯一の~

第4章 眩いからこそ深くなる



    第2話・懸念と疑念・畏怖と危惧~『無き者』に課された唯一の~



 インスから伝えられたアインの希望を聞いて、シリウムは難しい顔で考え込んだ。



 アインの『授業への復帰』で行う最初の授業は、インスが指導・監督する『攻撃魔法の実践訓練』だ。



 呪師学校の生徒たちは、十五歳の誕生日を迎えて以降、討伐訓練への参加許可が下りる。



 十五歳。と定められているのは、それよりも幼い子供に『命のやり取り』を経験させないため。



 更に、その『最初のひとつ』を魔法で行うことも禁じているのは、その『重み』を理解させるため。



 十五歳以上になって討伐訓練への参加が許可された子供たちは、『最初のひとつ』は携帯した武器を使ってとどめを刺す。



 そうして、「命を奪う。」というのが、どういうものなのかを体験させる。



 その先は三つ。


 二度と討伐に参加できない子供と、重みを理解して乗り越える子供と……それを愉しんでしまう子供。



 最初の二つは問題ない。



 討伐に参加できなくても、呪師ができることはたくさんあるので、そちらに配属させるだけ。


 乗り越えていける子供たちは、そのまま討伐隊に配属し、経験を積んでいくこともあるが、それも強制ではない。



 問題は、愉しんでしまう子供で、そういった子供たちの末路は大体決まっている。



 即ち、歯止めが利かなくなって『魔法の悪用』と判断されるような使い方をし、その時に付いていた『護衛官』によって『始末』されてしまう。



 だからこそ、呪師に付く護衛官は、その呪師を『止められる』だけの実力を持っていることが絶対条件で……実は普通の騎士よりも上位の職務になるので、推薦されるだけでも名誉とされる。



 ところが、アインはまだ五歳ほどとされているにもかかわらず、蠱毒の呪いにかけられ、インスを殺し、そのあと自分たちでも殺し合いをする運命にあった子供たちを三人、()()を使って殺してしまっている。



 呪いにかけられた子供たちの魂の救済とインスの生存という意味では、アインの行いは正しい。



 けれど、まだ幼い子供が、直接自分の手を汚さずに、『最初のひとつ』である命を奪ってしまった。



 その結果、攻撃魔法を使う際に、感情が大きく揺らぐ可能性が高い。



 今後、もう二度と攻撃魔法を使えない可能性。恐れながらも乗り越えられる可能性。


 そして指導役や他の者が一番恐れているのは『何も感じない』で攻撃魔法を使えてしまうこと。



 それは、命を奪うことを愉しんでしまう子供たちよりも厄介だ。



 逆に、アインが命を奪うことを『愉しむ』事だけはないと皆が考えていて、そちらの心配はされていない。



 そして、その心理状態を見て、その先の指導の方針を決める予定でいる。



 それなのに、回復魔法を他人にかける。ということをインスの授業前にやらせて良いものか……



 インスがアインに即答できなかったのも、シリウムが今、考え込んでいるのもすべてはそこが問題だから。



「……とりあえず、神殿内での意見交換をしてからだな。皇宮側への報告がまだの段階で、皇宮側に意見を求めることもできないし……」



 溜め息を一つ。



 ややあってそう告げたシリウムに、インスも黙って頷く。



「そうだ、別件で一つ……」


「まだあるのかよ……」



 頷いて、思い出したように言うインスに、流石にシリウムもうんざりとした顔を隠さない。



「仕方ないでしょう? 思いついてしまったのですから……」



 そんなシリウムの態度に若干不満そうな顔をしたインスは、けれどすぐに真顔になる。



「アイン君の体内に入り込んだという水の神剣は、アイン君を守っている可能性が高いと思います」


「……は……?」



 いきなり飛躍した話に、シリウムは唖然として目を見開いた。



 インスは皇宮呪師である。


 だから本来、神殿の機密に関わることは知りようがない。


 けれど、ある時知り合った皇孫皇女であるジャンヌから色々と相談を受けることが増えて……内緒ではあるがジャンヌの皇城からの脱出にもこっそり手を貸している。



 その結果、国家機密とも言えるような内容をジャンヌ本人から聞かされてしまうこともしばしばあり……ジャンヌが神殿奥の隠された宝物殿に封印されていた神剣の封印を解いたこと。


 その使い手として『誰が』選ばれたのか。


 それぞれが何の神剣で、どのように手にしているのか。などを知っている。



「おそらくですけれど、今、この国……もしかしたらこの大陸全土かもしれませんが……アイン君以外に、水の神剣の使い手になれる存在は、一人も居ないのかもしれません」


「……………」



 どういう意味かと眉を顰めながらも、シリウムは黙って先を促す。



「ジャンヌ様から、アイン君が水の神剣()使い手となることを『強要』されているらしい。と伺った時から、おかしいとは思っていたのですよ……神剣は一体、どんな『基準』でその使い手を選んでいるのだろう? と……」


「……確かにな……」



 封印を解いたジャンヌはわかる。


 何しろ、手に入れるために能動的に動き、その封印を解いた張本人なのだから。



 他のメンバーのうち、リオンも……まあわかる。


 元々、ジャンヌの親友というか悪友というかで、神剣のありかを調べ、ジャンヌに伝えたのは彼だし、案内したのも彼だ。


 ジャンヌと共に神剣の使い手になれるのならば喜んで手にするだろう。


 そのくらい、リオンはジャンヌを大切に思ってもいる。



 次に、ジャンヌの幼馴染でもあり、専属護衛騎士団の団長であるファン卿ディアス。


 ジャンヌを連れ戻すために来た彼が、ジャンヌ一人を危険に晒すような真似は許すはずがない。


 なれるのならばと自分から望むことはわかりきっている。


 そして、実際に神剣の契約者の一人になった。



 残りの二人。



 神殿護衛官で、ファンにスカウトされたがゆえにジャンヌ専属護衛騎士団の一員にもなっていて、ファンと一緒にジャンヌやリオンを連れ戻しに来たクロードは、間違いなく積極的に神剣の契約者になろう。などとは考えない。



 なのに、クロードもその使い手に選ばれ、契約を結んでいる。


 どころかその後、魔族との戦いの最中に、さらに上位の契約ともいえる『誓約』を結んだと報告されていて、その結果、ロングソードの姿をしていた地の神剣が戦斧に姿を変えたのだという。


 その戦闘の後、再び元と同じロングソードの姿にも戻すことができ、任意で変形させられると報告されていた。



 そして、この四人は神剣が封印されていた宝物堂に居た。


 中に居たのはジャンヌとリオンだけで、ファンとクロードは扉の前、外側ではあったが、神剣の至近距離にいたことに違いはない。



 けれど、アインは……



 宝物堂に忍び込もうとしていたジャンヌとリオンに遭遇した結果。


 宝物堂がある東の森の、柵門の前に拘束されて置き去りにされていたところを。


 ジャンヌたちを探しに来たファンたちに発見されて。 


 解放されて戻ろうとしていた。


 そこに、異変を知って駆けつけた神官長の一人から。


 禁則地への侵入と午後の授業への遅刻に関する罰則についての話を後ほど行う。


 と伝えられていた最中に……


 森の奥から飛んできた水の神剣……と思われる重い水の魔力でできた短剣……がいきなり身体に突き刺さり……その体内へと消えていった。



 宝物堂の周りには、駆けつけた神官長たちも居たというのに、彼らの中の誰でもなく、少し離れた場所にいたアインを一目散に目指して、強引に体内に入り込んでまで使い手になることを強要している。



 急に大きな力が、しかも強引に体の中に入ってきたことで、それから数日間はその力に翻弄されて苦しめられたアインは、ようやく落ち着きを取り戻してきた矢先に深夜に皇都にお忍びで出かけたジャンヌを、その『見者』の力を使って探す様にと要請された。



 見つけることはできたものの、街中に結界があり、その中にジャンヌと、同行していたリオンは閉じ込められていて、結界に一時的に穴をあけ、二人を救出した後、結界内では無限に増殖していた黒いカマキリのような魔物に襲われ、退治することを命じられて……



 ジャンヌがアインの肩を掴んではしゃいだせいで使った魔法にジャンヌが纏う女神に守護の魔力が流れ込み、そのコントロールに神経をすり減らして維持する破目になった。



(……そう考えると、ジャンヌ様も相当ですね……)



 ふと気づいてしまって、インスの頭に一瞬、愚痴にも似た思いがよぎる。



 けれど、すぐにそれを振り払った。



 皇孫皇女で女神の巫女でもあるジャンヌに言っても意味はない。



「ですから、おそらく、アイン君以外に、水の神剣の使い手になれる人はいないのだと思います。そして、だから神剣はアイン君を守ってもいる……あれだけの大怪我で、心肺停止してからもずいぶんと時間が経っていたのに、目に見える後遺症も、今のところないのでしょう?」


「そうだ。後遺症がないのももちろんだが、正直、助かる見込みも殆どなかった……」



 インスの言葉にシリウムも頷く。



 そう、普通であれば何らかの後遺症があって当然。どころか、文字通り助かったことすらも奇跡。



「……アイン君が、正気を保っているのも恐らく、そのおかげなのだと思います……」



 幼い子供が、あれだけの惨劇を体験して、ずっと悪夢にうなされているのに……正気である理由。


 それも何らかの形で神剣が、アインの生命だけではなく、その精神こころも守っているからだと考えれば説明がつく。


 同時に、そうまでしてアインを『生かそう』とするのは、それだけの理由があるはずで……



「……だから、アイン以外には使い手になれない……か……」



 シリウムが確認するように言えば、インスも黙って頷く。



――この地の封じを解いてはならない――



 宝物堂で、ジャンヌが神剣の封印を解いた時に姿を現した幻影の天使は、そう言って契約を求めていた。



――疾く、疾く。契約を――



 その場には、当然だがシリウムもいた。


 神殿内の、あってはならない異変だ。


 すべての神官長が招集され、現場に駆けつけたのも当然で。


 だから幻影の天使が急いで契約するように求めたことを知っている。



 そこまではインスは知らないが……何しろ、インスは基本的にジャンヌやリオンからの話しか聞いていない。彼らの知らないことや認識していないことまではわからない……だからこそ、気づけたことでもあった。



 そして逆に、幻影の天使の言葉を知っているシリウムは背に冷たい汗が流れるのを感じる。



――この地の封じを解いてはならない――



 神剣は、なぜ封印されていたのか?


 神剣を使って、何を封じているのか?



(……とんでもない事態になりそうだな……)



 もうすでにとんでもないことが起こってはいるのだが、それ以上に、想像もつかないような事態が起こる予感にシリウムは心の中で溜め息を吐いた。


第4章第2話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、アインの異例の申し出に対し、シリウム神官長とインスが抱える「懸念と疑念」が語られました。


幼くして重い経験をしてしまったアインが魔法を使うことのリスク、そして見習いという立場の難しさが浮き彫りになります。


そして、アインを執拗に選んだ「水の神剣」の謎……。


なぜ、水の神剣はあの日、あまたの神官たちを差し置いてアインを「選んだ」のか。


インスの推論によって、アインと神剣の歪な関係性が少しずつ見えてきました。


身体の後遺症だけでなく、精神こころさえも神剣に守られている(あるいは生かされている)のだとしたら……?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第3弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ